朝、コーヒー飲みたくなるのはなぜ? 料理や、コスメ、日焼け止め、睡眠、掃除など日常を化学する本
公開日:2024/4/7
恥ずかしながら、化学が本当に苦手である。理解できる人に憧れ、真面目に勉強してみたが、どうしてもダメだった。あの時は相当落ち込んだ。そんな身の上ゆえ化学を諦め、アミノ酸や美容液の成分くらいがわかればいいと思いながら生きていた。
そんなある日、この『世界の見え方が変わる特別講義 さぁ、化学に目覚めよう』(ケイト・ビバードーフ:著、梶山あゆみ:訳/山と渓谷社)をおすすめしているポストに出会った。面白い、読みやすいと太鼓判を押されていたものの、実はかなり懐疑的だった。
テキサス大学の准教授である著者は子ども向けのサイエンス本を何冊も執筆し、「化学者ケイト」と親しまれている。火を噴く女性が表紙になっているが、これはなんと本人だそう。本当に、化学オンチでも楽しめるのか、約450ページの分厚い本を果たして読みきれるのかと不安で仕方なかったが、杞憂だった。大変面白く、しっかり全部読めてしまった。
まずは化学の基礎を学ぶ
元素周期表、金属元素、非金属元素、共有結合にイオン結合、化学の授業を少し受けた人なら聞いたことがあるだろう。理科で固体、液体・気体等の状態変化を習った記憶があるかもしれない。冒頭の第Ⅰ部「ひと味違う化学の授業」では、そういった基礎の基礎である知識が説明されている。多少難しいので、理解しきれない人も出てくるだろう。実際私もざっくりとしかわからなかった。ただ、これを超えると、第Ⅱ部「化学はここにも、そこにも、どこにでも」がよりいっそう楽しめることは間違いない。めげそうなら多少飛ばしても問題ないと思う。
朝食やお菓子作り、コスメや睡眠に潜む化学
大変面白かったのは「朝、コーヒー飲みたくなるのはなぜ?」。コーヒーはカフェイン依存を引き起こすとはよく言われていることだが、それはしっかりと化学で解説できる。そもそもカフェインはある種の脳の受容体と結びつく性質を持つ。その受容体は、本来アデノシンという分子と結合するものだ。
通常、アデノシンがその受容体と相互作用すると、私たちはうとうとと眠くなる。
しかしコーヒーを飲んでカフェインを摂ると、アデノシンは受容体と結びつかない。結果どうなるかというと
カフェインが実際に「エネルギーを与えてくれる」わけではなく、眠気を催させるほかの分子を邪魔しているだけなのである。
なんということだろう。コーヒーを飲んで眠気が覚める本当の理由が明かされ、大変な衝撃を受けた。ちなみに、群馬県の発表したデータによるとコーヒー150mlあたり90㎎のカフェインを含んでいるそう。カフェインは一日1~1.5グラム常習的に摂るとカフェイン中毒の状態になるらしいので、一日に何杯も飲んでしまうようなら、少し控えたほうが賢明かもしれない。
他にも料理や、コスメ、日焼け止め、睡眠に掃除、ありとあらゆる身近なところに化学が潜んでいることがわかる。あげていたらきりがないほどだ。
自分に大きなケミストリー=化学反応が起きるかも?
ああ面白かったと、あとがきを読んだら、翻訳者の一言にとても納得した。
日常生活にひそむ化学に目覚めたからといって、当然ながら日常生活そのものが変わるわけではない。だが、目に映る現実をひと皮めくったところで、じつは何が起きているかを教えてくれるのが化学だ。ひとつ知れば、物の見方がひとつ豊かになる。
翻訳者は、この本を通じて、シャワーを浴びたり、ラップをかぶせたりする時に化学を感じるようになったという。まさに私もそうで、化粧しながら、口紅の色素に思いを馳せる。アルコールを飲みながら、これはエタノールなのだと思いながら飲む。
ちなみに、グルタミン酸やミネラルなど日常で聞いたことのある単語も出てくるので、こうした単語を探すのもまた楽しい読み方である。この本を読んで、遠い遠い世界だと思っていた化学がぐっと身近に感じられた。きっとこの現象は、読者のあちこちで起こっているのだろう。それこそ、ケミストリー=化学反応ではないだろうか。
文=宇野なおみ