男は孤独に弱く、生きる気力を失いおかしくなってしまう? 『死にたいって誰かに話したかった』の著者・新作長編

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/4/24

俺はこのままひとりぼっちで、いつかおかしくなってしまうんだろうか"
俺はこのままひとりぼっちで、いつかおかしくなってしまうんだろうか』(双葉社)

 コロナ禍で外出が憚られたあの時期、大なり小なり多くの人が「孤独」な状態を経験したのではないだろうか。あの時ひとり暮らしをしていた方なら、誰とも会わない状況が続く中でより深い孤独を感じたかもしれない。すぐ近くに「誰か」がいてくれたら――中にはそんな思いが強まった方もいたのではないだろうか。南綾子さんの新刊『俺はこのままひとりぼっちで、いつかおかしくなってしまうんだろうか』(双葉社)は、タイトルからしてそんな思いを切実にぶちまける一冊だ。

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 物語は、売れない小説家兼雇われコンビニ店長の春来(婚活にいそしむ1975年生まれ)の大いなる不安から始まる。「男性は孤独に弱くてひとりぼっちでいると生きる気力を失い、おかしくなってしまう」というSNSでのややバズり投稿を見てしまい、自らの将来を悲嘆した春来は、数日前にたまたま再会した高3の時の初めての彼女・夏枝と飲みにいくことに(エリート医師の妻)。やがてコンビニ仕事の同僚の真冬(母子家庭育ちで認知症をわずらう母の介護に追われる女性)も含めて飲み会を重ね、さらには真冬の高校時代の親友・秋生も仲間になる(失恋を機に大阪から東京に戻ってきた性的マイノリティ男性)。本作はそんな彼らの不器用な「心の遍歴」を2016年から2026年の10年間にわたってリアルに描く群像劇だ。

 一章ごとに1年のある季節が経過し(話の視点は章ごとに4人の中で移っていく)、当初は40歳そこそこだった彼らもやがて50代に――世代的にも「結婚して子どもを持つのか否か」という命題に正面から向き合いやすいタイミングで、さらには頑張り続けた心も小休止せざるを得なかったり、身体的にも大ピンチに陥ったり、年老いた親問題が出てきたり…簡単には心の安寧は得られず、人生も10年間でいろいろ変わる。4人それぞれがいろいろ事情を抱えながら、それでも「自分の人生、これからどうする?」をじっくり考え、自分なりの「現時点」での答えを出していくのだ。

 この物語で大きなキーになるのは、まったくバラバラに思える4人が、近所に住んでいる同世代の「飲み友だち」としてゆる~くつながっていることだ。そのつながりは各自が心の奥に抱える孤独をいっとき癒し、知らず知らずのうちにみんなに共通の大切な心の「拠り所」ともなっていく。「彼氏/彼女」とか「夫/妻」とかでも家族でもなく、友だちはあくまでも第三者だからこそ、プライバシーに土足で分け入ってくることもなく、しんどい時はそっと離れることもできる。その寄り添い加減が実に適温で、「ああ、こういう人間関係なら安心!」とちょっとうらやましかったりもする。

 世の中的にはこの4月から「孤独・孤立対策推進法」が施行され、「孤独」に対して行政的なセーフティネットを作ろうと動き始めるとのこと。とはいえいきなり個々の「小さな孤独」が一気になんとかなるわけでもなく、やはり「誰か」の存在が必要というシンプルな事実はそうそう変わらないだろう。その意味で、この物語が描くような「友だち」の存在は大いなる希望の一つかも。その気になればセーフティネットは身近に作れるものなのだ。

文=荒井理恵