「生きづらさ」を理由に私を蝕む友人。同じように悩む人に届けたいとマンガに込めたメッセージ【インタビュー】
公開日:2024/6/13
日常に潜む恐怖や怪異、思わずゾッとするような出来事を描いたマンガをSNSに投稿し、大きな話題になっているしばたまさん。しばたまさんのSNSに寄せられた体験談をもとにしているだけに、どの話もリアルな恐怖でいっぱい! 2冊目の単行本となる『身の毛がよだつゾッとした話』(しばたま/KADOKAWA)には、自身の体験から生まれた作品「友人の話」も収録されている。
――このお話はしばたまさん自身の体験に基づいたセミフィクションとのことですが、なぜ描こうと思ったのでしょうか。
しばたま:私は自分のマンガには、なにかしらの教訓やアドバイスを盛り込みたいと、いつも思っています。『身の毛がよだつゾッとした話』に載っているような犯罪絡みの怖い話だったら、「戸締りに気をつけましょう」とか「夜道を歩くときはイヤホンはつけないで」とか。「友人の話」も、自分がかつて体験したことを描くことで、今現在同じような状況にある方のお役に立てたらと思ったんです。
――その「友人の話」は、生きづらさを抱える女性・小春が、自分を理解してくれる友人・佳奈子と出会うものの、結局、関係が破綻してしまう内容です。前半は小春視点、後半は佳奈子視点で進みます。最初は、小春は傷つきやすくてかわいそうな人なのだな……と見えるのですが、佳奈子視点になると、生きづらさを理由にして周囲に迷惑をかけている人物のように見えてきます。
しばたま:同じ出来事でも、見方を変えるとまったく違う物語になるんじゃないかと思うんです。まず小春の言い分や考え方を示して、これまでつらい思いをたくさんしてきた人なんだろうと(読者に)共感してもらいたかった。その次に佳奈子の目に映る小春を描くことで、彼女自身が思っている自分の姿とのズレを出しました。自分はいろんな人から迫害されてきたと主張する小春ですが、はたしてほんとうに“被害者”なのだろうか……? と読む方に想像していただきたくて。
――実際に小春のような“友人”が、しばたまさんにはいたのでしょうか?
しばたま:そうですね、私自身はマンガの中でいうところの佳奈子でした。当時の自分は“小春”との関係に疲れきっていて、会うたびに精神が削られていくようでした。どうして友だちなのに、会うとこんなにも疲弊するんだろう、と不思議で仕方がなくて。今振り返ると、依存のかたちをとって縛られていたからなのだと分かるのですが、あの頃はほんとうに、どうしてこんなに苦しいのか分からなかったんです。渦中にいると見えなくなっちゃうんですね。
――マンガでは、小春との共通の友人が佳奈子に指摘しますね。「小春は人にルールを課して、自分の生きやすい環境を作ってきた人なのだ」と。そこで佳奈子が、はっと気がつくのが印象的でした。小春の呪縛から解かれたようで。
しばたま:まさに私も第三者の友人からそう言われ、初めて「ああ、そうだったんだ」と気づいたんです。それまで自分は精神的に強い、しっかり者だという自負があったので、それだけにショックでしたね。知らず知らずに縛られていたなんて……と。
――途中で友だち関係をやめようとは思わなかったのですか?
しばたま:ここで見棄てちゃいけない、という気持ちにさせられてしまうようなものがある人だったんです。自分の中に、私が彼女を支えてあげてる、助けてあげてる、という意識も少なからずありました。ある種の共依存だったのかもしれません。
――お話をうかがっていると、小春のようなご友人はしばたまさんのそうした気持ちにつけ込んでいたのでは? と思えてくるのですが。
しばたま:そう……かもしれませんね。その友だちと付き合い続けるうちに自分の体調がだんだん悪くなっていって、それでも離れられなくて。第三者の友人から指摘をされて、ようやく気づけて。距離を置くようになってから私自身の不調も治まりました。
――マンガの小春は、初対面でいきなり佳奈子に自分は弱い人間だと打ち明けたり、「私のトリセツ」を語りだしたりしてますね。こういう人って確かにいるなあ……と感じました。距離感をすっ飛ばして相手の懐に入ってくるような。
しばたま:そこが、頼られているみたいで嬉しかったんですね。マンガ化する作業を通して、“小春”のことをもう少し分かったような気がします。思うに彼女は自分は心の病気だと思い込んでいたのではないのかな、と。私は病気なんだから私の言うとおりにして、という感じを放っていて、それでどうしても逆らえなかったのかもしれない。
――そのご友人との体験から得た教訓はありますか?
しばたま:自分はこんなにつらい思いをしてきた、と語る人を信用するな、というわけではないのですが(苦笑)、人から深刻なことを打ち明けられても100パーセント受けとめる必要はない、ということですね。この人はこんなに個人的な事情を私に打ち明けてくれたんだ、なんて思わなくていいんです。これはもう実体験から。
しばたま:自分の体験をマンガにすることには躊躇いがありました。実際に病を抱えていたり、人間関係に悩んでいたりする方たちに追い打ちをかけることになったらどうしよう……と。佳奈子は小春から離れていくことを選びましたが、けっして「苦しんでいる人を見棄てよう」と言いたいわけではないんです。相手に我慢を強いるような人間関係は破綻してるし、そんな関係からは逃げていい、ということを伝えたかった。誰かを支えてパンクしそうになっている人、誰かに支えてもらわないと潰れてしまいそうな人、いろんな立場の方たちに読んでもらえたら嬉しいです。
取材・文=皆川ちか