お風呂を知り尽くす「バスクリン」の研究者に聞いた! 入浴を習慣化するだけで仕事に大きくプラスになる理由とは?
公開日:2024/5/3
「バスクリン」といえば、古くから日本で愛されている入浴剤だ。種類豊富な商品の数々を手がける株式会社バスクリン(※)には、日夜お風呂ライフを探求し続ける「入浴研究のスペシャリスト集団『チームお風呂博士』」があるという。
そのチームの名義で『最高のパフォーマンスを引き出す フローライフ』(幻冬舎)という著書も出版しており、メンバーの1人で同社の製品開発部所属で薬学博士の石澤太市さんにお話を伺うべく、入浴剤の研究開発を担う同社のつくば研究所にお邪魔をした。
※2006年に母体の株式会社ツムラから家庭用品事業を承継し、ツムラ ライフサイエンス株式会社として分社化。2010年に株式会社バスクリンへ改称。
完成するまで10年かかることも! 入浴剤開発の裏側
取材に応じてくれた石澤さんは株式会社バスクリンでの会社員歴が40年ほどで、そのうち25年間にわたり「入浴」を研究してきた、いわゆるお風呂のプロだ。
60歳を過ぎた現在では「メインの研究は若い方々にお任せして、研究者向けの論文や学会報告、一般の方に向けた書籍やSNSを通しての発信に力を注いでいます」と話す。
そして「入浴研究のスペシャリスト集団『チームお風呂博士』」の一員だ。
チームメンバーは4名で、石澤さんは「入浴」と「睡眠」の関係、入浴による健康効果を中心に研究。ほか、植物素材を使った漢方薬の原料である生薬のプロ、スキンケア効果など入浴の美容効果を追求するプロ、お風呂で親子のコミュニケーションを促す浴育のプロが顔をそろえる、さながら“お風呂界のアベンジャーズ”である。
研究内容は多岐にわたり、入浴へのアプローチは実に様々。取材したつくば研究所には、入浴剤の色や香り、感触などを確かめるための浴槽がズラリと並んでいた。
「研究のために1日に数回、短時間の入浴を繰り返す日もあります」と石澤さん。開発時には、家族全員がお風呂へ入り切るのを想定して「2時間ほどは香りが残るか」、「計算問題を解かせてストレスを抱えた状態から、入浴することで疲労回復効果が期待できるか」など、細かなポイントを確認、検証するそうだ。
なお、企画から完成まで、1種類の入浴剤を発売するまでに、最低1年、長くて10年はかかるというから驚きだ。
そして医薬部外品にあたる「浴用剤」すなわち入浴剤は、厚生労働省の承認も必要となる。「基本、3年は品質を安定させなければなりません。有効成分の効果は持続できるか、保存時に固まらないかなどを確かめるには、やはり時間がかかります」。そんな石澤さんのお話を聞いて、入浴剤に対する意識が大きく変わった。
お風呂のプロに聞いた、参考にしたい入浴習慣
『最高のパフォーマンスを引き出す フローライフ』では、お風呂のプロが伝える入浴習慣だけではなく、現代のお風呂事情も学ぶことができる。なかでも「3人に2人がシャワー派」と示す統計に目が留まった。
「シャワーでたしかに体の汚れは落とせます。ただ、体温が上がりづらいので、やはり入浴を習慣づけてほしいですね」と石澤さん。毎日の入浴には生活リズムを整える役割もあり、ひいては日々のパフォーマンス向上にも役立つそうだ。
となると気になるのが、お風呂のプロたちの入浴習慣だ。著書によれば「少しぬるめの39℃で入り、入浴中に体温が約1.1℃上昇するのが理想」とのこと。
そこからさらに石澤さんは「背中からじんわり温まるので、湯船の中で腰を少し浮かせる『浮遊浴』を心がけています。入浴剤は必ず使い、出張先ではホテルの室内にただよう香りも楽しめるようなものを持参します」というこだわりが。
ほかにも、運動後には「炭酸ガス系」で刺激を、ゆったり入る時はお気に入りの香りでリラックス効果を得るというメンバーや、浴槽で凝った筋肉をほぐすために首元の斜角筋をほぐすようにマッサージする、子どもとの入浴時にはアソートタイプの入浴剤で「香り当てクイズ」を楽しむなど、メンバーそれぞれにこだわりや楽しみ方があるそうだ。
ホームセンターやドラッグストアなどで数多くの入浴剤を目にする。「血行促進を求めるなら炭酸ガス系。体を芯まで温めたいなら温泉系で、保湿効果を求めるならスキンケア系」と選び方をアドバイスする石澤さんは、さらに「開封後の環境によっては品質が低下するおそれもあるので、なるべく早めに使い切ってほしい」と使い方の注意点も教えてくれた。
「入浴時間がもったいない」と考えるシャワー派の人もいるだろうが、それぞれやむをえない事情はありながらも「20~30分の入浴時間を惜しまなければ、疲れを取る効果やリラックス効果などによって仕事のパフォーマンス向上が期待でき、かえって効率の良い毎日が送れるはずです」という石澤さんの見解には説得力がある。
平日は自宅でお風呂に入り、週末は銭湯、休日は周辺スポットも楽しむ温泉地めぐり。そんなことが容易にできるお風呂文化がある日本にいるからこそ、入浴の効果をしっかり理解してより充実した毎日を過ごしていきたいと思う。
取材・文・写真=カネコシュウヘイ