松本まりかが選んだ1冊は?「自分を鍛えてくれた本のなかの言葉は血肉となり、“私の言葉”になった」
公開日:2024/5/15
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年6月号からの転載になります。
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、松本まりかさん。
(取材・文=河村道子 写真=干川 修)
無数の傍線と三角に折られたページの角。手にした本は身体の一部の如く松本さんになじんでいる。
「数年ぶりにページを開いて驚いたんです。書かれていることが自分の血肉になっていると。この本と出合った10年ほど前は、“私の欲しかった答えがここにある”と無心で読んでいたのですが、本に書いてあることを自分の思考に取り入れ、行動をしていくなかで、その言葉たちはいつの間にか、“私の言葉”となって、心に深くしみこんでいました」
〈内面的な革命を起こしていくことで、自分の人生の指揮権を取り戻すことができる〉それを実現するための言葉が詰まった一冊を、松本さんが手にしたのは、俳優の仕事が途切れ、苦悩のなかにいた30歳の頃。
「“媚びる人生を選択したくない”と思う自分を本書は鍛えてくれました。久々にページを開き、新たに刺さったのは、〈ある程度成長したら、学ぶという謙虚な姿勢のみならず、何かを人に対して与えていくという姿勢が大切〉という言葉。日々の仕事に幸せを感じる今、これまで多くの方から学ばせていただいたことを次は自分が循環し、還元させていく、そんな人生のターニングポイントが私にも来たのかもしれないと思いました」
「撮影中、幾度も極限状態に追い込まれ、限界にまで行ったからこそ、ラストシーンの光景を、これまで見たなかで一番美しい景色だと感じられた」という映画『湖の女たち』にも、自身の俳優人生のターニングポイントを実感したという。介護施設で殺人事件が起き、若手刑事・圭介(福士蒼汰)に取り調べられる松本さん演じる佳代。支配する側と支配される側、理解を越えたインモラルな関係が二人の間で進行していく。
「佳代を演じるなか、彼女の気持ちを理解できずに演じるという恐怖に直面しました。“間違っているかもしれない”という罪深ささえ感じながら気付いたのは、思考すらできないことのなかに本質はあるのかもしれないということ。頭ではなく、体で感じる、本能の赴くままに自分を解放することの重要性を感じました」
“観客を信頼することにした”という大森立嗣監督の言葉は、今も自身のなかに深く刻まれているという。
「撮影の際、監督は私たちに全幅の信頼を置き、全肯定してくれました。それを観客の方々にもするのだ、と胸が熱くなりました。理解できないかもしれない、けれど“信じている”というその思いに愛を感じました」
ヘアメイク:桑野泰成(ilumini.) スタイリング:コギソマナ(io) 衣装協力:トップス1万8700円、プリーツパンツ6万1600円/共にHATRA、ピアス23万1000円/メシカジャパン(メシカ)TEL03-5946-8299 *すべて税込
映画『湖の女たち』
原作:吉田修一『湖の女たち』(新潮文庫刊) 監督・脚本:大森立嗣 出演:福士蒼汰、松本まりか、福地桃子、近藤芳正、平田 満、根岸季衣、菅原大吉、財前直見、三田佳子、浅野忠信 製作幹事・配給:東京テアトル、ヨアケ 5月17日(金)より公開 ●湖畔の介護施設で起きた殺人事件。関係者への執拗な取り調べのなか、刑事が抱く歪んだ支配欲、記者が突き止める歴史の暗部……。衝撃的な映像体験をもたらすヒューマンミステリー。 (c)2024 映画「湖の女たち」製作委員会