imase「中学時代はサッカーでプロを目指していた」。20歳から始めた音楽で世界ヒットを生んだ、彼の曲作りとは〈インタビュー〉
公開日:2024/5/14
20歳になった2020年から音楽を始めて1年後にはメジャーデビュー、このほど現在までの3年間に作り出した楽曲を19曲も収録した1st Album『凡才』(ユニバーサル ミュージック/Virgin Muisc)のリリースが決定したimaseさん。等身大で魅力的な曲を次々世に送り出すimaseさんとは一体どんな人なのか――今いちばん気になる注目のアーティストの素顔に迫るべく、お話を伺った。
楽器ができたわけでも歌がうまかったわけでもない
――すごくキャッチーで印象的な曲が19曲も入っていて、すごく才能を感じるのにタイトルは『凡才』。どのような思いを込めたのでしょう?
imaseさん(以下、imase):楽器ができたわけでもないし歌がうまかったわけでもない「凡才」な自分が、どうやったらたくさんの方に聞いてもらえるのかを考えながら作った曲が詰まっているアルバムなので、そんな意味を込めて『凡才』というタイトルをつけました。国内外問わず聞いていただきたいという想いもあり、世界で人気の「盆栽」ともかけています。
――ずっとサッカー少年だったそうですね。
imase:小中高とずっとサッカーをやっていて、中学生の頃は本気でプロを目指してやっていました。音楽とは無縁だった、というわけではないですが、歌を歌ったり聴いたりするのは同年代の子と同じくらいの熱量でした。
――どうやって「音楽をやる側」に変わったんですか?
imase:20歳の秋に友達がギターを買ったことに刺激されて、自分も弾き語りをしてみたいと思いギターを買いました。その頃、TikTokにショート尺の15秒や30秒で楽曲を投稿している方がたくさんいらっしゃったので、僕もそれを見て「オリジナル曲を作ってみたい」と思って始めたのが最初です。
――20歳というと、まさにコロナのとき?
imase:そうですね。この時期は特にSNSが見られやすかったと思いますし、ライブやフェスなどが開催できなくなってしまったことで、よりSNSで音楽を聴く方が増えていたと思います。そういった部分では、タイミングがよかったかもしれません。
――とはいえ「ギターを買う」のと「曲を投稿する」のはちょっと位相が違うような。どうつながっていったのでしょう?
imase:結構自然な流れでしたね。周りに作っている人がいたわけではないですが、僕たちの世代は曲を作ったりするハードルは低いほうではないかなと思います。マイクやキーボードなどの機材も気軽に手に入れられますし、「ギターやピアノを始めよう」と同じ感覚で「曲を作ろう」みたいな。僕もそんなに意識しないで「趣味でやってみよう」と思い始めました。GarageBand(iOS対応の音楽制作アプリ)でショート楽曲を作って投稿されている方もたくさんいますし、誰でも気軽にできる時代になっていると思います。
――誰にでもできるといっても、ここまでの成功はなかなかできるものではないと思います。投稿に反応はいきなりあったんですか?
imase:最初に投稿したのは「Have a nice day」(2021/12/19リリース)で、それはすごくバズったというわけではなかったですが、それなりに反応をいただけました。「もっと聴いてみたい」など様々なポジティブなコメントをいただけたのがモチベーションになって、「ちょっと作ってみるか」と、そこから続けて作るようになりました。
――そしてわずか1年でメジャーデビュー。自分の部屋で作っていた時から世界がどんどん変わってどうでしたか?
imase:驚きましたね。もともと音楽を仕事にしようという考えはなかったので、趣味の範囲だったんです。今は上京して環境も変わり、常に目まぐるしいので少し戸惑っているところもあります。こんなふうになるなんて思ってなかったですし、地元の友達も驚いています(笑)。
最初は「感覚」で作り始めた
――最初の曲はどんなところから生まれてきたんですか?
imase:特に着想とかはなく、ネットにあったコード進行をそのまま打ち込んで、そこに鼻歌をのせて、簡単なドラム音を作って…という感じで、すごく感覚の部分が大きくて。曲のルーツやインスパイヤされたものは具体的にはありませんが、頭のどこかに昔から聴いてきた音楽の積み上げみたいなものはあったのかもしれないです。
――ちなみにどんな音楽を聴いてきたんですか?
imase:中高生のときは、その当時流行っていた音楽を聴いていました。小学生のときはGReeeeNさん、高校生のときは米津玄師さんや星野源さん、SEKAI NO OWARIさんなど。幼少期は両親が車の中で流していたユーミンさんや松田聖子さんを聴いていました。
――邦楽多めな感じだったんですね。
imase:そうですね。あまり洋楽を聴く家庭ではなかったですね。ただ高校生のときにEDMが流行った時期があって、そのタイミングではEDMを聴いていたりもしました。
――以前の世代は洋楽の影響を受けてJ-POPを作っていましたが、今はJ-POPで育った世代がさらに先を行くのを実感します。
imase:今シティポップなどのリバイバルを意図的にやっている同世代のアーティストもいますが、80年代のシティポップは洋楽のエッセンスを取り入れて日本独自の世界になったんですよね。今の世代がそれをさらにJ-POPに取り入れているのは面白いと思います。
――imaseさんはすでに韓国でも評価が高くて、全世界のSNS累計再生回数も100億超えで。日本オリジナルのJ-POPで育った世代が作ったものが、逆にリアルに世界が近いという…。
imase:80年代のシティポップは海外でも人気があると思いますが、やはり日本っぽさや、日本のカルチャー的な部分が海外でも受け入れられるのかなと思うんです。日本語の響きとか。もちろんSNSの影響も大きいとは思いますが、僕らの世代は海外の方からのコメントをすぐに見られたり、逆にこちらからの投稿もすぐに見てもらえたりするので、その身軽さにすごく恩恵を受けているなと感じます。
曲作りに欠かせない「リファレンス」
――曲を作るときはメロディが先? 歌詞が先?
