子どもの『マインクラフト』は止めてはいけない!? 最先端の『マイクラ』教育をまとめた著者の語る有効的な活用方法〈インタビュー〉
公開日:2024/5/18
全世界の累計販売数は3億本を超え、「最も売れたインディーゲーム」というギネス記録を持つ『Minecraft(マインクラフト)』(以下、『マイクラ』)はご存じだろうか。そして、その『マイクラ』が「マインクラフト造形学」という単位のある大学の授業に採用されたことを知っているだろうか。
2024年4月10日、『子どもの能力が伸びるマインクラフトの使い方』(タツナミシュウイチ/ポプラ社)という書籍が発売され好評を博している。著者のタツナミさんは、東京大学や常葉大学などで『マイクラ』の授業を受け持つ客員教授・客員研究員で、日本初のプロマインクラフター。つまり、『マイクラ』で生計を立てる「マイクラおじさん」だ。
そんなマイクラおじさんの視点で書かれた『マイクラ』は、単なるゲームの枠にとどまることのない夢や希望に満ち溢れている。書籍には、公開から15年経っても愛され続ける『マイクラ』というゲームが、教育という全く別の領域にさえ活用される不思議な魅力と底知れなさがギュッと濃縮されていた。「うちの子は『マイクラ』ばかりやっているけど大丈夫かな?」という人にこそ読んでほしい一冊だ。
『マイクラ』が教育にどのように活用され、子どもにどのような影響を与えているのか。書籍の内容も踏まえたうえで、懸念点から有効的な活用方法まで、タツナミさんに直接お話を伺った。
『マイクラ』はゲームではなく“プラットフォーム”
――まずは基本的な質問からさせてください。全く知らない方に『マイクラ』を説明するとしたら、どのようなゲームだと言えますか。
タツナミシュウイチさん(以下、タツナミ):一言でいうと「デジタル上の自由な砂場」です。簡単に説明するとサンドボックスというジャンルで、デジタル空間に正方形のブロックを積み上げて自由に世界を作っていくゲームですね。
この世界のことをワールドと呼ぶんですが、ワールド内ではブロックを積み重ねて何を作ってもいいし、ワールド内に作られたもので遊んでもいいし、何ならちょっと触ってみるだけでも見ているだけでもいい。「何をしてもOKな空間」が『マイクラ』だと思っていただけるとわかりやすいと思います。
――建築するゲームという印象も強そうです。
タツナミ:よく言われるのですが、建築は『マイクラ』の本当にごくごく一部の要素ですね。建築だけでなく、『マイクラ』内でプログラミングもできちゃいます。クリエイティブなことだけではなくて、作られたワールドの中でアスレチックや鬼ごっこをするといった「遊び」も自在ですし、はたまたモンスターの出てくるワールドでただただストイックに生き残るサバイバルにも挑戦可能です。工夫次第で何でもできて、何をしてもいいと受け入れてくれるのが『マイクラ』です。
――デジタルであるという強みはありますか。
タツナミ:まず大きいのがマルチプレイ、つまり複数人で遊べるところですね。ネットワークを利用して、世界中の人が入って来られるワールドの中で自分たちの活動ができます。家にいながら友達と一緒のワールドで遊べますし、設定次第では外国の方とも一緒にプレイ可能です。
もうひとつの強みが、デジタル資源を使えることです。どれだけブロックを積み上げて世界を広げても原価がかからないんですね。4000円弱で『マイクラ』を買ってしまえば、電気代だけで一生コンテンツや世界を作り続けられるようなものです。
――実際、『マイクラ』は今の子どもたちにどのくらい人気なのでしょうか。
タツナミ:大人気ですよ。実際に講演に行って「『マイクラ』やっている人」とか「『マイクラ』やってないけど動画は見たことある人」とかって聞いたら「はーい」って手がいっぱい挙がります。逆に「知らない人」と聞いても手はほとんど挙がりません。
これは、YouTubeなどで活動されているストリーマーの皆さんのお力が大きいとは思います。HIKAKINさんをはじめとした多くの方がプレイ動画や配信を上げていて、『マイクラ』のおもしろさや魅力を発信してくれているんです。その土壌があるからこそ、僕らのような存在が教育などに発展させていけます。
データ的な面で言うと、全世界で累計3億本も売れているのが大きいです。これは並のゲームでは太刀打ちできない数字なんですよ。有名な『スーパーマリオ』とか『ドラゴンクエスト』とか『ファイナルファンタジー』でも、1億売れたら相当すごいという世界で3億。シリーズではなく1つの作品だけで、超有名ゲームの2~3倍普及していると考えたら、『マイクラ』の人気も理解しやすいのではないでしょうか。
――本作はそんな『マイクラ』に関する書籍ですが、どのような人に読んでほしいと思って書かれたのでしょうか。
タツナミ:ぜひ読んでほしいと思っているのは、世のお父さん・お母さんといった保護者の方々です。これは僕が現場に立つ度に「タツナミ先生の言うこともわかるんですけど、でもやっぱり『マイクラ』ってゲームですよね」と言われ続けてきたから書いたといっても過言ではありません。
というのも、僕は10年ぐらい前から『マイクラ』はゲームじゃないと思っているからなんです。
――ゲームじゃない、とは?
