リサリサを主人公にした「ジョジョ」外伝小説。第2部「戦闘潮流」から35年後の世界を描く、〈スタンド〉の起源
PR 更新日:2024/5/2
4月18日、「ジョジョの奇妙な冒険」外伝小説『ジョジョの奇妙な冒険 無限の王』がジャンプコミックス『The JOJOLands』第3巻(いずれも集英社)と同時発売された。手がけたのは、『宝島』で第160回直木賞を受賞した真藤順丈だ。「JOJO magazine」に好評連載されていた内容に、著者自身が磨きをかけ新たな息吹を注ぎ込んだ。本作は、さまざまな点において「これこそファンが待ち望んでいたノベライズ」と言えるのではないかと思う。
物語は、第2部「戦闘潮流」から35年後、1973年のグアテマラで幕を開ける。主人公は、第2部でジョセフ・ジョースターを指導した〈波紋の師〉、リサリサだ。ジョジョの女性キャラクターは、第6部の徐倫はもちろん第8部の広瀬康穂、第9部のメリル・メイ・チーなど押し並べて魅力的だが、中でもリサリサはトップクラスのかっこよさ。彼女の“その後”を知ることができるとは、まずそれだけで心躍る。本作では老女となるも、顧問としてスピードワゴン財団を率い、その高潔かつ不屈の精神はジョジョ本編と変わらず健在だ。
グアテマラでは、〈見えざる銃弾〉による連続殺人が発生していた。その謎を探るリサリサと財団は、特殊な〈矢〉によって引き出される能力、〈波紋〉とは一線を画した〈驚異の力〉を目の当たりにすることとなる。
ジョジョ読者ならば、ここで即座にピンとくるだろう。ご存じのように、〈幽波紋(スタンド)〉は第3部「スターダストクルセイダース」で初登場する。〈スタンド〉はいかにして発生し、広がり、またスピードワゴン財団はその存在を知るに至ったのか。〈波紋〉から〈スタンド〉へ。『無限の王』とはつまり、そのミッシングリンクを明らかにする物語なのである。
〈スタンド〉の起源を巡るリサリサらの冒険は、ペルーからブラジル、さらにジャングルの深層部へと続く。この過程では、財団の新人育成や調査法が垣間見えたり、あのキャラクターの孫が活躍したりと、細部まで著者のサービス精神が行き渡っている。
一方で、真藤順丈ならではのオリジナリティも言うまでもなく素晴らしい。真藤はこれまで、『地図男』(KADOKAWA)の関東各所、『宝島』(講談社)の沖縄など土地と深く結びついた数々の傑作を生み出してきた。この『無限の王』で描き出されるマジックリアリズム的な中南米は、ジョジョワールドと見事に融合している。
その熱気に満ちた世界の中を駆け回るのが、著者のオリジナルキャラクター、オクタビオとホアキンだ。孤児院出身で、路上で活計を立てていた二人の若者は、『宝島』のグスクとレイを彷彿とさせる。彼らがリサリサと出会い、彼女とともに勇躍する様は極めて痛快だ。また、〈スタンド〉の鍵を握るのも彼らなのだ。
真藤が生み出す多様な〈スタンド〉も創造性に溢れている。物語のクライマックス、ジャングルの奥で展開されるスタンドバトルは、禍々しくも幻想的。その圧倒的な迫力とスピード感をもって読者の心を捉えて離さない。
そして、『無限の王』という物語は、最後の最後にその真の姿を現す。そこに至ったとき、ありきたりな表現になってしまい恐縮だが、純粋に感動を覚えた。〈スタンド〉の起源と前述したが、『無限の王』に描かれているのは、それにとどまらない。〈スタンド〉とは何なのか。その本質的問いが、『無限の王』の中にはある。真藤は歴史物語の名手である。本作は間違いなく、ジョジョという長い長い歴史物語の、一つの断章だ。そして『無限の王』は美しい。リサリサが本作で語る通り、〈驚異の力〉は〈魂の発露〉だ。ならば『無限の王』は、正しく“人間讃歌”であり“黄金の精神”の物語であると思う。
文=松井美緒