好きなときに1日だけ休めるならいつ使う? 『さよならの向う側』で話題の著者・清水晴木 初の児童文学

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/5/16

トクベツキューカ、はじめました!"
トクベツキューカ、はじめました!』(岩崎書店)

 千葉県の習千葉小学校にある特別な校則、「トクベツキューカ」。それは一年の中で一日だけ、好きな日に好きな理由で学校を休んでもいいというもの。五年生の凛は、雪の降った寒い朝に、このトクベツキューカを使うことに。温かいこたつの中でぬくぬくとキューカを満喫しているうち、なんだか退屈になってきて……。

「さよならの向う側」(マイクロマガジン社)シリーズをはじめ、生きることの意味を真摯に問いかける作品を書き続ける人気作家・清水晴木さん。『トクベツキューカ、はじめました!』(岩崎書店)は、清水さん初の児童文学だ。

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 社会学習を目的とした休日制度「ラーケーション」が、少しずつ全国の学校で導入されているように、学校教育における“休むこと”への考え方は現在、広がりをみせている。新たな休暇のかたちであり、教育のかたちでもある「ラーケーション」をさらに進化(深化?)させたのが、この「トクベツキューカ」だ。なにしろ休むための理由すら問わず(ただ休みたいから、というものでももちろんOK)、完全に生徒の自主性に任せているのだから。

 本作品に登場する7人の子どもたちは、どんな日にトクベツキューカを使おうかと思いを巡らせる。

 雪が降ってて寒いから、今日をトクベツキューカにしよう!と迷うことなく決断する凛(第1話)。2つの友人グループのどちらのトクベツキューカに参加するか、選択を迫られるさくら(第2話)。トクベツキューカを利用して自転車旅行をする悠馬と和人(第3話)。秋田から転校してきたばかりで、トクベツキューカの仕組みにまだなじんでいない浩(第4話)。

 どの日に使うか、どんな理由で使うかも自由な休暇。それは言い換えれば、自分の意思と責任で決めなければならないということでもある。自由というものと背中合わせになっている責任。その重さも、トクベツキューカをとおして彼ら彼女らは感じとるはずだ。

 同時に、それぞれに抱えている悩みも見えてくる。家庭環境や友だちとの関係、自分自身の性格についてなど。子どもとはいえその悩みはけっして幼いものではなく、私たち子どもではなくなった者にとっても思いあたる普遍的な悩みだ。

 冬にはじまり、春、夏、秋へと移り変わっていく物語は最終話で再び冬となる。学校にいけない少女・有希の葛藤を描いたこの第5話は本作の核であり、著者が「トクベツキューカ」に込めた思いが伝わってくる。

 いつでも好きな日に休めると思うと、それだけで気分が楽になる――という。

“休む”行為には、どうしても理由が求められがちだ(それは画期的な「ラーケーション」においてもそう)。理由もなく休むことはずるいこと、悪いこと、とする考え方はこの社会にあまりにも深く根づいていて、多くの人を息苦しくさせている。

 トクベツキューカがなぜ在るのかについて、生徒たちを見守り続けてきた担任の先生と有希はじっくり語りあう。そして語ることで、有希は大切なことに気がつく。その気づきがなんであるかは、ぜひ本書を読んであなた自身で気づいてほしい。児童書という枠ではあるけれど、年齢問わずにおススメしたい作品だ。

文=皆川ちか