定期的に動物のぬいぐるみが届くサブスク。届く種類はランダムと書かれていたが…/3分間ミステリー かさなる世界②
公開日:2024/5/4
『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー かさなる世界』(恵莉ひなこ/ポプラ社)第2回【全5回】
1話3分ほどで読める短編のミステリー物語。話を読み終わったら、自由に想像して文章の中に“かくされた意味”を考える。潜むトリックは解説ページで答え合わせができるため、もう一度読むことで物語に隠された真実に気づけるはず。本全体を使ったトリックも仕掛けられているため、1話1話完結した話の中で“ある人物”に注目するとさらに作り込まれた世界が楽しめます。今回は『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー かさなる世界』に41編収録されているストーリーの中から、厳選した5つの物語をご紹介!
ぬいぐるみのサブスク
高校生になって、ミドリはアルバイトを始めた。
中学生まではおこづかいをやりくりするのが大変で、好きなものを我慢することが多かった。
だから、はじめてアルバイト代をもらったら、何か特別なものを自分へのごほうびとして買おうと決めていた。
(でも、何がいいかな~)
あれこれ考えているうちに、ミドリは街中にはられたチラシに目をとめた。
ぬいぐるみのサブスク、と書かれている。
決められたお金を毎月払うと、ランダムでぬいぐるみが送られてくるサービスらしい。
ぬいぐるみは選べないけど、その分どんな子が届くのかドキドキする楽しみがあります、と説明されている。
(なんかちょっと、いいかも)
かわいいもの好きのミドリは、ぬいぐるみのサブスクに興味がでた。
料金表を見ると、アルバイト代でじゅうぶん払える金額だ。
ミドリはすぐに、提示されていたサイトにアクセスして、会員登録を済ませた。
最初に届いたのは、ペンギンのぬいぐるみだ。
「わあ、かわいー!」
一緒に入っていた手紙には、「ジェンツーペンギン」と書かれていた。
ペンギンの中で、一番速く泳げる種類らしい。
ミドリはさっそく、部屋の棚にぬいぐるみをかざった。
二番目に届いたのは、灰色のオウムみたいなぬいぐるみだ。
「おおっ、かっこいい!」
手紙には「ヨウム」と書かれている。
ヨウムはオウムではなくインコです、と説明がある。
ミドリはふむふむとうなずきながら、ヨウムをペンギンのとなりにかざった。
ぬいぐるみのサブスクは長く続いた。
三番目に来たのはモコモコしたネズミのような「ウォンバット」のぬいぐるみ。
四番目は「ブタ」で、五番目は「ツキノワグマ」だ。
六番目は「シベリアンハスキー」で、七番目は「タテガミオオカミ」が届いた。
(いろんな子をお迎えできて、うれしいなー!)
ミドリはタテガミオオカミのぬいぐるみをシベリアンハスキーのとなりに置いて、満足げに棚をながめる。
届いた順番にならべたぬいぐるみは、大きさやかわいさもバラバラだけど、どれもミドリのお気に入りだ。
自分ではなかなか買わないようなものもあるけれど、自分のもとに来てくれたぬいぐるみだと思うと、自然と大切にしようという気持ちがわいてくる。
「ジェンツーペンギンちゃん、ヨウムくん、ウォンバットくん。……うーん、やっぱりちゃんとした名前をつけてあげるべきかな?」
そろそろ、ひとつずつのぬいぐるみの名前を考えてみたい。
けれど、なかなかいいものが思いつかず、ミドリはぽんと手を打った。
「とりあえず、最初の一文字をとってあだ名をつけちゃおう! ジーちゃん、ヨーくん、ウーくん、ブーちゃん……」
不意に、ミドリは口をつぐんだ。
ぞくりとすることに気がついてしまったのだ。
(偶然……だよね?)
そして、八番目に届いたのは「イグアナ」のぬいぐるみ。
ミドリはすぐにサブスクを解約すると、今までのぬいぐるみをすべてお寺に持っていくことにした。