「『お前は嘘のない言葉を言ってるのか?』と、問いを突き付けられた」 佐々木亮介(a flood of circle)×住野よる 『告白撃』刊行記念対談【前編】

文芸・カルチャー

公開日:2024/5/29

30歳を目前に、婚約した千鶴。自分への恋心をひた隠す男友達に告白させるため、ある作戦を立てるが……。そんな千鶴が愛してやまないバンド、それが著者・住野よるさん自身も大ファンだというa flood of circle。作中には、彼らが2017年に発表した「Honey Moon Song」も、物語の重要なカギを握る楽曲として登場している。
そこで『告白撃』の発売を記念して、住野さんとa flood of circleのボーカルであり作詞も手掛けられた佐々木亮介さんの対談が実現!「住野よる史上最も酒量の多い作品」とあって、お酒を飲みながらじっくり語り合っていただいた。

advertisement

取材・文:野本由起 写真:鈴木慶子

佐々木亮介(a flood of circle)×住野よる
『告白撃』刊行記念対談【前編】

「『100m離れた大人から見たらどうでもいいけど、本人たちにとってはこの世のすべてと思えるくらい大事なこと』を書きたい」(住野)

佐々木:前回の対談は2017年でしたよね。こうしてちゃんと話すのは7年ぶりか。

住野:僕は、年に何度もステージ上の佐々木さんを一方的に見てますけど(笑)。

佐々木:よくマネージャーから「住野さん、いらしてました」って報告される(笑)。俺も見つけることはあるんだけど、毎回わかるわけじゃないからね。まぁ、まずは乾杯しますか。

住野:僕は本を出すタイミングで、発売記念対談をさせていただくことが多いんです。お相手は小説家の先輩だったりします。今回の『告白撃』は登場人物が大人ばかりで、しかもみんなめっちゃ酒飲みなので、「酒飲み対談したいよね」って担当さんとの話から、佐々木さんに気軽に声をかけてしまいました。

佐々木:俺も読みながら、「酒、すっげえ出てくるな」って思ってた(笑)。あと、30歳の話なのも「おっ」と思いましたね。今回の話は、どういうところからできたんですか?

住野:いつも担当編集さんと酒飲みながら、どんな話にするのか決めるんですけど。

佐々木:へぇ、面白そう。

住野:担当さんのひとりが「親友が、自分のことを好きだとわかっている友達を結婚式に呼ばなきゃならなくなった」って話をしてて、めっちゃ面白いなと思って。「どうすればその人を結婚式に呼ばなくていいのか」って考えたところから、ストーリーができていきました。ただ、最初はフラッド(a flood of circle)の曲と絡めて考えてなかったんですよね。
 そういう経験をするのがどんなヤツらなのか、全然見えてこなくて、ずっと悩んでて。そんな時、代々木公園にフラッドのフリーライブを観に行ったら、そこに千鶴という女性が来ている気がしたんです。それでフラッドの大ファンというのをとっかかりに、千鶴がどんなヤツなのか一気に見えてきました。そんな千鶴はほんと女性担当さん受けが悪くて(笑)。

佐々木:俺も読んでて、女性受け悪そうだなって思った(笑)。

住野:本当ですか? 僕はずっと千鶴がかわいくてしょうがないです(笑)。

佐々木:それは伝わってきた。キャラクターにすごく愛がありますよね。デビュー作からそうだったけど、キャラクターが動いている感じがする。
 『告白撃』も、彼らの動きで物語ができているじゃないですか。世の中の動きだとか外的要因に反応して動くわけじゃなくて、当人たちの会話と関係性だけで最後までいくのが面白くて。架空の話だけどリアリティがあるし、自然なストーリー運びで余韻の残る終わり方にグッと来ましたね。しかも、それがマンガっぽいわけでもなく、文字でやることにすげぇ意味がある感じがして。そういう“住野よるスタイル”が完成してるんだなって思った……っていうと、なんか偉そうだけど。

