「ロリータは砂糖菓子しか食べない」に耐えかねてロリータでラーメン!自身の「好き」をめぐって葛藤する少女を描くマンガ
公開日:2024/6/16
おいしいものは人を幸せにする。一人で食べてもおいしいが、好きな人と食べると、もっと幸福度は増すだろう。『ロリータ飯』(岡野く仔/KADOKAWA)を読むと、そんな当たり前の幸せについて改めて考えさせられる。
主人公・鈴木なつ子は、ロリータ服が大好きな20歳の女の子。「ロリータは砂糖菓子しか食べない」との思いから、ロリータ服を着ている時、特にロリータ仲間と食事する時は、かわいくて甘いものを食べるようにしている。パフェやクロワッサンはたしかにかわいいけれど、20歳の胃がそれだけで満たされるわけがない。空腹に耐えかねてロリータ服を着たままラーメン屋に入店。思いきりラーメンを食べるのだった。
その後もロリータ服でカツ丼やハンバーガーを食べるなつ子。そこにたまたま居合わせたのが、大学の同級生の田中ふゆ弥だ。彼の好みのタイプは「ご飯をおいしそうに食べる子」。なつ子の素晴らしい食べっぷりを見たふゆ弥は、自然と彼女に惹かれ「一緒にご飯を食べたい」と思うようになる。そしてふゆ弥からアプローチし、2人で一緒にご飯を食べるようになるのだった。
本作の見どころの一つが、なつ子の食べる姿だ。食べる所作が美しく、おいしそうに食べる姿を見ているとこちらまでお腹が空いてくる。「いただきます」と「ごちそうさま」をきちんと言い、食べる時にスマホを触らず、心底食事を楽しみ、おいしくいただく。できそうで案外できない。彼女の食べる姿を見て、ふゆ弥が好きになるのも納得だ。
本作ではロリータファッションが取り上げられているが、服装と食事との関係は根深いものがある。高級レストランではドレスコードを指定しているところもあるし、食事をする場所によっては、その場の雰囲気や格式にふさわしい服装を求められることもある。なつ子が「ロリータ服を着ている時はかわいいものを食べなきゃ」と思うのも無理はない(結局ラーメンを食べるけども)。
なつ子の「好き」を大事にしようと葛藤する姿も注目すべき点だ。彼女はロリータ服がかわいいと思っているし大好きだが、好みは人それぞれ。ふゆ弥と初めてデートする際、どう思われるか不安で、ロリータ服を着て行かなかった。2回目のデートで勇気を出し、ロリータ服を着て行くも、通行人に偏見と悪意に満ちた言葉を投げかけられる。ただの通行人だが「一緒にいる男がかわいそう」と言われたことで、ふゆ弥に嫌な思いをさせるのではないかと悩み始めてしまう。
自分の好きなものや好きなことが誰かに受け入れられないのは、たとえ知らない相手だとしても傷つく。もちろんそんな言葉を投げかける方がどうかしていると思うが、自分の「好き」を肯定したい気持ちと「自分の好きを主張することで一緒にいる相手に嫌な思いをさせるのでは」と悩む気持ちで揺れるなつ子の姿に共感する読者は多いだろう。悩みながらも彼女がどんな道をたどっていくのか、ぜひ一読して見届けてほしい。
文=ネゴト/ すぎゆう