「男女同居→恋愛に発展」は必然ではない! 子猫の世話をするための協力同居を描くヒューマンドラマ『ただ大きな猫になりたい』

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PR 更新日:2024/5/31

ただ大きな猫になりたい"
ただ大きな猫になりたい』(筒井テツ:原作、多喜れい:作画/講談社)

 世間では「人が自然と行うこと」と共通認識される物事が数多く存在している。「結婚」「出産」といった「恋愛感情」が伴うものもその中の一つだろう。「多様性」という言葉が浸透しつつある現代でも「人は恋愛感情を抱くもの」という感覚は根強い。その共通認識の存在が「生きづらさ」に繋がる場合もあるのではないだろうか。

ただ大きな猫になりたい』(筒井テツ:原作、多喜れい:作画/講談社)は「恋愛が出来ない」男女二人を描いた作品で、世間の常識や「こうあるのが普通だ」という感覚に対して一石を投じる内容であると同時に「生きづらさ」を抱える人達に寄り添う物語である。

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猫がきっかけで関わりあう「協力者」の二人

 恋愛が出来ない体質の独身・里香は結婚をして誰かと一生を共にする人生を諦めていた。その一方で、一生一人で生きることへの寂しさを感じ、勇気を出して保護猫の譲渡会へ足を運ぶも、男性スタッフの笹川に「単身者へ譲渡は基本的にお断りしています」と言われてしまう。笹川の発言は一見厳しく思うが、単身者のペットが孤独死した状態の飼い主と共に発見されるというニュースを度々目にする現在では然るべき対応と言えるだろう。

 実際にこのエピソードの直後、二人が偶然再会し保護した子猫二匹の世話をする流れになるのだが、人間の赤ちゃんを育てるのと同様に、2~3時間おきにミルクを飲ませたり、排泄の世話をしたりと一瞬たりとも目を離すことが出来ない状態となる。

 一人で世話をすることは困難で、同居人が去り飼育スペースがあった里香と、バーテンダーをしていて昼間の時間がある笹川が里香の家に同居し連携することでようやく飼育が成立しているのだ。

 里香が飼育の大変さを知ると共に、初めての飼育で不安を覚え困惑する場面もある一方で、飼い猫に対しての不安や喜びを笹川へ報告し共有しあえる嬉しさも伝わってくるところに、ヒューマンドラマとしての温かみが感じられるのが心地良い。

 また、いきなり男女がひとつ屋根の下での生活、という展開は従来の物語であれば恋愛関係に発展するためのフラグのようなものであったが、本作ではあくまで猫を飼育する上での「協力者」となる前置きに過ぎない。笹川もまた、里香と同様に恋愛が出来ない男性であり物語を通して「恋愛関係」にならずとも「信頼関係」を築くことは出来ることを示してくれる存在として、読者へ安心感を与えてくれる。

タイトルに込められた想い

 初めてタイトルを目にした時、文字通り「大きな猫」になってのんびり過ごしたい人が主人公なのだろうと想像していたが、それは見当違いであり、本編を読み進めていくうちにこのシンプルなタイトルには強い想いが込められているのではないかと感じた。

「猫は人間のことを大きな猫だと認識している」という説がある。この説を知った時、私は見る者によって対象への認識や価値観は異なることを改めて感じさせられた。それを踏まえた上でタイトルを見てみると、人の価値観だけに縛られず「ありのままの自分」でいることを肯定したい、という感情の吐露のように思えてならない。

 世間や周囲の価値観から外れた場所にいて心細さを感じた時、本作を読みながら里香や笹川のように時に悩みながらも自分を肯定出来る人生を進むための一歩を踏み出したい。

文=ネゴト/

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