松本穂香×堤真一でドラマ化『ミワさんなりすます』最新9巻レポート。やり手の映画宣伝Pに出会ったなりすまし家政婦は…!?
公開日:2024/4/23
突然、自分の「推し」と毎日会えるようになったら……と想像したことはあるだろうか。多くの人は、「推しはベールに包まれた存在でいてほしいので、そのような生活は望んでいない」と答えるかもしれない。しかし、もし推しの迷惑にならず、むしろ自分が推しの役に立てるのなら、どうだろうか。推しの役に立つ。この言葉の持つ響きは心地よい。
『ミワさんなりすます』(青木U平/小学館)の主人公、久保田ミワ(ミワさん)は映画オタクだ。彼女は、仕事以外の時間をすべて映画に捧げ、映画のセリフどころか「この映画の始まりから〇分〇秒後にこんなことがあった」と言い当てられる特殊な才能を持っている。しかし、日常でその才能が役立つ機会はなく、映画以外に楽しみのない毎日を送っていた。そんなミワさんが、ひょんなことから推しの大俳優・八海崇(やつみ・たかし)の家政婦になりすますことになる。
ミワさんの才能を最初に見抜いたのは八海だった。また、家政婦になってから、ミワさんは何度もなりすまし家政婦だとバレそうになるが、彼女の映画オタクとしての知識がピンチをチャンスに変え、周囲の人々から評価されるようになる。八海とミワさんの距離も次第に近づいていく。
しかし、ミワさんは自分が「なりすまし」という許されざる行為をしていることを忘れてはいない。本来、八海家の家政婦になるはずだった美羽(みわ)さくらは、途中から登場する謎めいたキャラクターだ。彼女はミワさんのなりすましを知りながら、なぜか暴露しようとしない。8巻で、ミワさんはさくらに、なりすまし家政婦をしている間、さくらの言うことならなんでも聞くと告げ、さくらはミワさんに、八海の出演映画の打ち上げ会場で一緒に給仕バイトをしようと指示する。当日、二人は会場で、やり手の映画宣伝プロデューサー、甲音々(きのえ・ねね)と知り合う。温厚に見える甲だが、さくらの指示でミワさんが甲にあるお願いをすると彼女の顔色は変わった。
9巻では、八海とミワさんの直接の会話はなく、さくらが主導権を握って物語が進む。甲の本性を知ったさくらは、人を単純なレッテルで判断し、個々の価値を見ようとしない人間が世の中をつまらなくしていると語る。私は甲を見ていやみなキャラだなと感じたのだが、どうしてそう思うのかをさくらが言語化してくれて、「なるほど、そういうことか」と自分の中に落とし込めた。
そして9巻の終盤、さくらとミワさんはとんでもない行動に出る。
松本穂香主演でNHK夜ドラ枠の実写ドラマにもなった本作は、ギャグとサスペンスを織り交ぜ、読者の予想を超える展開を見せる。映画オタクとしての知識を活かし、ピンチをチャンスに変えるミワさんだが、なりすまし行為への罪悪感も抱えている。ミワさんの行く末は、どこに繋がっているのだろうか。読み始めたら止まらなくなる、魅力あふれる漫画だ。
文=若林理央