妖怪たちに追いかけられる男の子。だが捕まってしまい絶体絶命と思ったその時！／３分間ミステリー かさなる世界⑤
文芸・カルチャー
公開日：2024/5/7
『かくされた意味に気がつけるか？ ３分間ミステリー かさなる世界』（恵莉ひなこ/ポプラ社）第5回【全5回】
1話3分ほどで読める短編のミステリー物語。話を読み終わったら、自由に想像して文章の中に“かくされた意味”を考える。潜むトリックは解説ページで答え合わせができるため、もう一度読むことで物語に隠された真実に気づけるはず。本全体を使ったトリックも仕掛けられているため、1話1話完結した話の中で“ある人物”に注目するとさらに作り込まれた世界が楽しめます。今回は『かくされた意味に気がつけるか？ ３分間ミステリー かさなる世界』に41編収録されているストーリーの中から、厳選した5つの物語をご紹介！
妖怪わらわら
真っ暗な道を、ボクはほとんど泣きながら走っている。
後ろから追いかけてくるのは、一つ目入道だ。
くぐもった声で何かを言いながら、ボクを追いまわすのだ。
「はぁっ、はぁっ……誰か、助けて！」
ボクはさけびながら、暗がりの角を曲がる。
そこに飛びでてきたのは、ぬりかべだ。
巨大な体で、ボクの行き先をふさぐように立ちはだかる。
「止まれ！」
「ひいっ！」
くぐもった大声で言われて、ボクはいよいよ涙が出てきた。
でも本当に止まったら、捕まって何をされるかわからない。
だからボクは必死に、ぬりかべの横を通りぬけた。
走りながら後ろを振りかえると、ぬりかべを押しのけるようにして一つ目入道が迫ってきている。
いつの間にか、ろくろ首まで一緒にいた。
走ると、あの長い首がぶらんぶらんとゆれて、とにかくおそろしい。
「はぁっ、はぁっ……イヤだよ……誰か……！」
どうしてボクは、こんな妖怪だらけの場所に迷いこんでしまったのだろう。
どうして妖怪は、ボクを追いかけてくるのだろう。
どうして、ひとりぼっちでこんなにこわい思いをしなければならないのだろう。
浮かぶ疑問に答えてくれる人は、誰もいない。
ちょっと前まで一緒にいたパパとママは、どこにもいないのだ。
後ろの足音はどんどん近づいてくる。
もう絶体絶命だ。
妖怪に捕まったら、ボクは一体どうなってしまうんだろう。
「うう……誰か、助けてよぉ！」
泣きながらさけんだとたん、首根っこを捕まれた。
「ヤダ！ 離せ、離せぇ！」
恐怖であばれるボクに、一つ目入道がぐっと顔を近づけてくる。
くぐもった声が、はじめてちゃんと聞きとれた。
「だから助けてやるって、何度も言ってるだろ！」