住野:ありがとうございます。今言っていただいたことは、まさに自分がずっとやろうとしていることで。僕は、「100m離れた大人から見たらどうでもいいけど、本人たちにとってはこの世のすべてと思えるくらい大事なこと」を書きたいんです。そこを褒めていただいて、めっちゃうれしいです。
 僕の小説は「情景描写が少ない」ってよく言われるんですよ。でも、僕は景色を描いている暇があったら、人の心の動きを描写したいと思っていて。そういう気持ちが出ているんでしょうね。

佐々木:試したことはないですか? 情景描写だけで読ませてみようって。

住野:あります。ドライなほうがかっこいいんじゃないかと思っていた時期があって。でも、ウェットさに自分の個性があることに途中で気づいたんです。だから、『告白撃』はすごくウェットな小説になりました。

佐々木:俺も似たような悩みがあるんですよ。ウェットに振り切ろうと思うけど、これでいいのかって逡巡もある。歌詞を書く時も、「今、俺はエクスタシーに入りつつあるけど、客観的に見たらどうなんだろう」って考える。

住野:自分もめっちゃ思います(笑)。

佐々木:だから、読んでてちょっと気恥ずかしいぐらいのことも、住野くんが踏み込んで書いてるのがうれしくて。この気持ちよさに浸れるのは、エモさに振り切っているからだよね。じゃないと、フラッドの曲を使おうなんて思わないよ。誰がわかるんだよ(笑)。

住野:確かにバンド名や楽曲を、こんなに堂々と出していいのかとは一瞬だけ悩みました。でも、「いやいや、千鶴が好きって言ってるんだから」と思って入れることに。読者さんやフラッドのファンは、僕がフラッドを好きだから作中に出しただけだろうと思うかもしれませんけど、そういう理由ならもっと早くやってます(笑)。今回の場合は、「フラッドを好きなヤツがここにいるぞ」って千鶴を“見つけた”感覚なんですよね。

佐々木:住野くんの場合、日本のロックが好きってこと自体がキャラになってるよね。そうやって積み上げてきた中に、俺も置いてもらえてすごいうれしい。逆に、俺みたいなもんの名前を出しても、説得力が崩れないほど作品に力がある。そういう作家性があるんだろうなと思いました。

住野:ありがとうございます。例えば兼業で弁護士もやってる作家さんが法律の話を書くのと、自分がバンドについて書くのはあまり変わらないと思ってるんです。興味があるものを小説に生かしてる。

「千羽鶴に永遠。“有永千鶴”という名前に祈りを感じました」(佐々木)

佐々木:純粋な疑問なんだけど、キャラクターに自分を投影する部分もあると思うんですよ。でも、今回なら6人の登場人物がいるし、全員書き分けるのは難しいんじゃないかと思って。自分だったら全員俺になっちゃいそう。

住野:確かに、全員に少しずつ僕の要素は入ってると思います。ただ、基本的には「この話に誰が居合わせるか」という観点で登場人物を考えているんです。特に、今回登場する6人は、みんな陽キャというか根アカなんですけど。

佐々木:一軍感があるよね。

住野:でも、僕はバチバチの陰キャなので(笑)。僕自身を投影したというよりは、「フラッドが好きな千鶴の周りにいるヤツら」を考えていきました。

佐々木:これは自分の勝手な読みだけど、千鶴という名前は「千羽鶴」を想像するじゃないですか。で、苗字が有永。「永遠にある」ってことだよね。名前が祈りを象徴しているような気がして。この合理的な社会と折り合いつけながら、それでもピュアに生きていくって、もう祈りじゃないですか。
 恋愛だってそうだよね。恋愛相手に色んな条件を求めても別にいいけど、好きだって気持ちを抱くのは冷静でいたら無理だと思ってて。合理的な約束の上で成り立ってる社会だけど、逸脱した状態もありだし、きれいごとをピュアに言っちゃうヤツがいてもいい。有永千鶴ってそういうキャラだと思ったんだよね。

住野:ありがとうございます。愛はそういうものだって、僕は色んなバンドや小説家から教わって生きてきたので(笑)。だから、ああいうヤツらが生まれました。

佐々木:他にも曲があるけど、「Honey Moon Song」を使ったのは代々木で聴いたから?

