紫式部『源氏物語 二十帖 朝顔』あらすじ紹介。中年になった源氏、意中の女性にフラれる。“光る君”にも陰りが…!?

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/11

 平安文学の名作として知られる『源氏物語』は、千年以上たった今でも世界中で読み継がれている作品です。教科書で取り扱われることも多い作品ですが、古文で書かれていることや長編であることから、全文を読んだことがある人は少ないかもしれません。全体のあらすじを知りたいという方のために一章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第20章「朝顔(あさがお)」をご紹介します。

<続きは本書でお楽しみください>
源氏物語 二十帖 朝顔

『源氏物語 朝顔』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

前章「薄雲」で斎宮女御から拒絶されてしまった源氏ですが、「朝顔」の章でも源氏の恋はうまくいきません。源氏が若かりし頃、朝顔の花を添えて恋文を送ったという女性・朝顔の姫宮が、斎院を退任したと聞き、いよいよ猛アタックをしかけます。長年文通だけの相手だった彼女にあと一歩というところでしたが、受け入れられず引き下がります。大人の対応をしたと自負する反面、徐々に自分の社会的地位の重さや年齢を意識する源氏の姿が描かれています。いかに“光る君”と言えど完璧ではなく、人間味あふれる源氏を知ることができる場面です。

これまでのあらすじ

 源氏が恋い慕い続けた義理の母・藤壺が亡くなった。故桐壺院と藤壺の子として即位した冷泉帝は、実の父が源氏であることを知り驚愕する。父を臣下にしていることに苦悶した冷泉帝は、源氏に譲位を申し出るが源氏はそれを固辞した。

 明石の君との間に生まれた姫君を引き取り、二条東院に思いを寄せた女性を呼び寄せ、源氏の私生活は順風満帆に見えていた。源氏の養女として冷泉帝に入内させた斎宮女御(故六条御息所の娘)に密かに好意を抱いた源氏は、女御が里下がりをした際に恋心をほのめかすが、女御には相手にされなかった。

『源氏物語 朝顔』の主な登場人物

光源氏:32歳。内大臣という職位につき、若い頃のような向こう見ずな恋はできないと自負している。

紫の上:24歳。源氏の正妻。源氏の女性関係に嫉妬している。

朝顔の姫宮:源氏からの求愛をやんわりと拒み続ける。

『源氏物語 朝顔』のあらすじ​​

 朝顔の姫宮は、父・式部卿宮(しきぶきょうのみや、故桐壺院の弟)の喪に服すため、斎院(さいいん、賀茂神社に奉仕した皇女)を退き、亡き父の邸である桃園の宮に移り住み、叔母の女五宮(おんなごのみや)と同居していた。女五宮は源氏にとっても叔母であり、彼女を見舞うという口実で、桃園の宮を訪れた。女五宮への挨拶も早々に、朝顔の姫宮を訪ねるが、姫宮はつれない態度であった。長年思い続けた姫宮との御几帳越しの対面に不満を漏らす源氏であったが、諦めきれずに熱心に恋文を贈った。

 源氏の姫宮への執心ぶりは世間で噂になり、紫の上の耳にも漏れ聞こえるようになった。紫の上は、妻の座が危ぶまれるという思いから、嫉妬と焦燥に駆られていた。苦悩する紫の上を尻目に、源氏はめかし込んで桃園の宮に出かけて行った。朝顔の姫宮に再び恋情を訴える源氏であったが、姫宮の態度は冷淡であった。その夜も、源氏は思いを遂げることはなかった。女五宮を含めた姫宮の周囲の人々は源氏との結婚を勧めるが、女盛りの過ぎた自分に色恋は似つかわしくないと、源氏を受け入れることはなかった。

 源氏は朝顔の姫宮との恋が上手くいかないことが口惜しくて落ち着かず、紫の上との逢瀬が途絶えがちになっていった。不機嫌そうに無言を貫く紫の上に、源氏は朝顔の姫宮に本気で恋をしているわけではないと弁解する。雪の降り積もった夜、庭で雪遊びをする童女たちを眺めながら源氏が好意を寄せた藤壺、朝顔の姫宮、朧月夜、明石の君、花散里といった女性たちの人物評を紫の上に語った。

 恨めしく思いながら切なく涙を流す紫の上を見て、髪の具合や顔立ちに藤壺の面影を感じて、やはり特別に可愛らしいと思う源氏だった。その晩、源氏が亡き藤壺を思いながら休んでいると、秘密が漏れたことに恨み言を言う藤壺が源氏の夢に現れる。紫の上の声で起こされた源氏は、ひと時の夢であったことが悲しくて涙を流したが、その隣で紫の上は身を固くして横になっていた。