本作品を試し読み

　主人公は34歳の会社員・朝比奈真緒。結婚願望を強く持ちつつも、5年間付き合っていた彼氏に30歳目前で振られて以降彼氏ができず、絶賛婚活中です。

　これまで30人に出会ったものの上手くいかず落ち込む日々……。そんな中、声をかけてきたのが、後輩の岡田くん。

　イケメン・営業部のエース・人当たりよしというモテ要素が備わった彼からのアプローチを、「6歳も上の自分のことを本気で好きになるわけがない」と素直に受け入れられない真緒。しかしお互いに気持ちを伝えあうことができ、ついに婚活終了……！と思いきやここで、「俺結婚はしたくないんです」と岡田くんから衝撃の一言が。

「こんな考えの俺でも付き合ってくれますか？」と言われた真緒は、「自分もしなくていい派だ」ととっさに嘘をついてしまいます。

　結婚したくない理由は「結婚はお互いの自由を奪うものだからしんどい」とのこと。まだ28歳の岡田くんがどうしてそう思うようになったのか？　真緒が気になっていると、実は岡田くんには昔婚約者がいたことが判明します。その相手は真緒の取引先の相手でもある九条綾音。まだ岡田くんに未練があるように見える彼女がふたりの仲を引き裂く画策をすることで、次第に岡田くんが結婚を拒否する理由も明らかになっていきます。

　そろそろ結婚したいけど相手にはその気がない。だけど別れられない……。そんな悩みに共感できる人も多いのではないでしょうか。しかも岡田くんは気遣い完璧、料理もできるパーフェクト彼氏。かと思えば初デートのご飯で自分が決めた店を真緒が気に入ってくれるか不安な素振りを見せ、いざ気に入ってくれたとわかると素直に喜びを表現する年下らしいかわいさもあり。真緒が悩みながらも交際をスタートさせる気持ちにも共感できます。

　真緒も職場の後輩の産休のために生まれる負担をひとりで被ろうとするお人好し。と思えば高頻度でソファで寝落ちし首を寝違えるなど、ちょっと抜けた一面も。そんな隙があるところもチャーミングで、読者としても親近感を持つことができます。

　綾音の策略によって岡田くんの気持ちが見えなくなる真緒。しかし真緒は彼を問い詰めることなく、どこまでも健気。読み進めるうちにふたりが上手くいってほしいという気持ちがどんどん強くなり、気づけばあっという間に読み進めてしまいました。

　岡田くんが結婚したくない理由が判明したとき、真緒はその気持ちを変えることができるのか？　ぜひ本書を読んで確かめてみてください。

文＝原智香