お玉を持った林遣都に吉田鋼太郎がフライパンで対抗するシーンはアドリブ!? 『おっさんずラブ』シナリオブックで是非チェックを!

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/12

おっさんずラブ-リターンズ- シナリオブック
おっさんずラブ-リターンズ- シナリオブック』(徳尾浩司/講談社・一迅社)

 2018年に社会現象を巻き起こしたドラマがある。『おっさんずラブ』だ。女性にモテたいと願う不動産会社勤務の春田創一(田中圭)に、ふたりの男、上司の黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と後輩の牧凌太(林遣都)が思いを寄せ、春田が真実の愛に目覚めていくというストーリーで、その切ない内容は多くの視聴者を虜にし、翌年に映画化もされた。そして2024年、待望の続編が連ドラとして放送開始する。タイトルは『おっさんずラブ-リターンズ-』。前作の終了から約5年、春田、黒澤、牧を中心とした新たな物語が始まったのだ。

『おっさんずラブ』、そして『おっさんずラブ-リターンズ-』の特徴はすべてがシナリオどおりの台詞とは限らず、出演者のアドリブもふんだんに取り入れていることだ。また、恋愛ドラマであると同時にラブコメディでもあるので、シリアスなシーンやときめくシーンのほかにギャグ要素もふんだんに盛り込まれている。特に人気なのは、前作から変わらず、春田をめぐる黒澤と牧のバトルだ。何度も繰り広げられるふたりの体を張ったバトルは、特にアドリブが多いと聞く。ただ放送中は、どれがアドリブなのかわからない。私自身、「ここは牧のアドリブに見えるな」と想像することしかできず地団太を踏んでいたのだが、最終回を迎えた後、すぐにその謎は解明されることとなる。『おっさんずラブ-リターンズ- シナリオブック』(徳尾浩司/講談社・一迅社)が発売したのだ。

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 2018年の連ドラや2019年の劇場版を見た人なら想像がつくかもしれない。私にとって、このシナリオブックの最大の魅力は「ドラマのどの台詞や行動がアドリブだったのか」を確認できるところだ。配信サイトでも見逃したドラマを視聴することができるようになった今、シナリオブックを片手に、ドラマを見ると新しい発見がある。私の場合は、シナリオブックを手にしたとたん、まずページをめくって黒澤と牧のバトルシーンから読み始めた。『おっさんずラブ-リターンズ-』で黒澤と牧のバトルシーンはいくつかあるが、最初はダイニングキッチンで嫁姑のように争うシーン。アドリブはどのくらいあったのだろうか。

 シナリオブックには、争いの最中に「牧はお玉を取ってパコンと黒澤を叩く」とある。その後、牧が「つい、童心に返ってしまって」と言ったところで春田の帰宅によって争いは終了すると書かれている。しかし実際の放送では黒澤も「私も童心に返らせていただきます」と言ってフライパンを手に牧につかみかかり、争いは続いて、春田の帰宅は少し遅くなっている。「フライパン!?」と多くの視聴者を驚かせたあのシーンはアドリブ、正確にはシナリオから制作陣も含めて調整しつつ、膨らませたシーンだったのだ。なお、春田の帰宅後も春田が見ていないのを確認してから牧が黒澤に少し水をかける。それに対して黒澤は、自分の割烹着を牧に投げつけて、驚く春田をしり目に去っていくのだが、牧は投げつけられた割烹着を手に追いかけていく。ここもシナリオにはなく、現場で調整を重ねたうえでのアドリブだったようだ。

『おっさんずラブ-リターンズ-』における最大のバトルシーンは、三人が行った旅館の畳の間でのバトルである。ぜひシナリオブックを手にとって楽しんでほしい。このシーンでは2024年版の新キャラである和泉幸(井浦新)と六道菊之助(三浦翔平)もバトルに加わっている。またバトルシーン以外でもアドリブ満載であることが、シナリオブックを読むだけでわかる。

 制作陣はそれぞれのキャラクターの息が吹き込まれたアドリブをあえて活かし、シナリオをより膨らませ、ドラマをクオリティの高いものにするために尽力したのだろう。そんな裏側まで察することのできるのがこのシナリオブックだ。シナリオを手に、録画した、または有料配信サイトで見られるようになった『おっさんずラブ-リターンズ-』を楽しむという完結後の楽しみを、じっくりと味わってほしい。

文=若林理央