古川慎、矢野妃菜喜らでアニメ化『変人のサラダボウル@comic』。異世界姫と貧乏探偵の奇妙な同居生活コメディ
公開日:2024/4/17
日本の岐阜を舞台にした、変わり者たちの群像喜劇『変人のサラダボウル@comic』(平坂読:原作、山田孝太郎:作画、カントク:キャラクター原案/小学館)を紹介する。
本作はガガガ文庫の人気タイトルで、6巻まで全巻重版が決まった『変人のサラダボウル』(小学館)のコミカライズ版。2024年4月からのTVアニメ放送が決まっており、監督は『チート薬師のスローライフ~異世界に作ろうドラッグストア~』の佐藤まさふみ氏。シリーズ構成・脚本は原作者の平坂読氏と『MFゴースト』山下憲一氏がタッグを組む。声優陣は古川慎さん、矢野妃菜喜さん、M・A・Oさん、大地葉さんなどが担当する。ティザーPVを見たが個人的にはイメージ通りのキャスティングだ。
貧乏探偵の鏑矢惣助(かぶらや そうすけ)が目標を尾行中に、謎の少女・サラ・ダ・オディンと出会う。この邂逅が“サラダボウル”の材料の一つになるのだ――。
■国を滅ぼされた異世界の皇女、探偵になって毎日を楽しむ!
かつての魔王に由来する名をもつサラは、異世界の皇女であった。彼女の国で反乱が起こり、異世界転移で逃げてきたのだという。もちろん惣助は信用しないが、サラの治療や爆破の魔術をみせられ信じざるを得ない。ただ、いずれにしても関わり合いになりたくないと考えた彼に、サラは「自分のことを知ってしまった以上記憶を魔術で消さなくてはならない、それは数週間から数年の記憶すべてが吹っ飛ぶもので、廃人になるかもしれない」と告げる。惣助は、悪びれもしないサラは異世界の倫理観をもっているのだ、と認識し、こんなヤバい奴を野放しにするわけにはいかないと考える。そして彼は「ここにいて下さいお願いします」と言い放つのだった。惣助には強い正義感がある。だからこそ、貧乏な探偵をやっているのだが。
こうして、10代前半の特殊能力をもった少女と、29歳の探偵の同居生活が始まった。サラはあっという間に現代日本に馴染む。ゲームを楽しみ、マンガを読み、スマホで情報を入手してネットミームにも親しみ、ごくたまに食べる飛騨牛に舌鼓をうつ。そして、惣助の反対を押し切り、魔術を生かして探偵業務を遂行していく。「見た目は美少女、頭脳は天才、そして火力は大魔王」と、某少年名探偵のようなフレーズを口にしながら。「テレテーテーテテ、テーテーテテー♪」と、どこかで聞いたBGMも聞こえてくる。
二人は次々と舞い込む事件にかかわっていく。まるで、探偵バディもののようだ。しかし物語が進むにつれて、タイトル通りに変人たちが増えていき、ジャンル分け不能のカオスな展開に……。
■変人たちが勝手気ままに生きられる岐阜というサラダボウル
作中でも語られるが“サラダボウル”とは複数の文化、民族、人種が混ざり合った状態のたとえだ。アメリカを例にすると分かりやすい。混ざっても溶けて一つの文化にならず、それぞれの価値観や個性が尊重され(るべきだと考えられ)て成立している国だ。
ボウルの中のサラダは具が混ざりつつも、各具の食感や味の主張が残っている。それでいて美味しいのだ。
惣助は頑固で生真面目で、サラは異世界のぶっとんだ価値観をもっているが、本作には二人以上の変人たちが続々と登場する。成功するためにはいかがわしい店で働くことも厭わない女性バンドマン。女好きで目的のためなら手段は選ばない探偵事務所の社長。その部下の女性で、あざとさ満点の別れさせ工作員。惣助に絡んでくる30歳以上にはみえないロリータフェイスの女社長。自分の性癖を隠さないカルト教団の女性教祖。書きだすと誰もかれもクセが強すぎてお腹がいっぱいになる。
そして、何と言ってもポンコツなホームレス女騎士・リヴァイだ。サラの従者だった彼女は姫を追って転移してきたのだが、色々あってホームレスとして生きていく。バッタを食べ、瓶や缶を売って小銭を稼ぎ、炊き出しに並ぶ。このホームレス描写が思った以上にリアルに描かれており、笑っていいのか悩んでしまった。リヴァイのエピソードは濃いので注目してほしい。
とにかく、変人たちは完全には交わらず、勝手気ままに主張し、自分たちがやりたいようにやっている。その群像(喜)劇が本作の魅力であり、面白さであり、味である。
物語の舞台が岐阜であるのは色々な意味で必然だ。岐阜は文字通りサラダボウルの器がある。それは、幼少期は変わり者とされ、後に歴史的な英傑となった男を生み出し育んだ土地というのもポイントだ。混ざるが混ざりきることはない、カオスな読み心地を、味わってみてはいかがだろうか。
文=古林恭