タツナミ:『マイクラ』はゲームや娯楽というカテゴリに収めておくにはあまりにも大きすぎる存在なんです。活かし方次第で、世のためにも人のためにもなるのは間違いない。僕自身は、ゲームではなくYouTubeなどと同様の「プラットフォーム」だと思っています。
――プラットフォームとゲームは何が違うのでしょうか。
タツナミ:『マイクラ』が公開されてちょっと経った2010年の中頃、Alpha v1.0.0というバージョンが出たのですが、その時にレッドストーン回路と呼ばれるシステム(論理回路)が実装されたんです。この回路の登場によって『マイクラ』内で入力・出力・伝達という3つの要素が活用できるようになり、自動ドアといったギミックが作れるようになったのですが、これを応用するとワールド内にCPUさえ再現可能になりました。どういうことかと言うと、この回路の使い方次第で『マイクラ』(コンピュータ)内にコンピュータを作れるようになった、という。ブロックを積むだけのゲームだった『マイクラ』に無限の可能性が生まれたんです。
ただブロックを積むだけだったら、お絵かきゲームとか街作りゲームの領域を飛び出さなかったと思うんですけど、回路やプログラムをワールドの中で比較的簡単に作れる環境が実装されたことで、ゲームではなくシミュレーションツールや開発ツールといったさまざまな「ツール」の側面を持ち始めたんです。
このようなプログラミング的な要素を持ったツールが、ゲームという楽しくわかりやすい形で提供され、しかも爆発的に普及していて子どもにも人気があり、教育にも活用され始めている…。だから『マイクラ』は「もの作りプラットフォーム」であるという考えに至りました。
数学・理科・英語…広がる『マイクラ』の教育活用事例
――書籍内では、『マイクラ』の教育への活用として「現実にある建造物を再現する」「月面を再現する」といった再現系の実例が多く紹介されていましたが、それ以外にはどのように活用されていますか。
タツナミ:まず理解しやすいのは数学での活用でしょうか。初めに、単純にプレイするだけで3次元の空間概念を学べます。いわゆるXYZの座標がどういうものなのか、という数学的な考え方ですね。あとは、面積や容積といったものを求めるときに、ブロックで3次元空間に再現して体感的に理解させる、といったことも行われています。
また、愛知に岩田智文先生という方がいて、理科の授業で『マイクラ』を活用されています。先ほどのレッドストーン回路を活用しやすいというのと、あとは元素ブロックというものも存在していまして。Hのブロック2つとOのブロック1つを組み合わせたらH2O(水)ができるという、現実の元素と同じようなことがそのまま再現されているので、理科との相性は抜群なんですよ。
その他、書籍内で紹介しているため詳しくは読んでいただきたいのですが、英語の授業でも『マイクラ』は活用されています。そろそろ考古学などにも活用されそうですし、『マイクラ』の要素を使ったカリキュラムを無限に作ることは可能だと思います。
――『マイクラ』を教育に活用するうえでの強みはどのようなことが考えられますか。
タツナミ:実際に見て、触れて、試してみるといった体験学習がデジタル上でできるという部分です。教科書や図鑑での教育とはアプローチが違うことですね。また『マイクラ』は、本に書かれていることを頭の中に入れるにあたって、障壁や抵抗感をほぼゼロにしてくれる存在だとも思います。
――障壁や抵抗感をほぼゼロにするとは?
