「サッカー本大賞2024」が決定!受賞作は、横浜F・マリノス所属の現役プロ宮市亮氏によるエッセイ
公開日:2024/5/15
「良質なサッカー書籍が、日本のサッカー文化を豊かにする」をコンセプトに掲げ、2014年に設立された「サッカー本大賞」。2024年4月24日(水)に第11回「サッカー本大賞2024」の優秀作品11作品の中から各賞が選ばれ、神田明神・明神会館にて授賞式が行われた。果たして今年は、どの作品が選ばれたのだろうか?
<「サッカー本大賞2024」大賞・読者賞>
栄えある「大賞」に選ばれたのは、横浜F・マリノスに所属する現役プロサッカー選手・宮市亮氏が手掛けた『それでも前を向く』(宮市亮/朝日新聞出版)。また、サッカーメディア「フットボールチャンネル」上での投票数で決定する「読者賞」とのダブル受賞となった。
同作は高校卒業を待たずに18歳で欧州のビッグクラブ・アーセナルFCに加入した経歴を持つ宮市氏によるエッセイ。将来を約束された有望株の宮市だったが、待っていたのは5度に渡るケガとの戦いだった。繰り返される負傷に長く苦しいリハビリ、そして期待に応えられないことへの後ろめたさ。そんな思い通りにならない現実となぜ闘い続けることができたのか、その答えが綴られていく――。
現役選手の自伝ということで大きな注目を集めた同作に、選考委員の佐山一郎氏は「辛い現実を理解しようとする思考の中にしか脱出路がないことを、身をもって示した。二度とない経験哲学の書──これが私の偽らざる評価です」などとコメント。
同じく選考委員を務めた幅允孝氏も、「何よりも、(ライターを立てず)本人が実際にこの文章を書き切っていること。そして、その言葉の端々に実感がこもり、読者を引きつけ、誰もが宮市の物語に入っていけるというのが美点」と惜しみのない称賛を送った。
なお、今回のダブル受賞を受けて宮市氏は「この本は、自分のサッカー人生を正直に、リアルに残すことで誰かの役にたてばいいと思い始めたのですが、文章を考えるというのは慣れない作業だったので、時間はかかってしまいましたが、数多くの方のサポートもあり、自分のサッカー人生が詰まっていると言える本になりました」とコメントを発表。
さらに「アーセナルの、フェイエノールトの、ボルトンのウィガンの、トゥエンテの、ザンクトパウリの、そして、何より愛するマリノスの仲間と、ファミリーの、そして、どんな時も支えてくれた妻と子供のおかげで今もサッカー選手でいれています。この場をお借りしてお礼を言わせてください。『ありがとう』」と感謝の気持ちを伝えた。
<「サッカー本大賞2024」特別賞>
「特別賞」に選ばれた『オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉』(島沢優子/竹書房)は、2003年から2006年にかけてジェフユナイテッド市原・千葉(ジェフ千葉)を率い、日本代表の監督も経験したイビチャ・オシム氏に迫った一冊だ。
長らく低迷が続いたジェフ千葉を優勝争いに導くだけでなく、その類いまれな指導手腕は日本サッカーに多大な影響を与えた。2022年に逝去してから1年(出版当時)が経とうとしている今、彼が遺した“レガシー”をスポーツジャーナリスト・島沢優子が伝えていく――。
2006年に“オシムジャパン”を率いたこともあり、サッカーを深く知らない人でもなじみのあるオシム氏。そんな彼にフォーカスした同作について、選考委員の陣野俊史氏は「佐藤勇人、羽生直剛のようなチルドレンから、祖母井秀隆、千田善のような、いわば裏方の人々までかかわった数々の人の声を通じて、たしかにもう一度、オシム監督が生き返る。もちろん金言が随所にちりばめられている」と評している。
