ブッダの髪や体の一部が入っている? 仏塔に祈る63人の少女たちの、ミステリー要素がある異色の写真集
公開日:2024/4/9
安全、平和の貴重さや価値が増している。日本では戦後、戦争こそ経験していないが、海を越えるとあちらこちらで争いが絶えない。例えば、日本と距離が近い東南アジアのミャンマーでは、軍事政権と民族武装組織を加えた抵抗勢力が戦闘を続けている。
このほど、一冊の写真集が上梓された。『ほとけの乙女 ミャンマーの仏塔・寺院と少女たち』(むそうたかし/雷鳥社)は、リアルなミャンマーと仏塔・寺院、そして“祈る少女たち”を収めた一冊。仏塔・寺院と祈りを捧げる多様な少女が数多く掲載されており、彼女たちの表情、姿から安全や平和の尊さを考えさせされる。
日本では仏像のファンは多いが、もしかしたら「仏塔」への馴染みは薄いかもしれない。それも無理がないことかもしれない。実は日本の仏塔としては法隆寺の五重塔が有名だが、全国でその数は少ない。本書によると、ミャンマーに点在する仏塔は仏教の開祖であるブッダの髪など、からだの一部が収められているとされ、現地では仏塔はブッダの化身である。
ブッダと関わることができる仏塔では、少女を含む多くの信者が集団で「ヴィパッサナー瞑想」を行なっている、という。「ヴィパッサナー瞑想」…聞き覚えのない人がほとんどだろう。本書は、インドの古語であるパーリ語で「洞察」を意味し、ブッダが最終的に悟りを開いた瞑想法と説明する。実はこの瞑想法は指導を受けられる施設が世界各国で設けられており、日本にもあるそうだ。かねてより写真家として洞察力に磨きをかけ、可能性を探求したいと望んでいた著者は体験コースに参加し、瞑想中に次のようなビジョンを見た。
太陽の光に照らされた巨大な遺跡を背景に、祈りを捧げる少女の姿
場所もわからず、少女が誰かもわからず。著者は直感を信じてミャンマーに飛ぶ。本書は、テーマ性の高い写真集でありながら、ミステリー要素で読者を惹きつける。本書に登場する祈る少女は63人。年齢も服装も表情も手の合わせ方も様々ではあるが、共通して穏やかな祈りの声が聞こえてきそうだ。
下の公式プロモーション動画で、その一部を体験できる。
著者は幾日も灼熱の日中を走りまわり、限られた期間の中でビジョンの少女を探す。奇跡の出会いを求め続ける最中、五感がかつてないほど研ぎ澄まされ、すこしの情報も見逃すまいと集中力や観察力、洞察力が深いレベルにまで達していた、と振り返る。そして、写真家としての使命に気付く。その答えは、ぜひ本書に当たってほしい。
文=ルートつつみ
@root223