窃盗癖のあるママ友。彼女が我が家のものを盗んでいた本当の目的は!? その執念にゾッとさせられる
公開日:2024/6/5
どこで誰に恨みを買っているかわからないから、世の中って恐ろしい。いつも隣にいるあの人も、笑顔が絶えないこの人も、もしかしたら自分の知らないところで恨みの言葉を唱えているかもしれない。
…なんて考え出すと怖い気もするけれど、思わぬきっかけで知らぬ間にヘイトを集めてしまう、それは誰にでも起こりうる日常トラブルのひとつではないかと思う。
そんな日常に潜む人間関係のホラーとママ友トラブルを描いたのが『その人って本当に、ママ友ですか?』(ちなきち/KADOKAWA)だ。
夫の仕事の都合で見知らぬ土地に引っ越してきた主婦のサキは、やんちゃざかりの息子の世話と家庭を顧みない夫との生活に心を病みかけていた。SNSの世界に逃げ込んだ彼女は、やがてそこでの交流がきっかけで知り合ったママ友のマリ・リカコとリアルでも交流を重ねるようになる。
ふたりの存在に心を救われていたサキだったが、今度は身の回りで不可解な出来事が起こるようになる。マリとリカコと親しくなった頃から、自宅にある私物が次々となくなってしまうのだ。まさか、と思いながらもサキは信じたくないひとつの可能性を考え出す。
そしてある時、対面したリカコが着ていたワンピースを見て疑念はより強固なものとなる。リカコが着ていたのはサキのクローゼットからなくなった大切なワンピースと同じものだったのだ。
ここまでのストーリーで紛失事件の犯人はリカコでほぼ間違いはないのだが、怖いのはその理由が分からない点だ。彼女と知り合ってまだ日が浅いサキには心当たりがなく、なぜそんな目に合うのか見当もつかない。関係を壊したくないあまり踏み込めないサキだったが、傍観者だったサキの夫・ケンがこの事件に介入することになり事態は一気に様相を変える。
ケンはリカコと知り合いで、なにやら一連の事件に心当たりがあるような素振りを見せるのだ。そうして物語は、サキが出会う前のケンとリカコの因縁に遡ってゆく。
ケンとリカコの過去によって、妻であるサキと息子のショウにまで実害が及んでしまう様子はとにかく心が痛い。
「自分が他人にしたことは、いつか自分に返ってくる」。物語はまさしく因果応報を描いているが、家族が増えればその報いが自分に影響するだけでなく家族にまで及んでしまうかもしれない、というのは恐ろしい。個人の軽率な行動が引き金となり大切な人まで傷つけてしまうことを、わたしたちはもう一度思い出す必要があるのかもしれない。
サキがトラブルに巻き込まれていく前半とケンが事態に関与してからの後半では物語の見え方がガラッと変わるから興味深い。迷惑なママ友かと思われたリカコの本来の目的を知れば、タイトルに込められた意味も分かるだろう。
ケンとリカコの本当の関係を知ったサキはふたりにどんな言葉をかけるのか。そして家族を巻き込んだ窃盗事件はどう収束していくのか。人間関係の闇を描くママ友ホラーの結末を、最後まで見届けてほしい。