紫式部『源氏物語 十九帖 薄雲』あらすじ紹介。恋い慕い続けた藤壺の死。悲しみに暮れる中、源氏最大の秘密が露呈!?

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/10

 平安文学の名作として知られる『源氏物語』は、千年以上たった今でも世界中で読み継がれている作品です。教科書で取り扱われることも多い作品ですが、古文で書かれていることや長編であることから、全文を読んだことがある人は少ないかもしれません。全体のあらすじを知りたいという方のために一章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第19章「薄雲(うすぐも)」をご紹介します。

<続きは本書でお楽しみください>
源氏物語 十九帖 薄雲

『源氏物語 薄雲』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「薄雲」では、源氏が長年恋い慕い続けた藤壺が亡くなります。藤壺の死を受けて源氏が詠んだ歌に詠みこまれた喪服の色に似た夕暮れの薄雲に象徴されるように、存在感の大きい人物の死や、明石の君と姫君の母娘の別れなど、悲哀に満ちたエピソードが続きます。一方で、若く美しい斎宮女御にこっぴどくフラれ、若い頃とは違うなあとしみじみ感慨にふける源氏の切ない姿も描かれ、総じてどこか物悲しさの漂う章段になっています。

これまでのあらすじ

 源氏の正妻・紫の上が住む二条院の東院が完成した。源氏は、その二条東院の一角に明石の君を呼び寄せるつもりであった。源氏との身分差を気にする明石の君はその誘いを素直に受け入れられず、母や娘(明石の姫君、源氏と明石の君の間に生まれた子)と共に父が用意した別荘(大堰邸)に移り住んだ。大堰邸で姫君と初めて対面した源氏は、その可愛らしさに心を打たれ、姫君を自分のもとで育てたいという思いを強くする。源氏が姫君の養育について相談すると、子のいない紫の上は、姫君を引き取ることにすんなり承諾をした。

『源氏物語 薄雲』の主な登場人物

光源氏:31~32歳。故桐壺帝の子として産まれたが、帝位を継ぐことはなく臣下に留まる。

紫の上:23~24歳。源氏の正妻。子が生まれないが、子供好き。

明石の君:22~23歳。源氏の子を産むが、その身分差に苦悩する。

明石の姫君:3~4歳。源氏と明石の君との間に生まれた女の子。

冷泉帝:13~14歳。故桐壺帝と藤壺の子とされているが、実の父は源氏。

藤壺:36~37歳。故桐壺帝の妃で、冷泉帝の母。源氏からの求愛に耐え兼ね出家した。

斎宮女御:22~23歳。冷泉帝の後宮に入内。源氏の過去の恋人である故六条御息所の娘。

『源氏物語 薄雲』のあらすじ​​

 冬になり、大堰邸に住む明石の君はますます心細く、うわの空で日々を暮らしていた。そんな折、明石の君は源氏から姫君を引き取って二条院(紫の上の住まい)で育てたいという相談を持ち掛けられ、思い悩む。明石の君にとって唯一の心の拠り所であった姫君を手放すことは苦渋の決断であったが、姫君の将来を思えば身分の高い源氏と紫の上の養女として育てられる方がよいと思い定め、源氏に連れられて大堰邸を発つ姫君を見送った。

 二条院での姫君は、時折母を思い出して泣くことがあったが、紫の上によく懐いていた。紫の上も姫君を大切に可愛がり、明石の君への嫉妬も以前よりは落ち着いた。源氏は大切な娘と引き離された明石の君の心中を思いやり、折にふれ訪ねて行った。以前にも増して美しく成熟する明石の君の姿や心遣いを源氏は好ましく思い、明石の君もまた源氏がわざわざ大堰邸を訪ね、自分のそばでくつろいでいる様子を嬉しく思っていた。

 年が改まり、太政大臣(故葵の上の父)が亡くなった。さらには、藤壺も亡くなり、世の中が騒がしく天変地異が続くことや、身分の高い人が立て続けに亡くなるという事態に、源氏は自身の犯した罪――すなわち源氏と藤壺の密通により生まれた子が冷泉帝であるということが災いしているのではと危惧する。

 藤壺の法要が済んで少し落ち着いたころ、藤壺に仕えていた僧都から冷泉帝は出生の秘密を告げられる。冷泉帝は、天変地異や災いが続くのは、父である源氏が実の子である自分に臣下として仕えているという乱れた状態が原因であると考え思い悩み、源氏に譲位したい旨を伝えるが、源氏はその申し出を固辞した。源氏は藤壺との秘密が冷泉帝に知られたことを直感した。

 斎宮女御は、養親である源氏の期待通り、冷泉帝のお気に入りになっていた。秋雨の降る中、二条院に里下がりしていた斎宮女御に、源氏は斎宮女御の母(故六条御息所)の思い出を語り、女御への好意をほのめかす。しかし、全く相手にされない源氏は、話題を変え、春と秋とではどちらを好むかを女御に問う。秋を好むと答えた女御(このやりとりから斎宮女御は秋好女御とも呼ばれる)に更に踏み込んだ思いを込めた和歌を詠むが、女御は呆れてそっと奥へ引き下がっていった。