誰かの大切なものを壊してしまったとき、我が子にどう声をかける? 小学校入学前に身につけたいソーシャルスキル
公開日:2024/6/7
『しっぱいしたって いいんだよ』(主婦の友社)は、2022年に刊行され、4ヶ月で5万部を超えて版を重ね好調の『かっても まけても いいんだよ』の姉妹本。社会の中で人とうまく関係を築くための力である「ソーシャルスキル」を、お話を通して伝える絵本です。
大切な鉢を壊されてしまったガストンは…?
本作の主人公は、小さなユニコーンの子ども、ガストン。普段はレインボーカラーですが、「赤=怒ってる」「青=悲しい」など、気分によって色が変わるたてがみを持っています。ガストンは、何でもきちんとしているのが好き。この日はママと一緒に温室で植物のお世話をしながら、タネの袋の整理をしていました。
そこへ訪ねてきた、いとこのジョセフィーヌは、ガストンと遊べることに大喜びし、温室の中で飛んだり跳ねたりと大はしゃぎ。水やりをしていたガストンにぶつかり、きれいにしまっていたタネの袋を落としたので、ガストンはイライラ。ひなげしの鉢を落として壊したときには、「もう うんざりだよ!」と怒ってしまいます。
「ごめんね、ガストン。わざと やったんじゃないのよ」とジョセフィーヌが謝っても、ガストンのたてがみは真っ赤。カンカンに怒っているのがわかります。
家に戻ったガストンは、イライラして、今度は自分がジョセフィーヌの大好きなぬいぐるみにつまずいてしまい……。同じ失敗をすることで初めて相手の気持ちに気づくガストン。
落ち込んでいるガストンにパパは優しく語りかけます。パパはガストンに、謝ることの大切さ、相手を許すこと、失敗しても大丈夫と教えます。
失敗をされたほうも、失敗をしたほうも悲しい
ジョセフィーヌと同じように、自分も失敗したことで相手の悲しみを想像できたガストン。本書のいいところは、失敗された側だけではなく、失敗したほうも悲しい、ということを学べるところだと感じています。
物を壊されたほうはもちろん、誰かの大好きな物を壊してしまったほうだって悲しい。ですが、まだ小さな子どもたちにとって、相手の悲しい気持ちを想像するのは容易ではないはず。ましてや、自分が失敗してしまったという悲しみの中で、さらに相手に謝るという行為は、難易度が高いことかもしれません。
だからこそ、子どもたちは、ガストンの物語を通して相手の気持ちを想像し、繰り返し読み聞かせることで「わざとじゃなくても謝る」ことを覚えられるのではないでしょうか。
ガストンのパパは、「わざと意地悪をする人もいるから、そういう時は離れたほうがいい」とも伝えています。また、ママではなくパパがぬいぐるみを繕うという、フランスらしい多様性を配慮した描写も印象的です。
フランスの乳幼児セラピストが考案
児童心理学の専門家が書いたガストンシリーズは、子どもが自身の感情を体験する様々なストーリーを描いています。「失敗しても大丈夫」「わざとしたことではなくても謝る」ことは、我が子も保育園の時、園の先生からいつも言われていたことでした。きっと子どもの頃に誰もが通る道ですが、悲しいかな、大人になってからも「わざとじゃなくても謝る」ことができない人は少なくないような…?
失敗はこわくない、許しあうことは大事というメッセージを言葉で伝えるのはなかなか難しいもの。本書なら、ガストンたちの物語を通じて伝えることができそうです。
文=吉田あき