娘の前で下ネタを言ってくる父に嫌悪感…。『初恋、ざらり』の作者が描く“女子中学生の葛藤”がリアルすぎる
公開日:2024/4/15
軽度の知的障害者と健常者の恋愛には、どんな壁が立ちはだかるのか。そんな問いが盛り込まれた漫画『初恋、ざらり』(ざくざくろ/KADOKAWA)はドラマ化されるほど、大きな反響を呼んだ斬新な作品。自分に自信が持てない知的障害者の主人公が、葛藤しながらも誰かを愛す姿に心が震えた方は多かったことだろう。
作者・ざくざくろ氏は見て見ぬふりをしてしまいやすい現実の厳しさや蓋をしたくなる感情を描くのが上手い。最新作『クリオネの告白』(コルク)も、作者のそうした表現力に驚かされる漫画だ。本作には父親との関係に悩む女子中学生の孤独感や葛藤がリアルに描かれており、心に刺さる。
女子中学生の栗尾寧々は、父親との関わり方に悩んでいた。父は幼い頃からボディタッチが多く、最近では目の前で下ネタを口にしたり、寧々がお風呂やトイレにいると間違えて入ってきたりする。
寧々は、そうした父親の言動に嫌悪感を覚えるも、母親には上手く気持ちを伝えられない。だから、お父さんはわざとしているわけじゃない、他の家でも同じようなことはあるはずだ、と自分を納得させていた。だが、心のモヤモヤは消えてくれず…。上手く言葉にできない気持ちを共感してくれる相手が欲しいと願っていた。
そんなある日、ひょんなことからクラスメイトの北川うららが自分と似た悩みを抱えていることを知る。内気な寧々は勇気を出して、「一緒に学校をサボろう」と提案。これを機に、2人は交友を深めるようになる。だが、うららとの距離が近づくにつれ、寧々は思いもしなかった自分の気持ちに気づく。いつしか、うららを友達ではなく、恋愛対象として見るようになっていたのだ。
性的な目でうららを見てしまう自分がいることに罪悪感を抱きつつも、交友を深めていく寧々。関われば関わるほど、うららを独占したいという想いは強くなっていく。だが、距離を縮める中で、なぜかうららが素っ気なくなってしまい、寧々は困惑。各々の揺れ動く心に合わせて、2人の距離や関係は変化していく――。
本作は寧々とうららの関係がどう変化していくのか気になるだけでなく、父親からの性的視線に悩む娘の心理描写がリアルで胸に刺さる。
親から「異性」として見られているように感じると、嫌悪感を抱くのは当然のことだ。だが、ニュースで見聞きするような目に見える性被害がない場合、被害者は受けている被害の重大さを正確に判断できなかったり、「他の家でもあることだろう」と無理やり自分を納得させたりしてしまうこともあるもの。
加えて、性的な目で見てくる親から“親らしい言動”をされると、異性として見られていると感じるのは自分の勘違いなのではないかと思い、親を嫌悪したことに罪悪感を持ってしまうこともあるはずだ。そうした被害者側の複雑な心理状態が寧々の姿を通してしっかりと描かれているからこそ、本作は心に突き刺さる。当事者は、自分が受けている被害の深刻さに気づくきっかけにもなるだろう。
また、本作では性被害を見て見ぬふりする母親・詩織の姿も印象的だ。詩織は夫が娘に対してアウトな言動をしていると薄々分かってはいるものの、「冗談」と捉え、“いつもの日常”を続ける。
夫を信じたい、平穏な日常を壊したくないとの想いから性被害に向き合わない家族の姿はあまりにもリアル。だからこそ、もし自分が同じような状況に置かれたら、と考えてしまう。自分ひとりではアウトだとジャッジできない性被害に苦しむ人が、もし身近にいたとしたら、家族や周囲の人間には何ができるのだろうか。そして、何をしなければならないのだろう。
今後、寧々の愛がうららにはどう響くのかもチェックしながら、本作を通して目に見えない性被害で受ける痛みの深刻さを感じ取ってほしい。
文=古川諭香