「マツコの知らない世界」で紹介されたニッチすぎる「ガードパイプ」の世界。人間の偏愛を詰め込んだ1冊

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/11

まちかどガードパイプ図鑑"
まちかどガードパイプ図鑑』(岡元 大/創元社)

「あなたが偏愛するものはなんですか?」そんな問いをいきなり突きつけられたとして、どう答えるだろうか。なかなか難しい質問だと思う。しかし、最近私が思うのは「偏愛こそ人生を楽しむヒントじゃないのか」ということだ。

 昨今のSNSやYouTubeにおける人気コンテンツを見ていると、「ニッチであること」が大きな魅力となっているケースも少なくない。最初はなんとなく見ていたが、どんどんハマっていってしまい、気づけば毎日チェックしてしまっている投稿などに思い当たるのではないだろうか。私の知人も、亀のお世話をしている映像をついつい見続けてしまっているそうだ。

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約200種類のガードパイプが登場する偏愛に溢れた本書

まちかどガードパイプ図鑑』(岡元 大/創元社)は、まさに偏愛が詰め込まれた一冊である。ガードパイプの定義は難しいのだが、本書では国道や県道に設置されている「パイプ製の柵」のことを指しており、この一冊の中で約200種類のガードパイプが紹介されている。それでも厳選した上での数だそうで、正直驚きを隠せない。

テキスト
本書でも紹介されていた八丈島の「トビウオGP」(筆者撮影)

 著者はそんなガードパイプに魅せられ、「ガードパイプを探し歩く者」として活動を続けている。10年以上にわたって、日本(時には海外)のガードパイプを撮り歩き、ブログを書き、「マツコの知らない世界」などのテレビ番組に出演し、とうとう書籍化に至った。本人としては、自分が楽しんでいるだけというスタンスだろうが、ガードパイプに興味があった人はもちろん、全く興味がなかった人にまで影響を与えるほどの偏愛の力には脱帽だ。

 読み進めていくと、これは愛に溢れているな、という言い回しがちょこちょこ出てくる。著者にとっては、西東京市は「ガードパイプ王国」だし、東京都大田区にある人工島の京浜島は「ガードパイプ島」で、横浜に至っては「ガードパイプワンダーランド」だそう。

 さらに、巻末に収録されている対談では、「境界協会」という「境界」を楽しむナゾの団体の主宰なる人物まで出てくる。一冊を読み終える頃には、この世界にはさまざまな愛が存在するのだと認めざるを得ない。

あなたにもきっとある?ついつい撮ってしまう「何か」

 ちなみに、私の偏愛するものはといえば「旅」だ。原付で47都道府県を巡り、離島は訪問数が100を超えたところで数えるのをやめたが、まだまだ旅をしたいと思っている。また、旅先で見つけたらつい写真を撮ってしまうという種類のものもある。「レトロ感のあるガラス」だ。

旅先で見つけたレトロなガラスの一例(筆者撮影)
旅先で見つけたレトロなガラスの一例(筆者撮影)

 見つけたらとりあえず触ってみる、角度を変えて光の当たり方を見ながら写真を撮る。なんてことをよくやっている。きっと似たようなものが、誰しもあるんじゃないかと思う。本書をきっかけに一度自分の「偏愛するもの」について思いを巡らせてみてはどうだろうか。

明日からはきっとガードパイプが目に入る

 なお、本書を読むときっと次の日から普通に歩道を歩くのが難しくなるだろう。というのも、巷にガードパイプらしきものはいっぱいある。珍しい形のものは身近になくとも、ガードパイプがない町なんて、この日本にほとんどないんじゃないか。

 私も出かけた時に、「普通のガードパイプだな」とか「これはガードパイプと呼べるのか……?」なんて考えるようになってしまった。これまでは認識することのなかったものが、一度意識するようになると見逃せなくなる。不思議なものだ。

徳島にある珍しいタイプのガードパイプ(筆者撮影)
徳島にある珍しいタイプのガードパイプ(筆者撮影)

 本書に載ってはいないが、近くに珍しいガードパイプがあるという情報を手に入れ、実際に見に行くなんてこともしてしまった。木漏れ日に映えるガードパイプは撮るのも楽しかった。まさに著者の思い通りに動かされている気もするが、これはこれで一興だ。

 日々の町歩きがさらに楽しくなる……かもしれない一冊をぜひ手にとってみてほしい。

文=岡本大樹