アン ミカ「生きる哲学が詰まっている」友達につい配ってしまう般若心経【私の愛読書】

文芸・カルチャー

公開日:2024/5/27

アン ミカさん

さまざまなジャンルで活躍する著名人たちに、お気に入りの一冊をご紹介いただく連載「私の愛読書」。この度ご登場いただくのは、自己肯定感がUPする絵本『スパゲッティになりたいラーメン じぶんをすきになるえほん』(KADOKAWA)の翻訳を手がけたモデルでタレントのアン ミカさん。いつもポジティブなアン ミカさんの選ぶ「愛読書」とは?

●『陰翳礼讃』と『般ニャ心経』

――アン ミカさんの愛読書は谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』なんですね。

アン ミカ:昔から定期的に一年に一度読みたくなる一冊です。光と影の織りなす情景をずっと趣味人の愚痴みたいに書いているのがすごく好きで、読むと落ち着くんですね。実はアメリカ人の旦那さんもこの本が好きで、彼と家を作り直した時にも、この本を参考にして書斎の壁を全部漆の赤と桜の木の茶で作って、上手く影と光のコントラストを作るようにしました。本来なら書斎は明るいほうが目にはいいんですけど、その空間がすごく落ち着くし馴染むんです。他にも愛読書というか、人にプレゼントして回っている本があって。『ラク~に生きるヒントが見つかる 般ニャ心経』(星雲社)という薬師寺の加藤執事長が監修された本です。般若心経がめちゃくちゃわかりやすく優しく書いてあるうえに、かわいい猫ちゃんの写真が添えられていてすごく癒される。実は般若心経の本は今までも色々プレゼントしてきたんですが、この本が一番お気に入りです。

陰翳礼讃
陰翳礼讃』(谷崎潤一/郎/KADOKAWA)
ラク~に生きるヒントが見つかる 般ニャ心経
ラク~に生きるヒントが見つかる 般ニャ心経』(加藤朝胤:監修/星雲社)

――どうして般若心経をプレゼントされてきたんですか?

アン ミカ:以前、韓国のチェジュ島に両親のお墓を作りに行ったんですが、それがちょうどお釈迦様の誕生日である4月8日で、すごく不思議な体験をして仏教に興味を持ったのがきっかけです。私の地元には山の中腹に「山房窟寺(サンバングルサ)」という石窟(せっくつ)があるのですが、そこには大昔神様がすごく綺麗な女性の姿で麓に下りてきたけれど、綺麗すぎるから人間にいじめられて人間の醜さを知って山に戻ったという伝説があって、今も洞窟から涙のように「薬水(やくす)」という水滴が落ちてきて、それを飲むと病気が治るといわれるんです。洞窟に着くまでにはかなりの階段を登らなきゃならないんですが、ちょうどお祭りをやっていたので、その日はそこに登ることに。

 いざ登ってみると、体中の細胞が逆に立つみたいな感覚になって、山を下りたら不思議な夢を数日間見て、なんだかすごくそこの神様と感応してしまったんですね。それからもっと「幸せ脳」のことをたくさんの方に伝えようと思うようになりましたし、日本の良さを知る在日韓国人としてもっと母国のことも知ろうと韓国に留学したりもしました。その後も不思議と4月8日に色々あったので、仏教に興味を持つようになって勉強していったんです。そうしたら「仏教」というのが本当に争うことなく、淡々と哲学を説いているのがわかってきて、あるときからすごく惹かれるようになったんですね。お家で写経をしたりすると、すごく気持ちがいいんです。それで「般若心経って面白いな」って思うようにもなりました。

――どんなところが面白いんでしょう?

アン ミカ:般若心経には「生きる哲学」が詰まっているんですよね。「観自在」から始まって、「自分の今を見つめて、変化を受け入れて、こだわりから自由になって、空(くう)だよ」「さっきまであると思ってたもの、ないよ、別に」みたいな感じで。「まずは自分なりの道を歩んでいこう、イエイ!」みたいな感覚もあって、実は色々な捉え方ができる哲学なんですよ。

――ラップで般若心経をやっている人も見たことがあります。

アン ミカ:面白いですね。私もラップみたいな気持ちなんですよ。だからいいなと思って。私はぐいっと集中力が高いタイプなんですが、情熱的になりやすいってことは、短気にもなりやすいし決めつけやすいという一長一短があるんですよね。だからこそ、この軽やかさがすごくよくて、グッとなったものを柔らかくするというのはすごく大事だと思うんです。その意味で自分がすごく助けられているから、友だちに「これ超かわいいの」って軽やかに渡しています。パッと開いたページを読むと楽になれるというか、中道に戻れると思うんですよね。

●年末年始は波の音を聞きながら「本屋大賞」にどっぷり

――本はどのくらい読まれますか?

アン ミカ:本は大好きで、昔は往復の新幹線は絶対に本を読んでいたんですが、この4年くらいありがたいことに仕事を忙しくさせていただいているので、その時間は次の仕事の資料を読まなくてはならなくて。なので普段はあまり読めないので、年末年始に一気に読みます。私、本屋大賞が好きで、毎年、年末年始に本屋大賞の10位までの本と翻訳部門の上位3冊を読ませて頂いています。

――では年末年始は貴重な時間ですね。

アン ミカ:そうなんです。もう一日中波の音を聞きながら本を読んで、1ヶ月くらい過ごします。私、旦那様と夏と年末年始に休むという「婚前契約」を結んでいるんです。私が仕事しすぎるので心配してのことなのですが、夏は1週間から10日くらいと年末年始は1ヶ月、強制的に休まなきゃならなくて、破ると離婚されちゃう(笑)。実は私は休むのがすごく苦手で、休んでしまうと忘れられちゃうんじゃないかとイライラしてくるほうだったんですが、10年以上経って、年齢的にも50代になり、やっと休みが楽しみになってきました。体力も昔ほどじゃないので、「あと1週間で休める!」と思うと年末の忙しい時期も頑張れるんです。

――1ヶ月は贅沢ですね!

アン ミカ:ハワイでもノースショアとか、あまり人のいないマニアックなコテージでずっと過ごすんです。目の前が海で、ハンモックで本を読んで、疲れたら寝て、食べて、運動したくなったらゴルフする…それだけの生活をします。そこに読みたい本を持っていって楽しみます。

――いいですね! 今年も本屋大賞でたくさん面白い本が選ばれていますから、ぜひ楽しんでください。ありがとうございました。

<第48回に続く>

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