「万能鑑定士Q」「高校事変」の著者、松岡圭祐のビブリオミステリー小説のコミカライズ! 新人ラノベ作家が巻き込まれる盗作騒動の真相は?
公開日:2024/5/9
古代ギリシア語で「書物」を意味する「ビブリオ」。そんな単語を冠した「ビブリオミステリー」とは、本にまつわる世界を舞台にしたミステリーの一大ジャンルだ。作中でさまざまな蘊蓄や裏話が描かれることも多く、本好きからの支持も厚い。このたび、コミックス第1巻が発売された『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』(松岡圭祐:原作、ぬそ:作画/KADOKAWA)も、そんなビブリオミステリーのひとつ。ヒット作を連発する松岡圭祐氏の同名小説が原作とあって、待望のコミカライズである。
主人公は新人ライトノベル作家の杉浦李奈。これまでに3作を発表しているものの一度も増刷がかからず、初版部数が右肩下がり……という、やや追い詰められている女性だ。そんな李奈のもとに、とある依頼が入る。それは作家・岩崎翔吾との対談だった。彼は4年前にデビューした新人作家だが、デビュー作である「黎明に至りし暁暗」がベストセラーを記録したことで世間からの注目を一身に集めている。そんな人物との対談に恐縮しっぱなしの李奈だが、純文学好きということもあって、その場は大いに盛り上がる。しかも、これがきっかけとなり、李奈の次回作には岩崎が推薦文を書いてくれることにもなった。
これで売れない作家の汚名返上ができる。そう喜ぶ李奈だったが、見本が完成した直後、担当編集者から「帯を外して、処分しろ」と連絡を受ける。一体なぜ? 岩崎の帯があれば、作品への注目度も段違いなはずなのに。
理由は明確だった。その頃、世間では、岩崎の2作目に「盗作」騒動が巻き起こっていたのだ。
文学を愛する岩崎が盗作をした。もちろん、李奈は信じられない。しかし、盗作元とされる作家・嶋貫克樹の作品との類似性は否定することができず、出版業界は大いに揺れていく。そんななか、岩崎自身が行方不明となり、事態はより大事に。そこで李奈は、半ばなし崩し的に真相解明をすることになってしまうのだが……。
事件の謎を追うなかで、李奈は不可解なことばかりに直面する。嶋貫が脱稿したときの状況の不自然さ、嶋貫を擁する出版社の意図的な話題作り、岩崎のパソコンから削除されたデータ、小説家としての苦悩……。それらはきっとひとつひとつがパズルのピースになるのだろう。しかしながら、現時点ではつなぎ合わせられないし、点は点のままでしかない。このヒントの出し方が絶妙で、読者はどんどん翻弄されていく。まるで松岡氏の手のひらで転がされているかのようだ。
そうして、第1巻のラストには驚愕の事態が待ち受けている。それは関係者の死だ。それにより、盗作騒動は殺人事件へと発展していく。果たして、様相がスピーディに変化していくなか、李奈は真相に辿り着けるのだろうか。
ちなみに第1巻には、李奈が心酔しているという芥川龍之介や太宰治にまつわるエピソードも複数登場する。それもまたビブリオミステリーとしての醍醐味であり、本好きならば思わずニヤリとしてしまうかもしれない。
随所でニヤリとしつつ、本格的な謎に頭を悩ませる。まさにビブリオミステリーの楽しさが凝縮された本作をぜひ手に取ってもらいたい。
文=イガラシダイ