住野:それだけじゃないんです。『告白撃』を2024年の話にしようと思ったんです。千鶴たちが2024年に29か30歳だとしたら、大学を卒業する前に出たアルバムが『NEW TRIBE』。その収録曲から選びました。千鶴たちが一生懸命アルバムの楽曲を耳コピして、卒業ライブで「Honey Moon Song」を演奏した。そういう設定が決まって、どうせなら行きつくところまで行ってやろうと思って佐々木さんの名前も出させていただきました。

佐々木:つまんないこと言うけど、シンプルにうれしかったですね。この曲書いてよかったって思いました。

住野:勝手に出しただけなのに、そう言っていただけると嬉しいです。

佐々木:自分はスーパーヒットソングがあるわけじゃないんで、音楽は形あるものだから永遠に残るなんて信じてないんですよ。俺の影響力なんてそんなもんだけど、住野くんに何かが伝わってこの小説が生まれたならうれしい。
 俺、開き直ってるところもあるんですよ。これまで何人もメンバーが辞めていったし、でも自分にはこれしかない。バンドを始めた時とか初めて音楽に衝撃を受けた時の祈りみたいな気持ちが、まだ自分にはずっと残ってるんで。ジョン・レノンの「Imagine」に感動して、今もニュースでガザの現状を見ながら「『Imagine』ってマジで何だったんだ」って思うんですよね。自分の祈りがこんなにパワーのある作品を書く人に響いて、それがまた別の誰かに伝わることがうれしかったです。

住野:色んな場所や人に伝わってほしいです。そのためもあって今回、ロマンチックなコメントまでいただき、ありがとうございました。

佐々木:正直にコメントしたら「うれしい」しかないんだけど、それじゃ面白くないから下心が出た書き方だったかもしれない(笑)。でも嘘は書いてなくて。実際、俺も住野くんに影響されていると思う。しょっちゅう会ってるわけじゃないし、「俺たちは友達で、お互いにチアアップしてきました」なんて言ったら嘘だけど、同じ時代を生きてる者同士だなって気はしてます。

書誌情報

最新小説『告白撃』について

告白撃
著者:住野よる
発売日:2024年05月22日

◆あらすじ
親友に告白されたい。そして失恋させたい。
かけがえのない友情のため、罪深い大作戦が幕を開ける!

三十歳を目前に婚約した千鶴は、自分への恋心を隠し続ける親友の響貴に告白させるため、秘密の計画を立てていた。願いはひとつ。彼が想いを引きずらず、前に進めるようになること。
大人のやることとは到底思えないアイデアに呆れつつも、学生時代からの共通の友人・果凛が協力してくれることになったが、〈告白大作戦〉は予想外の展開を見せ――。
ものわかりのいい私たちを揺さぶる、こじれまくった恋と友情!!

詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322311000546/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら

プロフィール

住野よる(すみの・よる)
高校時代より執筆活動を開始。2015年、デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、累計部数は300万部を突破。23年『恋とそれとあと全部』で第72回小学館児童出版文化賞を受賞。他の著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』、「麦本三歩の好きなもの」シリーズ、『この気持ちもいつか忘れる』『腹を割ったら血が出るだけさ』がある。乾杯するのが好き。

佐々木亮介(ささき・りょうすけ)
1986年、東京都生まれ。2006年にa flood of circleを結成、ボーカルとギターを担当。メジャーデビュー15周年となる今年3月に後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) プロデュース曲「キャンドルソング」が収録されたE.P.『CANDLE SONGS』をリリース。全国ツアー「CANDLE SONGS -日比谷野外大音楽堂への道-」を4月よりスタートさせ、8月12日に10年ぶりとなる東京・日比谷野外大音楽堂にてワンマンが決定。
http://www.afloodofcircle.com/