また今回の受賞に対し、著者の島沢優子氏は「スポーツは教育と地続きであり、単なるコンテンツではなく社会を形成する大きな要素です。スポーツが変われば社会が変わる。そして、日本サッカーの未来をつくるのは子どもたちです」「オシムさんは最も信頼を寄せた日本人である祖母井秀隆さんにこう告げました。『おまえは、子どものことをやれ』その言葉は自分に向けられているのだと、私は勝手に思っています。今回の受賞を糧にします」とオシム氏へ敬意を表していた。
<「サッカー本大賞2024」名著復刊賞>
「名著復刊賞」は今回から創設された新たな賞で、受賞したのは1998年に刊行され、2023年に改訂増補版として蘇った『スタジアムの神と悪魔――サッカー外伝・改訂増補版』(著:エドゥアルド・ガレアーノ、翻訳:飯島みどり/木星社)。世界中のサッカーファンやジャーナリストによって読み継がれてきたエドゥアルド・ガレアーノ氏による極上のエッセイを収録しており、その数はなんと全156篇となっている。
選考委員の一員である金井真紀氏も同作から多大な影響を受けていたらしく、「何年経っても古びないサッカー本を見事に復刊してくれた関係者のみなさまに心からの拍手と『ブラボー!』を」と興奮気味のコメントを寄せていた。
そして受賞に際しては、出版元の木星社から発行人および編集を務めた藤代きよ氏がコメントを発表。同作への思い入れを語りつつ、「今回この本を目にとめていただいたことで、多くの人にガレアーノの言葉が届いていくと思います。これに勝る喜びはありません」と感謝を告げている。
<「サッカー本大賞2024」戦術・理論賞>
アーセナルFCを約20年に渡って率いた名将アーセン・ヴェンゲル氏は、「サッカーの試合を変革する次のカギは、神経科学だ。次に学ぶべきステップは、脳のスピードなのだ」と語った。なぜなら現代サッカーにおけるフィジカルやタクティクスのレベルは極限に達しており、今や無意識下でのプレーを覚醒させるフェーズに入っているからだ。
それを実現させるために必要とされる「ヴィセラルトレーニング」のメソッドを記したのが、「戦術・理論賞」に選ばれた『フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論』(著:ヘルマン・カスターニョス、監修:進藤正幸、翻訳:結城康平/カンゼン)。
「無意識」をコントロールするのは至難の業と想像できるが、幅氏は「見えないものを形にして伝えるのは難しい。ところが、本書は『無意識』という認知の向こう側にあるものを分かりやすくも厳密に伝えることに成功した稀有な本である」と評している。
他方で授賞式にカスターニョス氏の出席は叶わなかったが、代理人を通して「『フットボールヴィセラルトレーニング』が受賞され、とてもうれしく思っています。イングランド・プレミアリーグ、アルゼンチンリーグ、ペルーリーグでは、すでに私のトレーニング理論が実際に使われています。近いうちに、Jリーグでもこの理論を活用してくれるチームが現れることを祈っています」とメッセージを寄せた。
<優秀作品(順不同)>
『戦術リストランテVII「デジタル化」したサッカーの未来』(西部謙司/ソル・メディア)
『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(長束恭行/ソル・メディア)
『ドイツサッカー文化論』(著:須田芳正、福岡正高、杉崎達哉、福士徳文/東洋館出版社)
『モダンサッカー3.0「ポジショナルプレー」から「ファンクショナルプレー」へ』(著:アレッサンドロ・フォルミサーノ、片野道郎/ソル・メディア)
『聞く、伝える、考える。~私がサッカーから学び 人を育てる上で貫いたこと~』(今西和男/アスリートマガジン)
『森保ストラテジー サッカー最強国撃破への長き物語』(五百蔵容/星海社)
『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』(ひぐらしひなつ/エクスナレッジ)
果たして2024年は、どんなサッカー本が界隈を盛り上げてくれるのか。そして次回の「サッカー本大賞」では、どんな作品が選ばれるのだろうか?