毎晩続く隣人からの嫌がらせ? それとも… 不気味なご近所トラブルを描いたコミックエッセイ
公開日:2024/6/20
騒音、ゴミ出し、駐車スペースについてなど、ご近所トラブルにはさまざまなものがある。『隣の家からのチカチカが止まらない話』(サル山ハハヲ/KADOKAWA)で描かれているのは、実際に作者の身に起きたことをもとにした、ちょっと変わったご近所トラブル。
顔も知らない隣人からの、終わりの見えない迷惑行為に心がすり減っていく…と思ったら、待ち受けているのは思いもよらない急展開。次々と謎が解き明かされていく爽快さに、読み進める手が止まらなくなる。序盤は濃い霧のなかを彷徨うような薄気味悪さや心細さを感じるが、全ての謎が解けて読み終わる頃には、きっと霧が晴れたようなすっきりした気分になっているだろう。ただのご近所トラブルでは終わらない、意外なストーリー展開が魅力の1冊だ。
物語は夫婦が中古の一軒家を購入するところから始まる。本作の主人公の立山春奈は、念願のマイホームで平穏な日々を送っていた。しかし引っ越して1カ月が過ぎたころから、右隣に住む人にチカチカと光の点滅を向けられるようになる。
直接文句を言われるのならば改善しようと心がけることもできるが、光の点滅だけではどうしようもない。チャイムを鳴らしても出てもらえないので、どんな人が住んでいるのかまったく分からないのも相まって、ただただ不気味だ。
春奈は声がうるさかったかもしれないと静かにするように努めたが、数日たってもチカチカはやめてもらえない。気のせいじゃないかとまともに取り合ってくれない夫にチカチカされる動画を見せるが、なあなあで済まされてしまう。親身に話を聞いてくれない夫に不満を募らせる春奈の心境には、共感を覚える人もいるだろう。隣人による迷惑行為はじわじわと春奈の余裕を奪い、やがて夫婦関係にヒビが入っていく。
夫が協力してくれないので、結局ひとりで隣人の家を訪ねた春奈だが、やはり隣人は出てこない。交番や役所にも相談に行くが、対応してもらえず、解決には至らないまま帰宅した。
そのとき、横沢家のカーテンの隙間からこちらを覗く男の人を目撃してしまう。ライトをチカチカしてくるだけでも不気味なのに、春奈を監視しているという衝撃の事実。読んでいて思わず身震いする気持ち悪さだ。
今はチカチカされるだけだが、いつか危害を加えられるかもしれない。ご近所トラブルの薄気味悪さに加えて、いずれ起こるかもしれない事件への恐怖がのしかかってくる。犯罪ではないからと帰された直後の事件の気配にゾクゾクしながらも、続きを読む手が止められない。
どうして自分の家に帰るだけで怖い思いをしなければならないのか。追い詰められた春奈は、ついに懐中電灯でチカチカをやり返すことを決意。そしてこの勇敢な1歩をきっかけに物語が大きく動く。チカチカをやり返された隣人の反応と、そこからどんどん変わっていく作品の雰囲気。解き明かされていく謎に夢中になりながら物語を読み進めていくと、驚きの事実に直面することになる。
薄気味悪いご近所トラブルから始まるこの物語。不安や恐怖に襲われながらも突き進んだ春奈を待つ意外な結末とは?
なお終盤では隣人の過去について知ることができる。さらに、結末を知ったうえで隣人の視点からもう一度、物語の流れを振り返ることができるのがこのコミックの面白いところだ。ぜひ本を手に取って、急転直下のストーリーを楽しんでほしい。