第11回「僕のヒーローアカデミア」/鈴原希実のネガティブな性格がちょっとだけ明るくなる本

マンガ

更新日:2024/10/21

鈴原希実

人は誰しも自分の人生の主人公である。

時折耳にするこの言葉、あなたはどう感じるでしょうか?

私は以前この言葉を聞いた時、少し複雑な感情を抱きました。
私自身のことを主人公だなんてとても思えなかったのです。

ですが、今回紹介する作品を読み、少し考えが変わりました。
ほんの一瞬しか出てこないキャラクターや、一見地味に感じるキャラクターの中に燃える熱い想い、そしてその人にしかない輝きを放つ姿。

その姿を見て、その人にしか出せない輝きが人にはそれぞれ秘められているのではないかと感じ、私自身にもそれは存在しているのかもしれないと思えたのです。

今回紹介するのは、それぞれの登場人物が悩みもがきながらも輝きを放つ作品。
僕のヒーローアカデミア』」です。

この作品は総人口の8割が「個性」に目覚め、何らかの特異体質を持つ超人社会が舞台となっています。

そんな社会の中で生まれながらに無個性だった少年・緑谷出久(みどりやいずく)が、とあるトップヒーローとの出会いをきっかけに、最高のヒーローになるまでの物語です。

この作品には、数多くのヒーローとヴィラン(敵)が登場します。
そして、それぞれのキャラクターが各々「個性」を持っているのです。

例えば、氷や炎を出すことが出来る個性や、蛙っぽいことが出来る個性、足が速い個性や硬化、無重力など。
様々なものがあるのですが、個性は自分の意思で決められるものではないため、中には自分の個性について大きな葛藤を抱える者もいました。

その中の一人が、心操人使(しんそうひとし)です。
彼の個性は洗脳。
周囲からも犯罪者向きや、悪いことし放題で羨ましいなどと言われ、自分自身の個性について強いコンプレックスを抱いていた心操。

私自身、彼の初登場の際はその個性の内容も相まって、いつか闇に取り込まれてしまうのではないかと少し不安を感じていました。
ですがそれは全くの杞憂で、むしろ心操はヒーローへの純粋な憧れが誰よりも強い人物でした。
自分の個性により不利な状況に陥っても、ヒーローになりたいという目標を見失わずに追求する。
そんな心操の真っ直ぐさに、強く胸を打たれました。

そして、彼の他にもこの作品には魅力的な登場人物が沢山登場します。

特にこの作品はヴィランの内面や境遇の掘り下げも多いため、ヒーローだけでなくヴィランも魅力的です。

その中でも特にお気に入りのヴィランが、「ラブラバ」というキャラクターです。

彼女はジェントルというヴィランと一緒に活動しており、彼の熱狂的なファンで彼のことが大好きなのですが、愛が強すぎるあまり少し行き過ぎてしまう場面もあります。
なぜ私が彼女に惹かれたのかというと、もちろん見た目も可愛らしいのですが、一番は彼女の過去にあります。

彼女はその愛の強さのあまり、学生時代好きな人に便箋何十枚ものラブレターを渡しました。

そんな勇気を振り絞って渡したラブレターは「ストーカーじゃん」と笑われ、一瞬で散ってしまいます。
そのショックで何も信じられなくなり、自宅に引きこもり生きる気力を失くしていた彼女。
そんな時に出会った光、それがジェントルでした。

ラブラバの目の周りは黒く縁取られています。
それはキャラデザではなく、過去の境遇によって出来た深い隈。

そんな隈を気味悪がられないかしらと気にしていたラブラバに、ジェントルはペンで自分の目元も同じように縁どります。
「我々はもう既に最高のコンビだ」と。

このお話を読んで私は、凄く胸が苦しくなりました。
彼女たちはヴィランで、許容できないこともしてしまっていて。
でも、でも…!!と色々な感情がせめぎ合って、どうしようもない感情に襲われました。

この作品を読んでいると、何度も似たような感情に襲われます。

この作品はヒーローだけでなく、ヴィランも輝きを放っているのです。

是非この作品を読んだことがない人、そして読んだことがある方ももう一度読んで頂きたいと私は思っています。

なぜなら、きっとその時々の自身の心境で胸を打たれるセリフやキャラクターが大きく変わる作品だから。

いよいよ物語もクライマックスになり、盛り上がりを見せる今作。

それぞれのキャラクターがどのように成長し、どういった結末を迎えるのか。
一緒にラストまで見届けましょう。

鈴原希実

<第12回に続く>

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