タツナミ:机に向かって教科書とか参考書、計算ドリルとかを用いるような勉強方法だと、「やらなきゃいけない」みたいな抵抗感とかプレッシャーを感じながら、テストで良い点を取るために無理やり頭の中に詰め込もうとするんじゃないでしょうか。でも『マイクラ』で自分のやりたいことを実現するための勉強は、「どうやったら実現できるだろう」と考えながら調べるので、さまざまな要素の繋がりを自分で発見しながら学べるんです。効率の良さやコストパフォーマンスの観点でどちらがよいか、と考えたら『マイクラ』に軍配が上がりますよね。
もちろん5教科7科目すべてで『マイクラ』を活用できるかどうかはわかりません。実際に今いろいろと試行錯誤している最中です。向き不向きもあるので、『マイクラ』より教科書の方が勉強できる子もいると思います。
ただ、少なくとも数学や理科といった理系の分野で『マイクラ』が活用できるのは間違いありません。子どもたちに、大人になっても覚えているというレベルで知識を定着させるための教育道具として『マイクラ』は有用だと思います。
――例えば教育に『マイクラ』を導入したいという方々が、上司を説得するためにはどうしたらいいと考えますか。
タツナミ:実はそういうお声は現場の先生からたくさんいただいています。でも僕には、その学校すべてに行って教頭先生や校長先生を説得する時間はないんですよ。なので、その先生方にがんばってもらうしかなく、僕にできるのはその後押しだけだと考えています。後押しに必要なのは根拠に加えて実績や結果だと思うので、愚直に実践を繰り返し、研究を繰り返し、数字を出し、結果を出し、っていうのをやり続けてきました。
そんな中で一昨年、常葉大学でマインクラフト造形学という授業が始まったんです。日本で初めて、オフィシャルな大学の単位のある授業として『マイクラ』を導入できたという実績もあってか、去年の夏には東京大学で『マイクラ』を実際の授業や研究に使用する活動も始まりました。
根拠としてかなり固まってきたという実感もあり、今回書籍という形で発表させていただいた、という面もあります。説得材料のひとつとして活用していただけたらとても嬉しいです。
『マイクラ』をやりすぎる我が子に抱く3つの不安
――保護者の視点では、本当にゲームが子どもの教育に繋がるかどうかはどうしても懐疑的だと思います。研究やデータから説得するとしたらどのような方法が考えられますか。
タツナミ:海外にはたくさんありますが、国内だと『マイクラ』を使った教育に関する論文はまだまだ少ないのが実情です。本当にどうしても根拠が必要であれば、海外の論文をひもといていただくのがよいと思います。
もちろん、実践例としては山のようにあります。書籍内にもありますが、歴史の学習において、特に広島のワークショップは『マイクラ』ならではの実例だと思います。
これは広島の原爆の歴史を今の子どもたちに伝えることを目的としたワークショップだったのですが、やはり話して聞かせるだけだと現状とかけ離れすぎていて想像しづらいんです。
そこで、初めにかつてあった広島の街並みを『マイクラ』上で再現し、そこにいろいろなNPC(住民)をたくさん配置して、そのワールドを探索して楽しんでもらいました。その後、『マイクラ』上で作ったワールドとは異なり、現実の世界では原爆によって平和な生活が壊されてしまった、ということを伝えてみたんです。
『マイクラ』というプラットフォームを介することで、どういうことが起こったのか、その結果何が失われたのか、何が大切なのかっていうのを知ってもらうことができました。『マイクラ』の世界観だからこそ、直接的すぎないマイルドな表現で体感してもらうことが可能だったと思います。
――書籍内ではクリエイティブモードが推奨されていますが、子どもがサバイバルモードばかりプレイしている状況の場合はどうすべきでしょうか。
タツナミ:まず間違うといけないのは、『マイクラ』はもともとゾンビを倒して生き延びるサバイバルゲームとして生まれたということです。それは基本の機能で、実際プレイすると楽しいので、「やるな」と言うつもりはありません。ただ伝えたいのは、それだけにしておくのはもったいない、可能性を秘めたプラットフォームだということです。