imase:メロディが先です。J-POPの楽曲ではサビが一番のうまみだと思っているので、サビの部分を一番フックがあるようなものにして、そこからA、Bメロの構成を考えていく感じで作っています。
――曲を作るときいつも心がけていることはありますか?
imase:「こういう曲を作ろう」というときに、その年代やそのジャンルの曲をとにかくたくさん聴くようにしています。たとえば「恋衣」という楽曲はカントリー調ですが、作っているときはアメリカのカントリーだけじゃなく、日本の曲もプレイリストで聴いていました。
――確かにプレイリストなら参照しやすいですね。
imase:そうですね。それにそうやって聴いたほうが、僕的には曲が似づらくなると思っていて。「いいな」と思うメロディは、他の方たちが追い求める「いいメロディ」である場合もあると思うので、同じ系統の曲を聴いておかないと既存曲に似てきてしまう。それを避けるためにたくさん聴くようにしています。
――どの曲を作るときもリファレンスしたんですか?
imase:おそらく全部だと思います。最近の曲でいうと「Happy Order?」は2000年代のアイドルソングをイメージして作りました。歌詞は「最後の1時間が死ぬほど長く感じるのはお前だけじゃないから」など、今までで一番直接的で。僕個人としては、2000年代のアイドルソングに少し茶目っ気を感じるので、歌詞やメロディはその部分を意識しました。
――マクドナルドのタイアップソングですね。マックでバイトされたことは?
imase:したことないです。
――なんと! 実感がこもっているのでやったことあるのかと思っていました(笑)。歌詞には等身大の魅力がありますが、自分を投影したりしないんですか?
imase:僕の場合歌詞はほどんど架空ですね。自分のことはほぼ入れないです。架空のほうがボキャブラリーを入れやすいですし、自分の中にあるものだけだと作れないものが多いと思っています。
――恋愛の曲もありますけど、そういうのも想像?
imase:そうですね。
――だとすると恋愛を描くときには何をヒントにするんですか?
imase:特にないです。作り方的には、思いついた一つのフレーズから広げていくことが多いです。たとえば「Nagisa」という曲は「今では私に見惚れちゃって」というフレーズを先に思いついて。シティポップの曲を作ろうと思っていたので、全体の歌詞のニュアンスも80年代に描かれた感じを意識しました。最初に浮かんだフレーズから「少し小悪魔的な強い女性を描くと80年代っぽさが出るかな」と。そこから「都会的だからネオンの街かな」とか、マジカルバナナの要領で作っていきました。
――いやあ、驚きです。ちなみにファルセットボイスも印象的で。昔からそうやって歌っていた?
imase:いえ、全然いまのスタイルでは歌っていなくて。逆に、地声を張った歌い方でしたね。ファルセットはimase楽曲専用の歌い方みたいな(笑)。海外のソウルやR&Bなど、モータウンのアーティストがファルセットで歌うので「僕もやってみようかな」というのが最初のきっかけでした。
――手練れていると思ったのに意外! ジェンダーレスな感じも今っぽくて。
imase:確かにそうかもしれないですね。自分では全然意識していませんでした(笑)。
アルバムで3年間の歩みを楽しんでほしい
――自分で音楽をやるようになってから、「このアーティストすごいな」と思った方はいましたか?
imase:かなりたくさんいます。チャーリー・プースさんがすごく好きで、ライブも行きました。すごくシンプルなトラックなのに新しい音楽を作っていて、それってとても難しいことだなって。ザ・ウィークエンドさんもそうですし、ビリー・アイリッシュさんも、難しいことをやっているわけではないから真似しようと思えばできる気がするのに、誰もやってなかった、みたいな…。見つけて発明するのってセンスだったり天才だからこそなんだなと思いますね。
――多くの楽曲が作られて飽和状態にある中でも新しいものを作るって、確かにすごいですね。
imase:僕の場合はリファレンスをもとに作っていますが、おそらく全ての楽曲には何かしらリファレンスがあると思っています。「聴いてきた音楽」というレベルでも何かしらあるはずで、そう考えると今のやり方でいいのかな、と。でも、革命的な楽曲や音を作りたいなと思うので、チャレンジはし続けたいですね。全く新しいものを0から作るのはかなり難しいですが、やれたら面白いですし、続けていく上での面白みだと思っています。
――楽しみです。ちなみにアーティストのimaseさんと、素顔のご自身はかなり違うんですか?
imase:どうですかね?まったく違うとは思わないです。性格的には全然変わらないですし、今も普段と同じような感じです。動画になるともう少しテンションが高くなるというか、もっとハキハキ話しているとは思います(笑)。
――そんなに違わないならよかったです(笑)。あらためて音楽を始めての約3年で自分の変化をどう認識していますか?
imase:最初の頃は何もわからなかったからこその「個性」みたいなものがとても強かったと思います。右も左もわからないゆえに「素」の自分から出たものをすごく感じるというか。一方で、今のように様々な経験や知識を得てやっている自分も好きです。「昔はよかったなあ」みたいな感情は全くないですね。どちらもいいなと思っています。
――なるほど。その面白さが全部味わえるのが今回のアルバムなわけですね。
imase:そうですね。この3年間で自分が成長した部分や変わった部分、そのときどきの音楽的な趣味なども表れているので、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
取材・文=荒井理恵、撮影=金澤正平
メイク=向井大輔