「絵を描くことで復讐したい」少女の本意とは? 衝撃の結末が心を揺さぶる青春ラブストーリー

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/25

無貌の君へ、白紙の僕より"
無貌の君へ、白紙の僕より』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 何かに懸命に打ち込む人の姿は美しく、そして尊い。第30回電撃大賞で選考委員奨励賞を受賞した、にのまえあきら氏の『無貌の君へ、白紙の僕より』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)は、「絵を描く」ことに強い想いを抱き、絵筆を振るって未来を切りひらこうと奮闘する少年少女の姿を綴る、瑞々しい青春ラブストーリーだ。

 とある事情で絵を描くことをやめてしまった高校2年生の佐原優希は、無気力で投げやりな日々を過ごしている。そんな彼の学校に、子ども時代に絵画教室で一緒だった美澄さやかが転入生として現れた。かつてのさやかは絵が上手く明るく活発な少女で、優希も密かに憧れていた。ところが重い病気にかかり、治療のために引っ越して6年ぶりに再会を果たしたさやかは、大人しくて儚い雰囲気に様変わりしている。おまけに心因性の行動障害で人の顔を見ることができず、生徒指導室に登校する日々を過ごしていた。

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 まぶたを閉ざしたさやかは、「私の復讐を手伝ってくれませんか」と優希に頼み込む。療養期間という長いブランクがあるうえに、人の顔を見ることができないため人体を描いてこなかったさやかは、人物画を苦手としていた。それでも、どうにかして人物画を描きあげることが、彼女にとっての「復讐」なのだという。さやかが他者の顔を直視せずに絵を描けるよう、優希はアイマスクをしてデッサンモデルになることを承諾する。

 物語の前半パートにあたる「第一章 無貌の君」は、優希視点で物語が進む。さやかが人物画を完成させようとする鬼気迫るまでの熱意の源泉にあるのは、一体何なのか。6年の歳月を経てそれぞれに変わってしまったふたりが、絵を描く作業を通じて真剣にぶつかり合い、不器用に一歩一歩踏み出していく様は爽やかな感動を残す。もがき苦しむさやかの覚悟を受け止めた優希と、ひたむきなさやかの姿が少しずつ距離を縮めていく様も甘酸っぱく、青春小説の醍醐味が味わえるだろう。

 続く「第二章 白紙のあなた」では視点が変わり、さやかの語りから優希側の事情が掘り下げられていく。優希に励まされながら壁を乗り越えて、教室にも登校できるようになったさやかは、文化祭のポスターを描くことになるが――。前半のさやかが救われるハッピーエンドから一転したドラマティックな展開が印象的で、物語の最後にはさらなる驚きが用意されている。思いがけない真相と巧妙にちりばめられた伏線も、本作における大きな読みどころだ。ラストまでたどり着いた読者は、改めて最初から読み直したくなるに違いない。

 家族との関係や進路の問題、友情に恋と、様々な悩みを抱えながらも前に進み続ける優希とさやかの姿は、くじけそうになっても前に進む勇気を与えてくれる。また、物語を通じて見えてくる登場人物たちの背景は、本作が「絵を描く」ことを大きなモチーフにしているからこそ重く響く。タイトルに込められた意味を噛みしめながら、その読後感を味わってほしい。

文=嵯峨景子

◆『無貌の君へ、白紙の僕より』詳細ページ
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