誘ってもタヌキ寝入りする夫。セックスレス解消に向けて動く妻。長年のブランクを埋めるために必要なこととは?
公開日:2024/6/20
今、社会問題としてクローズアップされる課題のひとつ、少子化。人口減少に歯止めが利かない理由には、複雑な要因が多数絡まっている。その内のひとつに、夫婦のセックスレス問題も今や大きく関わっていると言っていい。病気やお金の話以上に、公の場では語ることの憚られる性の話。だがそもそも未婚化が急速に進む中、結婚した夫婦も47%、約半分近くがセックスレスに陥っているという。少子化も止まるはずがないわけだ。セックスレスを夫婦で互いに問題視していなければ、別段それはそれで構わない。しかし、本当に夫婦ふたりともがセックスレスの現状を良しとしているのか。きちんとそれを真正面から話し合い、意思統一のできている夫婦は一体どれだけいるのだろう。
おそらくそれがきちんとできている人々が大多数であれば、世の中にこんなにたくさんのセックスレス問題を扱った書籍は生まれないだろう。『「君とはもうできない」と言われまして』(モチ:漫画、三松真由:監修/KADOKAWA)も、そんなセックスレスに悩む夫婦を描いた作品のひとつである。
主人公・律子は夫・圭一郎とのセックスレスが悩み。子どもも小学生になり自立したのをきっかけに、久々に夜の営みを誘ってみるが、冷たい反応をされ「自分にはもう女としての魅力がないの?」とネガティブになってしまう。
様々なアイテムを試して強引に迫るも失敗ばかりの一方、義母からはふたりめの期待ものしかかる。重ねて職場でも妊娠前のようなやり甲斐のある仕事への復帰が叶わず、女としての魅力もキャリアウーマンとしての期待もない自分への肯定感は下がっていくばかり。
なんでも話せる中学の頃からの友人であるママ友は、同じように夫婦のセックスレスに陥りながらも、夫には内緒で不倫をすることで欲求を発散していた。倫理に反していると知りながらもその気持ちが分かるため、律子は夫とのセックスレスを解消するための正解がますます分からなくなっていく。はたして彼女は、この問題を解決できるのか――というのが本作のあらすじだ。
セックスレス解消に最も必要なのは、夫婦がいかに本音できちんと対話ができるか、という点にある。
具体的な行動で言えば、自分の本音を感情的にならず相手に伝えること。重ねて相手の本音を、いかに感情的にならずまっすぐ素直に受け止めるか、ということだ。特に難しいのは後者だろう。誰かの話を傾聴することは、想像以上にできている「つもり」になりやすい行動である。
重ねて本著がセックスレス解消の鍵として描いているのは、わかっているけれどできない、「心と身体が別」という状態への理解や寄り添いである。理解していてもできない。あるいは理解していても止められない。セックスに限らず、その感覚に覚えがある人はきっと多いはずだ。そう考えれば、パートナーと性交渉ができなくても、相手を大事に想う気持ちや好きな気持ちがなくなったわけではない。そう冷静に理解できる人もいることだろう。
さらに本著では、セックスレス解消や、それに付随しやすい課題のショートゴールの設定についても、わかりやすく解説が盛り込まれている。性交渉がゼロの段階で、昔は当たり前だったからといって、いきなり完璧な性交渉の成功を目標に置くのは難易度が高い。昔スポーツをしていたり楽器を弾いていたからといって、長年のブランクを経て、以前とは同じようにできないのと同じである。
ぼんやりと言葉だけが先行するセックスレスという課題。やわらかいタッチのマンガによるストーリーや解説コラムで、非常に具体的な行動ステップにばらして解決法を提示してくれる。
今セックスレスに悩んでいない人も、今後いつ悩む側となるかはわからない。あるいは今未婚の人も、いつどんな縁でふいに結婚するか、あるいはそこからセックスレスで悩むかはわからない(筆者の周囲の既婚者も、数年前は「結婚する気はないよ」と笑っていた人間が男女問わず大勢いる)。
そういった意味でも、立場を問わずぜひ1度作品に触れ、セックスレスという問題の引き出しを持ってもみてもいいのではないだろうか。