第8回「 一週間マクドナルドを食べ続けて悪夢を見る 後編」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない⑧
更新日:2024/5/16
酒村版『スーパーサイズ・ミ―』開演
やはり、効果が出ているか確認するには継続的に検証していく必要がある。
流石に10日に一度はケンタッキーが食べたいし、20日に一度はモスバーガーも食べたいので、1ヶ月マクドナルドは難しい。
けれど“マクドナルドとゆっけ、の7日間”なら小旅行のような気持ちで楽しむことができる。
7日間マクドナルドを食べて悪夢は本当に消えるのか。あわよくば、望んだ夢を見ることができるのか検証してみよう。
いろんなバーガーでの検証結果があったほうがいいかなと思い、初日は初恋のてりやきバーガーを選んでみた。
マクドナルドに惚れるきっかけになったのは、てりやきバーガーだった。
ずっと一途に愛していたけれど、小学6年生ごろ体調を崩していた時、てりやきマックバーガーを食べたら甘ったるくて重いなと思ってしまった。
そこから頼む頻度は減っていったのだった。
自然と気付かぬうちに髪が伸びるように、いつの間にかてりやきマックバーガーとは疎遠になり、ビッグマックの方が頼む回数が増えていった。
そんな思い出話はさておき魔法のランプを設置して就寝。
昼寝どころか6時間ほど寝てしまい驚愕だったが、こんなに寝てしまっても不思議と体は疲れていなかった。
夢の中で、私はシーサーになっていた。
沖縄にいて、自分がシーサーの置物になって動くことなくただひたすら海を眺めているだけの夢だ。
時間はゆっくりと流れていて、動きたいとも思わない。
心地がいい夢だったことは覚えている。
だけど、このままだと執筆ができなくなると焦って目が覚めた。
悪夢なのか判断が難しいところだ。もう少し、しゃぼん玉には頑張ってほしい。
禁断の二度揚げポテト
2日目は、テイクアウトした後に猫と戯れていたらポテトが冷めてしまい、バターでポテトをもう一度揚げ直す禁断の行為をしてしまった。
そんなことをしたからか、空飛ぶ夢がみたいと願ったのに、空の雲の中に着地したらふわふわ素材すぎて沈んでしまい、息ができなくなる夢を見た。
苦しくてバッと起き上がったら胸の上で猫が眠っていたので、果たして何が原因なのか上手く特定はできずに終了。
3日目は、和食が食べたくなったので珍しくフィレオフィッシュを注文。
サイドメニューはサラダを選んでみた。思いのほか、野菜がみずみずしくシャキシャキとしていて美味しい。
この日は、健康的すぎたのか夢を見ることができなかった。
4日目は、まだ一度も食べたことがなかったえびフィレオを頼んでみた。
高校時代に一度だけ食べたことがある枝豆コーンをおつまみに懐かしさを味わう。
その日の夢は、まさに高校時代の夢だった。
秋鮭が泳いでいるようなオレンジ色の夕暮れ、放課後の教室に忘れ物をしてしまったことに気付いて小走りで廊下を通過する。
すると、教室にはイケイケな男女数人が楽しそうに机に腰掛けながら談笑していた。
私が気まずそうに教室に入った瞬間、ぱたっと会話は止まり無言の視線が集まる。
本当はこういう時、「忘れ物しちゃった、てへへ。また明日ね」と挨拶くらいできる子でいたかったけど、勇気も自信もない私は、目を合わさないように荷物を抱えてさっと教室を出た。
窓から見えるグラウンドや野球部の野太い声、廊下を歩く感触や下駄箱のささくれだった木。なにもかもリアルで懐かしかったし、こんな場面、過去にあったような気がしてならない。
あまり幸せな夢ではないけれど、しゃぼん玉が過去に連れて行ってくれたのかもしれない。一応、悪夢ではないことは確かだ。
あの頃の夢見を繰り返す
5日目はベーコンレタスバーガーにシャカチキも買ってしまった。
ビールを飲みながら食べるシャカチキはコンビニのホットスナックの良きライバルだと勝手に思っている。
また、高校時代の夢を見た。
私は高校生活に何か大切なものを忘れてきてしまったのだろうか。
夜の学校で見回りの警備員さんに気付かれないように息を潜め、教卓の下で学ランを着た誰かと一緒にいる。
次の瞬間には手を取り合い廊下を駆け抜ける。
そのまま屋上に出ると花火が打ち上がっていて他の生徒達も集まっている。
あんなにドキドキしていたのに、誰かが「あの二人ってどういう関係?」と噂話をするような目でこっちを見ていてそれが恥ずかしくて、隣からいなくなってほしいと思ってしまった。
そんな思春期みたいな夢を見た。
一緒にいた彼は一体誰だったのだろうか。
目が覚めると飲み干した銀色の缶ビールに隙間風が当たり、悲しげにカランと転がって魔法のランプにぶつかった。
6日目はダブルチーズバーガー。
チーズバーガー2個買ったほうがお得でしょという声はさておき、たまにはナゲットにバーベキューソースをつけてみようかと心変わり。わんぱくな味が口いっぱいに広がる。
ダブルチーズバーガーのケチャップの味は、これまた元気いっぱい。
ボトっとソースが洋服に落ちてさくらんぼのように赤茶色に染まる。
ささっとティッシュで拭き取り、面倒臭いから起きたら洗おうと布団でごろごろ眠りにつく。
またもや学生時代の掃除の時間。
トイレが持ち場で手を汚したくないからできるだけサボるけど、先生がたまに来るからその時だけしっかり清掃してますよ感を出す。
なんで行きたくない学校に行って掃除までしなくちゃいけないんだろうという胸にこびりついた思いを飲み込んだ。服についていたソースの匂いで目を覚ます。
夢って、実際はそこまで気にしてないけれど心残りだったことが反映されるのかな。
噛みしめる最愛のビッグマック
7日目はチキンフィレオを頼んだ。
ビッグマックを食べて悪夢を見てしまったら…という不安がべたついて気付けば最終日になっていた。
一方、食べたいという思いが強すぎたのか夢が始まった瞬間からビッグマックが登場した。
日曜日にサザエさんを見ながらポテトにマスタードソースをつけてビッグマックをむしゃむしゃ頬張っている。
ちゃんと味がする。夢なのに満たされていた。
まだ昼寝してから30分ほどしか過ぎてないのに、ぱっと目が覚めた。飛び起きて、寝癖がついたままマクドナルドに走った。
やっぱり、最後はあなたと一緒に迎えたい。
紙袋からそっと箱を取り出し、今日2個目のバーガーと見つめ合う。
一口一口噛み締めるようにビッグマックにかぶりついた。
口の端についたソースをぬぐうことなく最後まで止まらずに食べ切った。
いろんなバーガーを毎日食べてきたからこそわかる。
やっぱりあなたに敵う人はこの先も一生現れないんだ。
言葉で表せないくらい好きだと思えるものがあることの幸せ。
たとえ、どんな悪夢を見ようとも、本当に好きなら乗り越えられると信じている。
引き離されれば離されるほど、想いは強まりロミオとジュリエットのように引き寄せ合う。
これが私たちの宿命なのかもしれない。
昼間に干しておいた焼きたてのパンくらいふかふかの毛布にくるまって、薄くて白いレースのカーテンを閉め部屋を少しだけ暗くする。
魔法のランプが優しく光りふうせんガムを膨らますようにゆっくりとしゃぼん玉を吐き出していく。
下校中の子供達の声を聞きながら、ゆっくりと瞼を閉じて、それではおやすみなさい。