髙橋海人主演ドラマ『95』見どころ解説!/「1995年」という時代性とキャストの魅力に迫る!

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/22

1995年の渋谷を舞台に描くドラマ『95キュウゴー』が現在好評放送中。本作は、『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞を受賞した作家・早見和真が、2015年に刊行した青春小説が原作だ。イラストを漫画家・髙橋ツトムが描き下ろした新カバー版が角川文庫より発売中。今回は1995年の時代の空気感とともに、髙橋海人主演のドラマ版ならではの魅力を紐解いていきたい。

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今からでも分かる、ドラマ『95』ストーリー解説!

「世界の終わりが見られる、そう信じて走っていた頃の僕らです」。
2024年、渋谷の喫茶店で、カラオケ会社に勤める広重秋久(安田顕)が、「音楽産業の30年」の取材を受けるシーンから物語は始まる。突如、聞き手の音楽ライター・新村萌香(桜井ユキ)が、まだ高校2年生だった頃の秋久が読者モデルとして写ったファッション雑誌を差し出す。秋久はそれに驚きながらも冒頭のように呟くのだ。そこから彼の記憶は、1995年3月20日、地下鉄サリン事件が起きた日に舞い戻っていく――。
広重秋久(髙橋海人)は、見た目は冴えないが成績優秀な高校2年生。ノストラダムスの大予言=1999年の「世界の終わり」を信じているどこにでもいる少年だった。1995年3月20日の朝、地下鉄サリン事件が発生する。彼は、同年の1月に起きた阪神・淡路大震災、そしてこの恐ろしいテロ事件を前に、自分が「世界の終わりの始まり」に取り残された感覚に襲われる。居ても立っても居られない状態で霞ヶ関の事件現場へ。一本の花を持ってがむしゃらに走り着いた秋久が出会ったのは、カリスマ的な魅力を放つ同じ高校の翔(中川大志)だった。
秋久に興味を持った翔は、自らのチームに勧誘。翔を筆頭にレオ(犬飼貴丈)、ドヨン(関口メンディー)、マルコ(細田佳央太)といったチームのメンバーから、秋久の「久(ひさ=きゅう)」の字から「Qちゃん」と呼ばれることに。そこでQは、初めてのおしゃれ、喧嘩、バイト、恋を体験。何より翔たち仲間の存在で、退屈な日常から一変、青春を謳歌していくことになる。しかし、彼らはいずれバラバラに「オトナ」になるチームだった……。

原作の息遣いを再現するキャストたち!

物語の主人公・Qを演じるのは、King & Princeのメンバー・髙橋海人。ドラマ「だが、情熱はある」(23年)のオードリー若林正恭役の好演も記憶に新しい彼が、本作では、内向的な高校生からチームの中心人物に変貌していくQを、繊細に表現していく。とくにQの鬱屈や成長は自身の新境地となっている。
彼を導く大金持ちの息子にして、類まれな喧嘩の腕とカリスマ性を持つ翔こと鈴木翔太郎役は、中川大志。実は、中川と髙橋は現実世界でも同じ高校出身で、先輩後輩の間柄。実際の中川も高校時代に翔同様の兄貴肌だったとのことで、実際の関係性はそのまま役柄に受け継がれている様子だ。また劇中の喧嘩などのアクション場面は、それぞれが稽古に励んだようで、泥臭くも胸躍るシーンに仕上がっている。
一方、Qがほのかな想いを寄せる岸セイラを、ミステリアスな存在感で演じるのは松本穂香。儚げな風貌ながら、強い意思を持つ彼女とQの場面は甘酸っぱい描写満載。またセイラ自体も中盤以降本作の鍵を握る存在となっていく。その他のキャストも細田佳央太、犬飼貴丈、関口メンディー、浅川梨奈、工藤遥など、若手実力派のアンサンブルが堪能できる。キャストそれぞれが原作『95』の持つキャラクターや時代の熱量を、どう再現していくのか、楽しみでならない。

ドラマキーワード①”ノストラダムスの大予言”

本作の大きな魅力は、物語の舞台である1995年渋谷の空気感。第1話で、翔はQに問う。「世界が終わった後、どうすんの?」。戸惑うQを見据えて「俺は生き残るよ絶対。終わった後の世界が見たいから」と力強く語る翔。
95年は1月の大震災、3月の日本最大のテロ事件で、ぼんやりとした終末感が日本を覆っていた。そんな東京に暮らすQが常にカバンに忍ばせている本が『ノストラダムスの大予言』。73年の1作目以降、シリーズを重ねた本書は、「1999年7の月」の世界滅亡を予言していると90年代にブームが再燃。もちろん、99年に何も起きなかったわけだが、それを知る由もないQはこの本にすっかり憑かれてしまっているキャラクターだ。
しかし、「世界の終わり」のその先まで、懸命に生きようとする翔に触発されていくQ。見た目、喋り方、ひいては性格や度胸まで、話数を追うごとに変貌していくQの明らかな変化は本作の見どころだろう。

ドラマキーワード②”ポケベル”&”いつもの喫茶店”

当時の若者のコミュニケーションツールは、いまなら誰もが持っていて当たり前のスマホ……ではなく、ポケベルだった。Qや翔たちがチームとなり、連絡を取り合うのももちろんポケベル。また、第1話では地下鉄サリン事件に巻き込まれたと思しき父を心配して、Qがテレホンカードを片手に公衆電話に駆け寄るシーンがあるが、この「テレカ」こそ全年齢必携のアイテムだった。
さらには、待ち合わせは大体いつもの「行きつけの喫茶店」。スマホ的コミュニケーションアプリやSNSがないゆえに、「あそこに行けば誰かいる」というような、実際の「たまり場」が翔たちには必要だった。本作には渋谷の架空の喫茶店「メケメケ」が登場。24年の秋久と萌香のインタビューの取材場所、そして95年を生きるQや翔たち若者のアジトとして、ほぼ全ての話でシンボリックに登場し続ける。