実際にサバイバルモードばかりプレイすることもあると思います。その子の特性にもよると思いますし、もしかしたらその子にとってクリエイティブモードはつまらないのかもしれません。でも、それはそれで仕方がないと思って大丈夫です。むしろそこで、クリエイティブモードを押しつけるべきではありません。『マイクラ』の教育的な使い方は、やりたいという意欲があって初めて効果は出るものなので、興味や探究心があるっていうところからスタートしないと意味がありません。
ただ、向いている方向を導いてあげることはできるんじゃないかな、と思います。「『マイクラ』ですごいの見つけたんだけど」と言って壮大なゴシック建築の動画を見せてあげる、とか。そこで「うわ、何これ?」ってなって目がキラッと光ったらしめたものですよね。「お父さん、『マイクラ』でこんなのできるって知らなかったんだよね。こういうの作らないの?」とか「こういうの作るんだったら、別に1時間やっててもいいよ」とか。もちろん、うまーくですよ。
何だったら「お父さんも遊びに行きたいんだけど」とかって言うと、さらに目がキラキラ光る子もいると思います。それには、いろいろな理由があると思っていて。まず、自分の大好きな『マイクラ』を認めてもらえたっていう気持ちと、親が同じステージに立ってくれた嬉しさみたいなものがきっとあるんですね。そういうのも、一歩踏み出すきっかけにはなると思うので、そこに上手に導いてあげることができれば、クリエイティブに開花する可能性は十分あると思います。
――最後に、デジタル依存やゲーム依存についてはどうお考えでしょうか。
タツナミ:これはとてもセンシティブなお話で、何とも言えないというのが正直なところです。というのも、僕は『マイクラ』依存者ですから。だって、朝8時から夜中12時まで10時間以上ぶっ通しで『マイクラ』をプレイできるのは、やっぱり普通の基準で考えたらおかしいですよ。僕はマイクラが好きすぎるという個性を持っている人間で、それがいい方向に働いたから今のこの仕事ができています。だからこの個性を持っていて良かったと思う反面、熱中しすぎて体調を崩すこともあります。お子さんのことを考えると、度を超えてプレイさせ続けるのはやめさせるべきです。
ただ、ゲームだからダメという色眼鏡では見ないでほしいです。例えば、ずっとボールを蹴り続けるとか、ずっと本を読み続けるとか、それはボール依存だったり本依存だったりすると思うんです。何であっても、やりすぎれば体調を崩してしまうし、それはよくないと思います。そこはフラットに考えて、適度な時間を取ってあげつつ、その中でいかに効率のいい濃密な学びを得られるか、っていうところに頭を働かせてあげてほしい。
例えば「せっかくブロック積み上げるんだったら、こういうのを作ってみたら?」とか「一緒にやってみようよ」とか「今日はここまでにしようか」とか、手を差し伸べてあげることでやめ時もわかってくるでしょうし、依存まではいかないと思います。
もちろん彼らはやりたくてやっているので、やめることはストレスや我慢に繋がります。そこをうまく解消してあげられるような環境作りはすごく大事なことだと思いますし、それができるのは親御さんだけだと思いますね。
――できるだけお子さんが『マイクラ』を集中してプレイできる環境を作りつつ、生活は守ってあげるというバランスが重要ですね。
タツナミ:そうですね。あとは別の視点で言うと、『マイクラ』でクリエイティブを行う際に重要なのはインプットだというのも救いがあるかもしれません。インプット、ビルディング、アウトプットという3段階で進めていくのですが、「こういう建物を作りたい」っていう設計を自分で描いてみるとか、参考になる写真を図書館の本から集めてくるとか、その最初の段階であるインプットの時間ですね。その時間があったうえで『マイクラ』のクリエイティブに集中するビルディングの時間を作るというのも、依存を防ぐひとつの手段だと思います。
『マイクラ』は活用方法次第でお子さんの能力を劇的に成長させられる可能性を持ったプラットフォームなので、うまくそこに導いてあげてほしいなと思います。またその一助として、本書を役立ててもらえたらとても嬉しいです。
取材・文=河村六四、撮影=三浦貴哉