“熱すぎる”青春小説の続編が11年ぶりに刊行! 北大柔道部は最下位を脱出できるか!?

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/9

七帝柔道記II
七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり』(KADOKAWA)

 寝技は練習量がものを言う――。

 柔道をするため“だけ”に、二浪してまで北海道大学に進学した主人公・増田。目指すは、旧七帝大(北海道、東京、東北、名古屋、京都、大阪、九州)のみで開催されている柔道大会「七帝戦」での勝利だ。長らく低迷が続く北大柔道部を復活させるべく、増田はじめ柔道部の面々はひたすらに練習を重ねるが……。

 スポーツノンフィクションの名著、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮文庫)の増田俊也氏が2013年に上梓した自伝小説『七帝柔道記』(KADOKAWA)。バブルの只中にある80年代。時代の躁的な空気とはまるで無縁に柔道に打ち込む若者たちの姿を熱く描き、多くの読者の胸をゆさぶった。

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 11年ぶりに発表された続編である本作『七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり』(KADOKAWA)では、主人公・増田は二年生から三年生になっている。主力だった先輩方の多くが引退し、今度は自分たちが柔道部を引っ張る立場だ。だが北大は依然として七帝最下位の地位に甘んじている。

 ちなみに「七帝戦」とは15人対15人で行われる団体戦だ。場外なし、「待て」もなし、「参った」もなし。一本勝ち、あるいは引き分けのみで勝敗を決するデスマッチである。最も大きな特徴は、立ち技をかけずに自分からいきなり寝る「引き込み」が許されているため、寝技を重視している点。こうして書き記すだけでも、その特異さがなんとなく伝わってくるだろう。

 少年くさくて美丈夫の竜澤。おっとりとして粘り腰の松井君。大学から柔道をはじめ、めきめき頭角を現した工藤。持病を抱えつつも、持ち前の体格とセンスで一目置かれる宮澤。そのほか、自分の代の引退後も「七帝戦」に参加するため柔道を続けている後藤先輩や和泉先輩。前作の登場人物たちが相変わらずの熱量をもって登場する。

 新主将・竜澤、副主将・増田の新たな体制のもと、なんとしても一勝するため、最下位を脱出するために、彼らは文字どおり“命がけ”で練習に没頭する。

 その練習描写の苛烈さは、圧倒のひと言に尽きる。身体を酷使し、痛めつけ、限界ぎりぎりまで稽古するしか、強くなる道はない。ここには天才はいない。そして自分たちだけでなくライバル校の者たちも、苦しい稽古をしているはず。彼らに勝つにはもっと練習しなければ。道場全体に張りつめる緊張感と熱気、こもった空気までが行間から立ちのぼってくる。

 それでも北大はなかなか勝てない。因縁ある東北大には七帝戦だけでなく定期戦でも敗け続け、さらに増田は膝を壊し、そのリハビリにも苦しめられる。克明に綴られるリハビリ描写がまた読ませる。通常のスポーツ小説のような勝利の快感や、カタルシスといったものはここにはない。それでいて底が抜けたみたいな明るさが漂っているのも本書の魅力の一つだ。

 終盤に用意されている増田の最後の七帝戦が、最大最高のヤマ場である。選手それぞれが極限まで力を出しきる姿が、抑制と熱を併せもった文体で展開される。いたずらに感動を煽ることなく、動きの一つ一つをつぶさに追うことで生まれてくる迫力、昂揚、選手たちの心のゆらぎ。やはりそこに胸がゆさぶられる。

 どんなことでも徹底してやり抜いたら、あらゆることに通じるものを学ぶことになる。

 かつて和泉先輩が増田に、北大柔道部の畳の上には生きることの意味すべてが詰まっている、と語ったように、増田は柔道をとおして生きること、苦しむこと、愛することを知ってゆく。柔道を嗜む人はもちろん、そうでない人にも充分伝わる“もの”が漲っている。

文=皆川ちか