福岡芸人の大先輩、博多大吉がバッドボーイズ清人の自伝的コミックエッセイ『おばあちゃんこ』を語る。強烈な貧乏体験に「僕には生々しくて何回も読めないよ」
公開日:2024/6/1
目が見えないおばあちゃんと、その3人の息子たちとの暮らしを軸に、幼少期の思い出を綴ったバッドボーイズ清人のコミックエッセイ『おばあちゃんこ』。ほんわかとしたタッチの絵柄だが、きれいごとからはみ出した貧困や暴力も描かれ、優しさのなかにどこかヒリヒリとした読後感も残るのが特徴だ。そんな『おばあちゃんこ』に推薦コメントを寄せているのが、かつて清人と同居生活を送った時期もある博多大吉。
バッドボーイズが福岡吉本に入所したときの看板芸人であった博多大吉は、出会ってから25年以上の時を経た今、作品やその舞台である福岡について、清人という作者の人間性や中堅芸人としての今後の生き方について、清人に何を語りかけるのか……。たっぷりとお届けします!
誕生日に、清人からいきなり似顔絵をプレゼントされた
――清人さんの幼少時代を描いたコミックエッセイ『おばあちゃんこ』が発売されました。まずはこの作品を描いた経緯を教えてください。
清人 大きな理由としては、父がコロナ禍の頃に倒れて、「覚悟しなくてはいけない」という状況になったことです。「昔話のできる相手が一人もいなくなる」ということがなんかすごく衝撃的で、かなりヘンな形ですけど、僕の家族について何か形にしたいと思ったんですね。で、それがなんで漫画だったかというと、もともと絵を描くことは好きだったんですが、10年くらい前に楽屋で会ったインパルスの板倉(俊之)くんに「今のうちから描いておいた方が良いですよ」と言われたんです。それがきっかけだったと思います。といっても、実際にはそれから2年くらい経ってようやく、漫画入門的な本と共に、道具一式を揃えた感じで……。
――当時はどんなジャンルの漫画を描こうとしたのでしょうか?
清人 異能バトルみたいなものを描きたくて頑張っていました。
大吉 絵を描くのが好きなことは、上京した頃、清人と一緒に住んでいた時期があったので知っていました。覚えているのが、誕生日プレゼントとしていきなり似顔絵をもらったことですね。そんなの恥ずかしいじゃないですか。「冗談じゃない、いらない!」と(笑)
清人 拒否されました(苦笑)
大吉 それから数年後に、「今、漫画を描いているんです」と見せられたのが、さっき清人が言っていた異能バトルものの漫画で。まぁ、どんな作品かと具体的に名前を出すなら、『ONE PIECE』ですよ(笑)
清人 (笑)
大吉 頑張って描いているのはわかる。でも、素人目線で見ても「これは売れんばい」と。「出版社も食いつかんし、読者からもどっかで見た話だなと思われるよ」と正直に伝えました。だから今回、漫画を発売すると聞いて「まさかあのときのアレが……」と頭をよぎりましたが、おばあちゃんの話だった。「そう、そっちで良い!」と強く思いましたね。
――『おばあちゃんこ』を読んで、どのような感想を持ちましたか?
大吉 清人も、ここまでのエピソードはお笑いの舞台でもほとんど喋ってないと思うんです。僕は彼を長く知っていて、仲が良いから多少は聞いていたつもりではありますけど。
清人 そうですね。描いていくうちに思い出したエピソードもけっこうありました。オチがないような、お笑いとしては成立しないようなエピソードも、漫画では表現できるのが大きかったかもしれません。長く芸人をやっていると、お笑いに使えない記憶がどんどんと薄れてしまうもので。そんな記憶とか人をすごく思い出しました。
大吉 エピソードがどれも信じられない話ばかりじゃないですか? だから、清人の口から聞いていたものは、多少盛ってはいるだろうから話半分、適当に流して聞いていたわけですよ。それがここまで細かく描いているのを読んで、「本当だったんだ……」と改めて衝撃を受けましたね。
――大吉さんも同じ福岡出身ということで、共感できる部分もありましたか?
大吉 僕もそんなに裕福じゃなかったんですけど、ネタになるほどではなくて。吉本にいると、貧乏エピソードの強い人がめちゃくちゃ多いので。『ホームレス中学生』の麒麟・田村(裕)くんとか、メッセンジャーの黒田(有)くんを筆頭に、「赤ん坊の頃、捨てられていて」とか、「寝ているときに耳をネズミに齧られて」とか、とんでもないエピソードだらけ(笑)。清人は私立の高校に通っていたので「恵まれている方かも」と思っていたんですけど、漫画を読んだら「もっと世間に言えよ!」と(笑)。本人はそうでもない風を気取っているけど、十分にあっち(強烈な貧乏)側だよ!と。
九州男児の嫌なところが全部出てくる(笑)
――清人さんのことを最も知る一人である大吉さんにとって、『おばあちゃんこ』で、初めて知った内容はありましたか?
大吉 帯にある推薦コメントを書いたときはまだ前半部分しか仕上がってなかったんです。後半に入ると、あのおじさんたちが登場してきてずいぶん話が変わる。
清人 こういうタイトルですけど、おばあちゃんのエピソードだけにこだわって描くつもりはなくて。3人のおじさんたちも一緒に住んでいたし、近所のおばちゃんや幼馴染、同級生たちの話も生活に大いに関わってくるので。だから、自然と後半は登場人物が多くなる流れになったんです。
――かつて出版された自伝的小説『ダブル☆ピース』では、『おばあちゃんこ』のその後も描かれていましたが、今後の展開も考えていますか?
清人 そうですね。今回描いたのは幼少期の一部なので。すでに漫画にも登場していますが、学校のクラスメイトや近所のおばちゃんたちのエピソードもまだまだいっぱいありますし、できれば続けていきたいですね。
大吉 続きかぁ……表現がちょっと難しいですけど、読みたい気持ちと、読んだらしんどくなるだろうなぁという気持ちが半々です。だって、『おばあちゃんこ』には、九州男児の嫌なところが全部出てくる(笑)。そういうのを見て育って、「あんな奴にはなりたくない」っていう世代なので。山ほどいたもんね、ああいう人たち。
清人 いましたね。もちろん、しんどかったときもあるのですが、それでも、みんなに愛してもらっていたとは思っているんです。おばあちゃんにも、周りの人にも。……いや、マサおっちゃん(※同居しているオジサンのひとりで、祖母の長男。夜に暴れ回る酒乱)は違うかな(笑)。
大吉 あのオジサンの行動とか、実写だったらシリアスすぎて、本当に辛い気持ちになると思う。冷静に一コマ一コマ見たら、地獄しかないんですよ。それが漫画だからサラッと読めるっていうのはあるでしょうね。