紫式部『源氏物語 二十二帖 玉鬘』あらすじ紹介。死に別れた恋人が残した娘・玉鬘。美しく成長した彼女に源氏は…
公開日:2024/11/27
王朝文学の傑作として名の知れている『源氏物語』ですが、古典作品であることからとっつきにくく感じる方もいるかもしれません。ですが、内容は超エリート美男子の恋物語。こう聞くと少し興味が湧いてきませんか? 全体の内容を知りたいという方のために1章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第22章「玉鬘(たまかずら)」をご紹介します。
『源氏物語 玉鬘』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
美しい髪や添え毛を表す言葉である“玉鬘”は、源氏の亡き恋人・夕顔の娘を示しています。源氏は、儚くもその腕の中で亡くなってしまった夕顔を20年近い歳月が経っても忘れることなく偲んでいました。夕顔の侍女であった右近に、夕顔の遺児である玉鬘を密かに探し出して引き取ろうと考えます。しかし、玉鬘は実は夕顔と現・内大臣(以前の頭中将)の子で、源氏と血のつながりはありません。美しく育った玉鬘に夕顔の姿を重ね合わせた源氏が抱いた思いとは…。ここからは新たなヒロイン・玉鬘を中心に物語が進み、彼女を巡る恋と結婚までの顛末が描かれる「玉鬘十帖」が始まります。
これまでのあらすじ
亡き妻である葵の上との子・夕霧が12歳で元服し、養女である斎宮女御(今後は秋好中宮と呼ぶ)は中宮に立后した。源氏は太政大臣に、源氏の親友・右大将(以前の頭中将)は内大臣に昇進し、公私ともに華々しい日々を送っていた。
夕霧と、内大臣の娘で夕霧とはいとこの関係にある雲居雁は、同じ邸で祖母の大宮に育てられ、ふたりは密かに恋をしていた。内大臣がこれに気付くとその関係を見逃してきた大宮や女房たちを責め、ふたりは引き離された。源氏の方針で子である夕霧は六位という貴族の子にしては低い身分で大学に入学した。父を恨みながらも学問に励み、翌年には五位に昇進した。
源氏が造営していた六条院が完成した。四季を表す庭を配した豪邸で、春の町には紫の上、夏の町には花散里、秋の町には里下がりした秋好中宮、冬の町には明石の君を住まわせた。
『源氏物語 玉鬘』の主な登場人物
光源氏:35歳。源氏が17歳の夏に急死した夕顔を今でも想っている。
玉鬘:21歳。夕顔と当時の頭中将(現在の内大臣)の娘。
右近:故夕顔の侍女。現在は紫の上に仕える。
紫の上:27歳。源氏の妻。
『源氏物語 玉鬘』のあらすじ
夕顔の死から20年近い歳月が経ったが、源氏は夕顔を片時も忘れることなく愛おしく思い出していた。夕顔の亡き後、右近という侍女を形見のようにして、二条院(源氏と紫の上の住む邸)で仕えさせていた。気立てが良く控えめな右近を紫の上も気に入っていた。
夕顔が亡くなったことは隠されていたため、その死を知るのは源氏や右近など僅かな人だけであり、夕顔が遺した女の子(後の玉鬘)と彼女を養育する夕顔の乳母もその事実を知らずにいた。
この子が四つになる年に、乳母の夫が太宰の少弐(しょうに)に任ぜられ、乳母に連れられて筑紫に下って行った。乳母は夕顔を必死に探したが見つからず、子の父君(当時の頭中将)に知らせるつてもなく、忽然と消えた夕顔の形見のように夫と共にこの女の子を大切に育てた。しかし夫の少弐は重い病に罹り、この子を必ず京に連れて行くようにと実の息子や娘に遺言し、亡くなってしまった。
夕顔よりも美しく、父君の血筋までも加わったためか気品も備え、気立てもおおらかに成長した玉鬘の噂は評判となり、求婚者も多かったが乳母は取り合わなかった。心の中では早く玉鬘を都に連れて行かなければと思う一方で、乳母の実の娘や息子たちは筑紫で結婚し所帯を持っていたこともあり行動できずにいた。
玉鬘が二十歳になると、その美貌を聞きつけた肥後国の大夫監(たいふのげん)という土地の有力者が強引に結婚を迫ってきた。大夫監の執拗な求婚に恐れをなした乳母は長男の豊後介(ぶんごのすけ)を伴って、玉鬘を連れて逃げるように筑紫を発った。
京にたどり着いた乳母一行は、長谷の観音を参詣した際に偶然泊まった宿で、今は六条院に仕えている右近と十数年ぶりの再会を果たした。玉鬘の存在を知った右近は、六条院に戻ると源氏と紫の上に報告した。以前から夕顔の娘を探していた源氏は彼女の実の父である内大臣には内密にして、自分の娘として玉鬘を六条院の花散里の住む町に迎えた。夕顔の存在も知らなかった紫の上は源氏の過去の恋人の話を恨みがましく聞き、源氏は紫の上に気を遣いながらも、美しく感じよく育った玉鬘に魅力を感じ始めていた。一方で、若い貴公子たちが玉鬘の魅力に取りつかれて恋に狂う様も見てみたいとも思っていた。