本作品を試し読み

　本作品の主人公は、公務員として働いている独身アラサー女性・倉橋千鶴。大家族の中で育った千鶴は、これまで自分のことは後回しにして家族最優先で生きてきた。だが、一番下の弟の手が離れたことで両親から「自分の幸せの為に生きてほしい」と言われ、一人暮らしを始める。そうして自分を見つめる時間を持って初めて、千鶴は自分が他人に対して気遣いのない態度をしてきたことに気づいたのだった。

　そこで千鶴は、これまで断り続けてきた飲み会にも参加し、相手を見つけて家族を持つために人との接し方を改善したいと考え始める。しかし一朝一夕でどうにかなるわけもなく、うまくいかずにいた。そんな飲み会の帰り道、偶然にも幼なじみで現ホストのイケメン・皇司と十年ぶりに再会する。流れで司の車に乗ってしまった千鶴は、好感を持たれる接し方を教える代わりに、彼が代表を務めるホストクラブの事務仕事を手伝ってほしいと頼まれる。

　悩みつつも司を信じて了承した千鶴は、昼は公務員として働き、夜はホストクラブの事務仕事をする生活をスタートさせた。司は仕事の合間を縫っては千鶴の様子を見に来て、自らまかないを作り、膝の上に座らせ、敬語を禁止し、心身の距離をどんどん詰めてくる。

　しかし強引でありながらも、思いやりや気遣いのこまやかさはさすがホスト！ そんな司と接していくうち、千鶴の会社での対応にも次第に変化が表れ始める。これまで無表情に淡々とこなしていた業務でも、自然な笑顔や相手への思いやりが生まれ始めたのだ。

　相手のことを見る気持ち、相手の気持ちを汲み取って挟む一言が、彼女の印象を大きく変えていく。その様子を見ていると、これくらいの小さな一歩なら私でも踏み出せるかも、と勇気をもらえた気がした。この本、イケメンに溺愛されながらコミュニケーション術も学べるぞ！　司は千鶴に対し、「分かってくれるはず」とおざなりにせず、行動と言葉で大切であることをこれでもかと示してくれる。ホストとしても不必要に客とべたべたせず、仕事はきちんとこなしつつも、どんな太客にもやましい営業は一切しない。

　ただひたすらに、千鶴だけを特別扱いしてくれる。その分独占欲も強いが、こんなに溺愛してくれるならむしろウェルカムだ。

　司が千鶴を愛しているのはもちろん、千鶴側も、少しずつ司に男性としての魅力を感じ始め、好きになっていく。

　でも、千鶴が真面目で恋愛経験ゼロの女性であるのに対し、司は女性にモテ続けているNo.1ホスト。ふたりの関係を危険視する人物や、面白がる人も現れ始めて――!?　これからふたりはどうなっていくのか、千鶴は無事結婚し、家族を築きたいという夢を叶えることができるのか、どんな女性に成長していくのか、今後の展開が気になって仕方がない。

文＝月乃雫