加山雄三は人生100年時代をどう生きていくか? 80代の若大将が自らの言葉で綴った人生論、そしてこれからのこと

文芸・カルチャー

公開日:2024/5/2

俺は100歳まで生きると決めた"
俺は100歳まで生きると決めた』(加山雄三/新潮社)

「人生100年時代」と言われて久しいですが、誰もが100歳まで生きられるわけではありませんし、100歳まで生きることが幸せにつながるわけではありません。ですが、加山雄三氏の87歳の誕生日に出版された『俺は100歳まで生きると決めた』(加山雄三/新潮社)を読むと、「100歳まで生きたい」と思ってしまうようなパワーをもらえます。

 歌手や俳優として活躍してきた加山氏のヒット曲や代表作を挙げればきりがありません。映画「若大将」シリーズや黒澤明監督や岡本喜八監督等の巨匠の作品への出演、大ヒットナンバー「君といつまでも」、そして紅白歌合戦のラストを谷村新司氏と共に「サライ」で飾った光景。現在、ご夫人と共に自立型ケア付き住宅で暮らしているという加山氏が「100歳まで生きる」と決めたのは、2022年の紅白歌合戦で歌った後だったといいます。

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 本書は加山氏自身が「全盛期」と感じた70代のことや、「これから」を含む80代の生き方、考え方を中心に、読者に語りかけるような文体で書かれています。いわゆる「思い出話」「武勇伝」ではなく、人生を深く見つめる「思想」「哲学」が書かれているので、加山氏の作品や経歴の知識が無くてもスッと世界観に入り込むことができます。

俺は今も次の三つを大切にしている。関心。感動。感謝。
これを「人生の三“かん”王」と呼んでいる。
こういう話をするとさ。悟りの境地ですね、と、ときどき言われる。でも、それは違うんだな。そんな立派なものじゃない。悟りだなんて思っているうちはまだまだなんだ。

 加山氏が「仕事をもらえていることに感謝」と思っていたり、「やりたいなと思っていることは現実になる」と考えていることは筆者にとって意外でした。仕事は「もらう」というよりも「自ずと来る」、「やりたい」と思う以前に「何でもできる」、大スターなので「人生の楽しみはすべて味わい尽くしたのではないか」と想像してしまっていました。

 そういうイメージを持っていたがゆえに尚更、加山氏がありふれた日常に感謝している様子に本書を通して触れていると、幸福のタネは日常のあらゆるところにちりばめられているのだと強く実感させられます。「今日もこうしてご飯を食べられることに感謝」という言葉も本書の締めくくりに近い箇所に書かれていますが、読者の誰もが「思える」「できる」次元に、加山氏は常人離れした数々の経験や知識を還元してくれます。

 こうした自伝本には「死にそうになった経験」というのがしばしば収録されるものです。「生きていてこの本が書けているという事実」がより強められるからかもしれません。本書も例外ではなく、加山氏が若い頃にスキー場で無茶をしたときに雪崩に遭って、どうやって助かったかが書かれています。

若いときは無茶をやるだろ。ゲレンデではなく山を越えながら滑っていた。その途中で崖から落っこちてね。そこに雪崩があって、埋まってしまったんだ。
俺は気が動転して、上を向いているのか、下を向いているのかわからなかった。そのとき、ひらめいて、よだれをたらしてみたんだ。唾液が落ちるほうが下だからさ。その逆に向かって雪をかけば、外に出られるかもしれないと考えた。万有引力の法則を利用したわけだ。

 当たり前といえば当たり前ですが、加山雄三も人間なのだということがこうしたエピソードを通してわかります。なぜかこの世に生まれて、与えられた環境で模索しながら生き、そしていつか死ぬことを心に留めながら日々の暮らしを全うしようとする。それは加山雄三とて同じことだという事実に勇気づけられました。

 加山氏のファンやリアルタイムで活躍を目の当たりにしてきた人はもちろん、20代、30代の若い人にも「70代、80代なんてまだまだ先」と思わず、ぜひ手にとっていただきたい一冊です。

文=神保慶政

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