草笛光子、芸歴70年以上。厳しい芸能界も戦争の時代も、強く美しく生きぬいた女優の現在は?

文芸・カルチャー

PR 更新日:2024/6/11

きれいに生きましょうね 90歳のお茶飲み話
きれいに生きましょうね 90歳のお茶飲み話』(草笛光子/文藝春秋)

 輝くようなグレイヘアに映える気品あふれるカラフルなファッション…なんだか歳を取るごとにカッコよさを増していかれる女優・草笛光子さん。90歳になられた現在も女優として第一線で活躍されている草笛さんの姿を拝見するにつけ、「こんなに素敵に年齢を重ねたい!」と人生の目標にするアラフィフ女性は私だけではないだろう。そんな草笛さんが、このほどエッセイ『きれいに生きましょうね』(文藝春秋)を刊行されることになった。87歳の頃から始められた『週刊文春』での連載をまとめたという一冊には、草笛さんの「これまでの歩み」と「今」が詰まっている。

 本書に収められているのは森繁久彌、三木のり平、勝新太郎、市川崑といった往年のスターや映画監督との交遊や、兼高かおるとの深夜の長電話、奈良岡朋子、池内淳子との恒例女子会など女ともだちとの話、これまで手がけてきた舞台や映画、テレビでの様々なエピソードなどなど、芸歴70年を超える草笛さんならではの多くのレジェンド話。さらにはオレオレ詐欺を撃退した話や不眠との格闘、遺言書を書いた体験、舞台に立ち続けるための日々のトレーニングなど、「老い」に立ち向かう現在の自分についても飾らず正直に綴られている。「女優という仕事」や「オシャレ」(お化粧はずっとご自身でされているそうだ!)など気になる話にも一つ一つに「経験」がしっかり裏付けされており、その厚みにうーんとひたすら唸ってしまう。

 ちなみにこの本のタイトル「きれいに生きましょうね」は、「外見を美しく飾るのではなく、きれいな心で生きましょう」との意であり、草笛さんと草笛さんをマネージャーとして長く見守ってこられたお母様との合言葉だったとのこと。仕事で辛い目にあってもいじけず恨まず(実はこの本でたまに開陳される女優の意地悪エピソードは「やっぱりあるんだ!」的にちょい生々しい)、あくまでも「毅然」として生きていくことを親子で規範にしていたからこそ、今の凜とした草笛さんの佇まいがあるのだと深く納得する。

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 実は本書の最初の章「歯に衣着せずに」は、「私はいま、憤っています」の一文から始まる。テレビで長崎の原爆を記録した写真の中でも有名な「焼き場に立つ少年」を見たことに端を発しての一言なのだが、そのまま「絶対に戦争をしてはいけない」との強い思いをまっすぐ書き綴っている。元となった連載でもこの章は初回に当たるため、書き手によってはもう少しソフト目な書き口で始める方もいそうだが、この「強さ」が草笛さんらしさなのだろう。1933年生まれの草笛さんは戦争を体験された世代であり(戦時中に縁故疎開した先の群馬で下の妹さんを亡くすという辛い経験もされている)、悲劇の体験者だからこその思いも連載を引き受けた根底にあるのは間違いない。「87歳として歯に衣着せないで、言うだけのことを言う」との強い思いがガツンと冒頭から響くのだ。

 この6月には草笛さんが主演された、佐藤愛子さんのベストセラーを実写化した映画『九十歳。何がめでたい』が公開されるとのこと(本書には本作の撮影時のエピソードも紹介されている)。本書での闊達さを見る限り、この先も負けず嫌いな草笛さんの挑戦はまだまだ続くに違いない。そんな大先輩の「現在地点」の一冊、読まないわけにはいきますまい!

文=荒井理恵

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