青春×学園ミステリ「小市民シリーズ」がアニメ化。『氷菓』で有名な直木賞作家・米澤穂信が描く「謎解きの性」の話

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/17

春期限定いちごタルト事件"
春期限定いちごタルト事件』(米澤穂信/東京創元社)

 春。人との出会いや別れが交錯する季節は、新たな人間関係を構築するタイミングでもある。環境の変化に合わせてこれまでの自分と決別し、自分の見せ方を変える人もいるだろう。小市民として慎ましく高校生活を送ることが理想の自分と、頻繁に現れる謎を解かずにはいられない現実の自分…

春期限定いちごタルト事件』(米澤穂信/東京創元社)は、自分の理想と現実の葛藤に苦しみながらも、作中にちりばめられたさまざまな事件を解明していく二面性が楽しめる作品だ。

 本作の著者は、『氷菓』をはじめとする〈古典部〉シリーズの作者でもある直木賞作家・米澤穂信氏。青春小説としての魅力と謎解きの面白さを兼ね備えた大人気ミステリである本作は、2024年7月には「小市民シリーズ」としてTVアニメが放送予定だ。

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 主人公である小鳩くんと小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもない、互恵関係がある高校1年生。「互恵関係」という言葉はなかなか聞き慣れない言葉だが、意味は互いに利益を得る、または利益を与え合う関係のこと。清く慎ましい小市民を目指すことを志に立てた相棒として、二人は平穏な高校生活を送るつもりでいたが、なぜか不可解な事件や災難が次々と舞い込んでしまう。

 かつて「知恵働き」と称する推理活動によって苦い経験をした小鳩くんと、実は行動力があることを今は隠している小佐内さん。二人はあくまで、目立つようなことをしない「小市民=普通の生活」を目指している。

 夢で見た過去の自分を思い出して小鳩くんが決意を新たにしている描写からも、「小市民」へのあこがれが伝わってくる。

“大丈夫。いまのぼくは、夢に出てきたようなのとは一味違う。目指す理想の姿を胸に、笑顔を武器に、思うような生活を送れるはず。挫けそうになれば、同志もいる。目的を同じくする、頼りになる相棒だ。”―P11 プロローグ

 普通の人は知恵働きなんてしないし、危ない場所に一人で乗り込んだりはしない。自分たちは小市民なのだから、そんなことはしない…しかし、そう心に誓っていても、いざ謎が目の前に現れると解き明かしたくなってしまう。

 そんな自分の「性」に向き合い、お互いに制御し合いながら慎ましい小市民であり続けようともがいている描写は、なんとも人間らしい。この部分がほかの学園ミステリ作品とは一線を画す小市民シリーズの特徴であり、謎を解くことよりも慎ましい小市民で居られるかどうかが鍵となっている。

 物語を通して、人が殺されたりするような過激で衝撃的な事件が起きるわけではない。ただ、ちりばめられたいくつかの小さな事件が、一つの大きな事件に緩やかにつながっていく。だからこそ、読了後はすっきりすがすがしい気持ちになれるし、小市民として生きたい二人の活躍をもう少し見たいと思ってしまう。

 二人がどのように出会い、どういう経緯で互恵関係を築いているのかについて、本作では明かされていないことから、すでに発行されている「夏期限定トロピカルパフェ事件」、「秋期限定栗きんとん事件」上下、「巴里マカロンの謎」で過去のことが描かれているのか気になるところ。2024年4月26日には「冬期限定ボンボンショコラ事件」も発売予定だ。

 小鳩くんと小佐内さんの二人の関係がこのまま続いていくのか、二人は小市民として慎ましく高校生活を過ごすことができるのか…二人の行く末をアニメでも楽しみたい。

文=鈴木麻理奈

アニメ化について
TVアニメ2024年7月 放送予定
[公式HP]https://shoshimin-anime.com/
[公式X]https://twitter.com/shoshimin_pr