男子校の日常には下ネタが多すぎる? 中高一貫の男子校生活をリアルに描いた人気エッセイ漫画『男子校の生態』
公開日:2024/6/27
『男子校の生態』(コンテくん/KADOKAWA)という、男子校エッセイマンガをご存じだろうか。発売後、続々と重版された人気作だ。2024年3月に続刊も発売されたばかり。主人公は、中学受験を経て中高一貫男子校に入学したコンテくん。作者自身が体験した男子校での6年間の出来事が様々なテーマを元に描かれていく。
やわらかな色合いとやさしいタッチで描かれる登場人物たちは、まさに「ほっこり」や「ゆるい」といった言葉がぴったり。最大6歳差の環境で青春を謳歌する姿は、朗らかで清々しい。しかし本作を「ほんわかエピソードが満載の高校生エッセイなのね」と思って読み始めるとちょっとびっくりする人もいるかもしれない。
このレビューでは本作を男子校エッセイたらしめる、あの話題に果敢に触れたいと思う。そう、「下ネタ」である。
下ネタ? と驚いた方にまずは説明させていただきたい。なぜこのレビューが鼻息荒く本作の下ネタに言及し始めているのかというと「こんなに下ネタが多いと思わなかった」と戸惑う読者の声を目にしたからだ。いやいや違うんだ、この下ネタこそ『男子校の生態』の特徴なんだよ! と、この場を借りて勝手ながらフォローさせてもらおうと思う。
作中では時に開けっぴろげに、時にひそやかに、彼らの下ネタトークが炸裂している。2023年の「広島本大賞」コミック部門大賞に輝いた際にも「下ネタが多いのではないか」と審議になったようで、やはり読了勢としては気になるポイントなのかもしれない。
誤解がないように説明しておくと、決してどぎついワードが飛び交っているわけではない。ただ、人によっては「こんなに下ネタが飛び交うものなの!?」と驚く方もいるかもしれないので、そこは読む前に心の準備をしておいてほしいなと思う。
本作はSNSに投稿されていた作品を書籍化したもの。「こんなに下ネタが多いと思わなかった」…そんな声を予想して、エロワードや下ネタを抑えつつ、爽やかエピソードをメインに書籍化する方向にも舵をきれたはずだ。しかし実際にはそういった部分を排除するのではなく残したまま発売された。
そこに本作が思い出の外付けハードディスク的な役割をしっかり果たしていることをひしひしと感じるし、男子校エッセイとしての矜持が伝わってくる。
エッセイの魅力のひとつに、紹介されるエピソードによって自分の記憶を振り返ることができる点がある。初恋について描かれたエッセイを読めば自分の初恋相手にぼんやり思いをはせるし、仕事の話が書かれていれば新入社員当時の苦い思い出がうっすら蘇ったりもする。目にしたエピソードの解像度が高ければ高いほど、するするっと記憶が蘇ってくる気がする。
そう、エッセイを読むと外付けハードディスクを検索するように忘れていた記憶にアクセスすることができる。だからこそ、男子校エッセイを名乗る以上は彼らの6年間の中に幾度となく登場したであろう下ネタを外すことはできなかっただろうし、それによって思い出の扉をノックされた男子校経験者も多かったはず。男子校=下ネタの図式は安易に成立しないが、作中の彼らの日常の中に下ネタは確かにあったのだ。
作品の品位を損なうどころか、至る所にちりばめられた下ネタこそが本作を「経験者が語る男子校エッセイ」として輝かせていることは間違いないだろう。
エロネタ? 下ネタ? と訝しがらずに、どうかページをめくってみてほしい。めくるめく男子校生たちの「生態」に、ぎょっとしたりニヤッとしたり、感情が忙しくなることうけあいだ。もちろん、爽やか青春エピソードも満載なのでご安心を!