虐待し続けた母に自分の居場所を知られないようにしたい… 毒親と絶縁するための具体的な手法も学べるエッセイ
公開日:2024/6/13
子どもの人生を支配し、人間としての成長に大きな悪影響を及ぼす親、いわゆる「毒親」と呼ばれる存在は、ここ数年ずいぶん認知が進んできたようにも思う。
周囲に助けてくれる人がいて、毒親の支配下から抜けられることが一番の理想的な道だ。しかし毒親とその子ども達は、非常に閉鎖的な世界で生きているケースも多々ある。
そんな時、毒親の被害者を救えるのは、何も直接的な人の助言だけではない。本書 『毒親に育てられました』(つつみ/KADOKAWA)のような、第三者の体験談を元にした作品もまた、大勢の毒親に苦しむ子どもたちを救うきっかけとなれるだろう。著者もまた自分ではない誰かの体験談に、「悩んでいるのは私だけじゃなかったんだ」と、救われたような気持ちになったのと同じように。
幼少期からシングルマザーである母に、育児放棄やネグレクト、言葉の暴力を日常的にふるわれてきた著者。まだ幼い著者の小さな世界の中で、母親の存在は絶対的なものだった。母が「良い」と言えば良い、「悪い」と言えば悪い。自分の好き嫌いや希望はあっても、それらは意味がなかった。自分の意見以上に、母の言葉が絶対のものだったから。
どれだけ理不尽な目に遭おうと、暴力を受けようと、ごく稀にあった優しい瞬間の母を信じて生きてきた。しかし徐々にそれも無意味と知るようになってから、著者は思考を止めて無気力に、さまざまなことに関して“なすがまま”に生きるようになる。
唯一の肉親である母親に、なぜこんなにも苦しめられなければならないのか。永久に答えの出ない悩みに苦しむ著者。しかし少しずつ周囲に現れた理解者に支えられ、自身に悪影響を及ぼす母親からの離脱を図る。そんな経緯が描かれたエッセイである。
全3巻が刊行されている本作。1巻には幼少期~高校時代の毒親との闘いの日々がダイジェストで綴られ、2巻では思春期の時期にスポットを当てたエピソードや心境の変化。3巻では親元を離れて以降の葛藤や苦しみ、そして無事絶縁を果たすまでの顛末が描かれる。
「毒親ってこんな存在なんだ」という具体的なケースを知ることができたり、実際に毒親からの被害に悩む人々は「苦しんでいるのは自分だけじゃなかったんだ」という共感を得られたり。それのみに留まらず、特に最終3巻を中心として、実際に毒親から逃れるためのさまざまな手立てを現実的に知ることができるのも、本作の大きな特徴だ。
著者のつつみ氏も実感するシーンがあるように、知識は自身の身を守ることにも繋がる立派な防具になる。
「毒親から逃げられない」と思っている人の中には、「逃げるためにどのような行動を具体的に取ればいいかわからない」、あるいは「逃げた後の具体的な自分の姿が思い描けず、不安で動けない」という人もきっと多いだろう。
単独で取れる行動の選択肢が狭く、未知の世界が多い未成年であればなおさらだ。
毒親からの被害を相談できる場所、毒親から逃げた先のシェルターの存在。自分の居場所を知られないよう設定できる住民票閲覧制限。あるいはメールアドレスや電話番号を変えるという選択も、単純ではあるが見落としがちな縁を切る方法のひとつだ。
毒親からの絶縁のみに留まらず、多くの場合人々の「行動できない」という思いの根底には、「行動した先の像が想像できない」という不安や不明瞭さも理由として存在する。
知らないことを知り、見えていなかったものが見えるようになる。それにより、靄がかかっている視界が晴れる可能性もぐんと高くなる。著者も語る通り、毒親であった著者の母もまた、それができていれば違う未来もあったかもしれない。
毒親による子どもたちへの悪影響の実情を周知するのみならず、実際にそのケースの当事者、あるいは関係者となった際、被害者を守るために私たちができることはなにか。そういったことを知る上でも、ぜひ本書を読んでもらいたい。ここで得た知識がいつか誰かを、あるいは自分自身を救うかもしれない。