紫式部『源氏物語 十八帖 松風』あらすじ紹介。ついに愛娘と対面した源氏。正妻に他の女性との子を育ててほしいと依頼すると?
公開日:2024/4/9
平安文学の名作として知られる『源氏物語』は、千年以上たった今でも世界中で読み継がれている作品です。教科書で取り扱われることも多い作品ですが、古文で書かれていることや長編であることから、全文を読んだことがある人は少ないかもしれません。全体のあらすじを知りたいという方のために一章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第18章「松風(まつかぜ)」をご紹介します。
『源氏物語 松風』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
「松風」では、明石の君の葛藤が描かれます。田舎育ちで身分が低いゆえのハングリー精神から高い向上心を持っている明石の君ですが、都会の貴婦人たちに交じることで身の程知らずとバカにされるのではないかと悩むあまり、源氏からの喜ばしいはずの上京の誘いを受け入れることができません。以前は「いい男と結婚できないなら死んだほうがマシ」と言い放っていた明石の君ですが、いざ夢が現実味を帯びると悩みは尽きません。独り言のような苦悩の独白には、単純ではない女心が見事に描かれています。一方で、美しさも才能も備え源氏の相手として申し分ないと事あるごとに評されるあたりは、作者・紫式部の思い入れのある人物であることも窺わせます。
これまでのあらすじ
須磨・明石から都へ戻った源氏は、内大臣となり政界復帰を果たした。故桐壺院と藤壺の子である冷泉帝(実は源氏と藤壺の不義の子)が即位し、養女である前斎宮女御(故六条御息所の娘)を入内させると、源氏の勢いはますます強くなっていったが、一方でいずれ出家する日のための準備も始めていた。
須磨での不遇の日々で出会った明石の君との間に女児が生まれた。姫君の誕生を喜んだ源氏は、母子を京に迎えるつもりでいた。
『源氏物語 松風』の主な登場人物
光源氏:31歳。須磨から都へ戻ると内大臣に昇格し、権勢を誇る。
紫の上:23歳。源氏の正妻。源氏の子を産んだ明石の君に嫉妬する。
明石の君:22歳。明石で源氏と出会い、女の子を出産する。源氏との身分差に苦悩する。
明石の姫君:3歳。源氏と明石の君との間に生まれた女の子。
『源氏物語 松風』のあらすじ
源氏は、思いを寄せた人を集めて住まわせるため、二条院に東の院を建造した。部屋を仕切り、こまやかに行き届いた見事な二条東院が完成した。西の対に花散里を住まわせ、東の対には明石の君を迎えたいと決めていたが、身分の差を感じる明石の君は源氏からの誘いを素直に受け入れられずにいた。
明石の君の父・明石の入道は、娘の行く末を案じ、大堰川(おおいがわ・京都西部)に領有する土地にある別荘を、妻と娘が住めるように修繕した。ちょうどその場所は、源氏がいつか出家する時のために建造している御堂の近くで、質素ながら風情があり明石の君は姫君や母と共にこの大堰邸へ移り住むことになった。一族の宿願であった貴族との縁が結ばれた幸運を感じながら、身分の違いで世間の笑いものになるのではないかという不安と、明石の入道を一人残して上京すること、長年暮らした明石を離れることに万感の思いが募り、明石の入道はじめ一家は惜別の涙を流した。
秋風が吹く中、明石の君は人目を避けるように海路で明石の浦を出た。大堰邸に到着してもしばらく源氏の訪れはなく、明石の君は源氏の形見の琴をかき鳴らし寂しく過ごした。琴の音に松風が調子を合わせるように吹いていた。
一方、明石の君をなかなか訪ねられない源氏も落ち着かない様子だった。ようやく2、3日家を空ける口実を作り、紫の上の機嫌を取りながら大堰邸へと向かった。明石の君と再会し、姫君を初めてその手に抱いた源氏は、姫君の愛くるしさに心を打たれ、二条院に移して育てたいという思いを強くしたが、明石の君の心中を思うと切り出すことができなかった。
二条院へ戻った源氏は、明石の姫君と対面したことを紫の上に打ち明け、もし許されるなら姫を引き取り一緒に育ててほしいと打診する。源氏の女性関係には嫉妬する紫の上であったが、姫君の養育については思いの外すんなりと承諾した。