ドラマキーワード③「あの頃」の “ファッション”&”ヒットソング”

95年の渋谷は、安室奈美恵の服装を真似た「アムラー」や、ルーズソックスの女子高生が、センター街や109周辺を闊歩していた。一方で男子もストリートファッションが隆盛となり、チーマーと呼ばれる当時の不良なども生息する……。それが、若者の街の代名詞・「シブヤ」だった。たとえば、ドラマ「未成年」(95年)や「若者のすべて」(94年)さながらの、登場キャラクターの髪型や服装も時代感たっぷり。そんな当時の風俗を随所に入れ込んで描く本作は、当時を知る視聴者には懐かしく、知らない視聴者にはどこか真新しく見えるに違いない。
そして、ドラマならではのポイントはやはり音楽。本作には劇中歌として90年中期を彩った懐かしの楽曲が毎話使われている。90年代と言えば、やはり「小室サウンド」。音楽プロデューサーの小室哲哉とダウンタウン浜田雅功によるユニット、H Jungle With tの「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」が流れるシーンは思わずハッとしてしまうのだった。ほかにも、第1話は「オザケン」=小沢健二の 「愛し愛されて生きるのさ」、平成の歌姫・安室奈美恵の「Body Feels EXIT」など。第2話はWANDS「世界が終るまでは…」、広瀬香美「ロマンスの神様」とそうそうたる楽曲がQたちの青春を盛り上げていく。今聴いても古びていないヒットソングは、一瞬で95年に視聴者をトリップさせてしまう。

原作者&プロデューサーが語る『95』の本質

本作の実写化において、原作者の早見和真はこうコメントを寄せている。
「若い読者に『本当にこんな時代があったんですか?』と、 何度も尋ねられました。この作品を熱烈に愛してくれるのも、意外にも95年生まれ前後の若者に多いです。 『95』はとても大切な作品です。その大切という思いを、熱を、城定監督をはじめとするスタッフの、髙橋海人さんを中心としたキャストの、そして視聴者のみなさまと共有できれば、 こんなに嬉しいことはありません」
実際に10代として、95年の渋谷を知る早見ならではの想いの丈が溢れている言葉。髙橋や中川たち役者陣、監督たちが、毎話そこに情熱を持って応えたドラマになっていることは、本作を観れば一目瞭然だ。
スタッフを代表して、次のようにコメントを残すのはプロデューサーの倉地雄大。「『ウソでもいいから今が一番幸せだって笑ってられる人間になってようぜ』。この時代だからこそ、彼らが紡いだ物語が誰かの心に届くと信じています!危うさと青春とが絶妙なバランスで両立している彼らやこの作品を、ぜひ応援していただけると嬉しいです!」
倉地プロデューサーのコメント内の熱いセリフは、実は小説で翔が発するセリフの引用だ。「俺たち、将来も遊んでられたらいいよね。絶対に昔話なんかしないでさ」と続くのだが、Qのみならず思わず胸を鷲掴みにされる一言だ。
ドラマは後半になるにつれて、ますますヒートアップ。Qと翔は、やがて引き返すことの出来ない95年の大晦日に起きた「渋谷ファイヤー通り大騒動」に導かれていく。それは一体どんな「事件」で、本当に起こった「何か」だったのか……。Qや翔、セイラたちはどんな「オトナ」になったのか……。
小説『95』にあるのは、懐かしさや郷愁だけでは語れない、いまにも壊れそうな青春。Qの抱える仲間へのアツい思い、苦悩、葛藤……。さまざまな感情が、小説ならではの濃度で描かれている。ドラマ版とは異なる設定もあるので、同時進行で読み進めることで、それぞれの魅力を満喫することができるだろう。あの時代を知っていても知らなくても楽しめるこの原作を、いまこそ手にとってほしい。読めば必ずや、Qのように95年の「シブヤ」を初体験、もしくは追体験していただけるはずである。

書誌情報

95キュウゴー
著者:早見和真
定価:704円 (本体640円+税)
発売中

『イノセント・デイズ』の著者が描く、最強青春エンタテインメント!
1995年、渋谷。平凡な高校生だった秋久は、縁のなかった4人の同級生から突然カフェに呼ばれ、強制的にグループへ仲間入りさせられる。
他校生との対立、ミステリアスな女の子との出会い……。秋久の経験したことのない刺激的な毎日が待っていた。
だがある日、リーダー的存在だった翔が何者かに襲撃されてしまう。秋久は真犯人を捜すため立ち上がった――。
激動の時代を駆け抜けた少年たちの心の叫びがほとばしる、熱烈青春ストーリー。

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ドラマ情報

テレビ東京開局60周年連続ドラマ
ドラマプレミア23『95』
原作:早見和真『95』(角川文庫 刊)
脚本:喜安浩平 監督:城定秀夫
出演:髙橋海人 中川大志 松本穂香 細田佳央太 犬飼貴丈 関口メンディー
浅川梨奈 工藤 遥 井上瑞稀 渡邊圭祐 鈴木 仁

テレ東系にて、毎週月曜よる11時6分から放送中
「TVer」にて見逃し配信中

https://www.tv-tokyo.co.jp/tx_95

©「95」製作委員会