「…そこまで私を抱きたくないの?」セックスレスに悩んだ夫婦が出した答えは「公認彼氏」を作ることだった
公開日:2024/4/24
世の中には、どれぐらいのセックスレス夫婦がいるかをご存知だろうか? セックスレスの傾向があるとされる夫婦は実は約7割にも及ぶと言われている。加えてこれは世界的にも高い割合とされ、日本はいわゆるセックスレス大国なのだとか。
セックスレスに悩んでいるすべての人にこそ読んで欲しいのが、『夫公認彼氏ができました セックスレスにとことん向き合った夫婦の13年レポ』(ハラユキ:著、みか・わかぴょん:原著/KADOKAWA)である。
とある1組の夫婦の、赤裸々なセックスレス事情に迫った本コミックエッセイ。本著の主人公となるのは、演劇活動を通して知り合い結婚した妻・みかと夫・わかぴょんである。
普段から共に楽しい時間を過ごせる仲良し夫婦であるふたり。しかしみかは夫であるわかぴょんに夜の行為をまったくと言ってよいほど求められないことに、次第に不満や不安を募らせていく。
一方のわかぴょんは、元々性的なことと向き合うのが苦手なタイプ。みかのことを女性・妻として魅力的だと自信を持って言える一方で、彼にとってセックスという行為だけが重荷になっていた。
その中でも互いに折り合いをつけ、どうにか待望の子どもを授かったふたり。だが夫婦の間にあった”セックスへの認識のズレ”は、それでもやはり埋まらない。
周囲からの様々な意見や助言を参考にしつつ、それぞれ相手に真摯に向き合いながら、ふたりはセックスレスという問題に向き合っていく。その過程を描いた作品だ。
本書を手に取った人の多くが抱く感想として、まず1番は「これまでに自分が触れたことのない価値観で、とにかく新鮮だった」という部分も大きいに違いない。
セックスレスと聞くと「子育てを始めた妻に夫が拒絶される」というイメージを抱く人もいることだろう。しかし実は今の時代、その逆である「性欲のない夫に拒否される妻」の数も決して少なくはない。
加えて本書で描かれた、セックスレスという問題に向き合ったふたりの取った選択もまた、「そんな風に考えていいんだ」「そんな解決方法を選んでもいいんだ」と。読んでいてさながら、“目から鱗”の気分を味わった人も大勢いるのではないだろうか。
セックスレスという問題に対し、性行為をしたい妻としたくない夫。お互いの希望や意見をきちんと建設的に話し合い、その中で自分が本当に望むことを自覚し、同時に相手の希望にも「彼・彼女に幸せを担って欲しい」という思いやりを持って心から寄り添う。
彼らのふたりが歩んだ問題解決の道のりは、結果として周囲からすれば理解に苦しむ部分こそあれど、筆者自身はまさに理想の夫婦と呼べる姿だと思った。一方で本エッセイの最たる魅力は、あとがきにも記された夫・わかぴょんの「100組いれば100通りの夫婦関係がある」という一言に詰まっているとも感じる。
本著では互いの言葉に誠実に耳を傾け、一人間としても相手にきちんと向き合うふたりが「理想の夫婦」として描かれる。事実彼らのような夫婦関係を羨ましいと思う読者も多いだろうが、一方で彼らのように「相手にすべてを曝け出すこと」を理想としなくてもよい夫・わかぴょんの言葉からは、そういったメッセージを受け取ってもよいのではないだろうか。
もちろん事実、相手との対話を投げ出さない夫婦は最上級に理想的な関係だ。しかしそれはあくまでも理想であって、自分ではない他人である以上、夫婦であっても必ずしもそれができる関係とは限らない。
初めの頃のみかのように、パートナーとの小さなズレに対して「見ないふり」をしたまま、今日まで関係を保ち続ける人も、きっと少なくはないだろう。相手が向き合ってくれない。傷つくのが怖くて踏み込む勇気が持てない。あるいは相手からのそういった話題に、なんとなく向き合い辛くて逃げてしまう。そんな人もいることだろう。
夫婦という関係に留まらず、誰かと心から向き合うことはとてもエネルギーのいることだ。それにエネルギーを割く以前に、目の前の家事・育児、仕事で手一杯だという夫婦もきっと多いはずである。
わかぴょんの言葉は、セックスレスでありながらもそんな現状を抱える夫婦まで、その在り方を肯定してくれる。そんな彼に巡り合えたことが、みかにとってはこれ以上ない幸運だったのではないだろうか。
世間の約7割の夫婦が抱えているともされるセックスレス。それだけの割合があれば当然、大なり小なりの問題をそこに抱える人はいる。中には一朝一夕で解決するような状況ではな人もいるだろう。
しかしそんな人たちにとっても、セックスレス問題に対して「こんな向き合い方もある」「こんな道もある」という、新たな価値観への気づきを促してくれる。セックスレスという悩みに、わずかな光を当ててくれる。そんなエッセイとして、ぜひ男女問わず大勢に触れて欲しい1冊だ。