松岡昌宏主演ドラマの続編が決定『ブラックリスト 警視庁監察ファイル』。逃亡中の詐欺犯が次々と変死する事件が…!

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/26

ブラックリスト 警視庁監察ファイル"
ブラックリスト 警視庁監察ファイル』(伊兼源太郎/実業之日本社)

 警視庁には、警視庁職員の不正を取り締まるための課がある。それが人事一課(通称ジンイチ)である。

「警察の警察」とも呼ばれる人事一課監察係所属の刑事が主人公の人気シリーズ「警視庁監察ファイル」。2021年にWOWOW制作で放送・配信された本格サスペンス「密告はうたう 警視庁監察ファイル」として映像化された。前作の大ヒットを受け、続編が決定している。そのドラマの一部となるのがこの『ブラックリスト 警視庁監察ファイル』(伊兼源太郎/実業之日本社)だ。

 本庁11階と称される人事一課に勤務する主人公・佐良。ある時大型特殊詐欺犯罪の捜査資料が流出。その資料に記された逃亡中の詐欺犯たちが、次々変死する事件が起きてしまう。情報漏洩は警察内部からではないか――。指令を受けた佐良は、同僚の皆口とともに、行動確認を開始する。しかし、突然銃撃を受けたことで、事態は大きく動き始める……。

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 というあらすじ。ちなみに行確(コウカク)とは監察対象となった警察官を、不正の証拠を掴むべく極秘に尾行することを指す。どこに立ち寄ったか、誰と会ったのかなど、まさに行動を確認の上特定、把握する業務のことである。

法律で裁かれない悪は、個人によって裁かれるべきなのか?

 近年社会問題となっている、特殊詐欺犯罪。そして、誰もがSNSで正義感を爆発できる時代に起こる、法で裁ききれない悪について描く本作。次々と被害者が出る、硬派なハードボイルドではあるが、主人公は飽くまで冷静に、どことなく淡々と話は進む。行動確認にしろ、情報を集めるにしろ、一見地味で地道な作業である。しかし、脇をアクの強いキャラたちが固めることで物語がぐっと厚みを増していて、最後まで飽きさせない。

 誰がリストを漏洩させたのか? なぜ主人公とその相棒は銃撃されたのか……佐良の周りの人間も被害に遭いながら、事態は思わぬ広がりを見せ、謎が解き明かされていく。

 漏洩したリストに載っているのは過去に何かしらの悪行を行い、さらには特殊詐欺を行う者たち、通称「YK団」。メンバー数人が実は変死していたことが明らかになるにつれ、誰かが「私刑」を行っている可能性に行き当たる。そして、自分が過去に関わった事件の被害者が、過去に児童虐待などの加害者だったことを思い出し、私刑が行われたのではないかと佐良は気づく。心の底でいい気味だと感じていたことを認めながら、自分の正義について思いを馳せる。佐良は同僚を現場で亡くしていて、現在は相棒となった皆口はその同僚の婚約者だった。

「(前略)ほんと便利な世の中ですよね。指先を少し動かせば、好きなだけ、しかも自分の手を汚さずに叩ける対象が見つかる。犯罪はもちろん許せないけど、誰しも二十四時間品行方正じゃないだろうに。自分の舵をとれなくなるのは、この点を意識してない連中ですよ。自分が正しいという一念に溺れてるんです」
「正論とか正義ってのは厄介なんだよ。オレがひねくれてるだけかもしれないが」

 皆口の言葉に、佐良は「私刑は是ではない」と考えを固め、改めて捜査に向かう。犯罪者は罰せられるべきだ。しかし、そいつが警察から逃げ切ったら? 罪が軽すぎたら? 被害者には心の傷が一生残るのに? 私たちがニュースを見るたびにどうしても頭を掠める疑問に、佐良たちはまっすぐにぶつかっていく。

ラスト1行まで見逃せない!

 実は、途中には黒幕の独白が何度か挟み込まれ、「フーダニット」的な楽しみもある。ラスト、なかなか黒幕の存在が明かされず、これで終わるのかとハラハラしていたところ、最後の一行で「あっ!」となった。最後まで見逃せない作品だ。

 シリーズすべてを通して読みたくなる。ドラマではどう表現されるのか。映像の予習をしたい人はもちろん、新たな警察小説シリーズを楽しみたい人にもおすすめの作品だ。

文=宇野なおみ