赤裸々に語られた内容に大反響の嵐!著書『美しく枯れる。』増刷続く―― 「降りたところでどういう競争を見せるか」玉さんインタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2024/6/4

「玉袋筋太郎のナイトスナッカーズ・リターンズ」、「町中華で飲ろうぜ!」などの番組で見せる自然体の姿で観る人を魅了する玉袋筋太郎さん。話題になった前著『粋な男たち』に続く5年半ぶりの著書『美しく枯れる。』では50代半ばを過ぎた現在の生活を赤裸々に綴っています。漫才コンビ「浅草キッド」の休止や妻との別居などといった衝撃的な事実を語りつつ、あくまで自然体。その心境をうかがってみました。

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聞き手:杉江松恋、撮影:塚原孝顕、場所:スナック玉ちゃん赤坂本店

著書『美しく枯れる。』増刷続く――
「降りたところでどういう競争を見せるか」玉さんインタビュー

――新刊『美しく枯れる。』は、前著『粋な男たち』もそうだったんですけど、ご自分のことが赤裸々に書かれていて、タレント本としては異例だと思います。前著『粋な男たち』に続いてKADOKAWAからの刊行になりますが、どういう経緯でお書きになられたものなのでしょうか。

玉袋筋太郎(以下、玉袋):『粋な男たち』からの5年半というものは、自分の中ではけっこう激動だったんですよ。声をかけてくれた編集者は50代に入ったばかりだったのかな。これからの人生、どう生きたらいいいんだ、というのは彼にもあったと思うんですよ。俺は55で、5歳違えば見えるものも変わりますからね。じゃあ、俺、それを書けるよって。なおかつ、成功譚は書いてないからさ。俺がずっこけてるとこしか書いてない。それこそ、村西(とおる)カントクの本じゃねえけどさ。「下を見ろ、俺がいる」って。そういったところもあるのかもしれないですね。

――そうやって読んでもらってもいいということですか。

玉袋:全然いいですよ。楽になると思う、そしたら。いや、もっと不幸な人もたくさんいると思うけどね。いるけどさ、玉袋筋太郎ごときであっても「悩んでんだぜ」っていうさ。酒飲んでラーメン食って「アーッ」とか言ってる俺もいるけど、「裏にはそういう光と影もあんだよ」っていうことを、ちょっと言いたかったのかな(笑)。

――『粋な男たち』でも、お父さまが亡くなった経緯とか、ご家族のことを踏み込んで書かれたということでびっくりしたんですよ。今回も浅草キッド休止の顛末や、奥様と別居された経緯など、包み隠さない姿勢は同じですね。

玉袋:「玉袋を隠してもしょうがないだろう」ってね。「見えちゃってんだろう、玉袋」という感じかな(笑)。

――過去の名著『男子のための社会のルール』(イースト・プレス)でも、銭湯で前を隠さずに自分をさらけだすことの大事さを書いておられましたね。露出といえば、スナックや町中華の番組へのご出演が多いので、玉袋筋太郎というとそっちの人というイメージが今はあると思います。

玉袋:俺はやっぱり「アサヒ芸能」とか「週刊大衆」とか「週刊実話」で育ってきたんですよ。大衆的なもの。スナックだって、来てるお客さんみんなむき出しだし。この店(取材の行われた東京・赤坂のスナック玉ちゃん)をオープンして、スナックは客と経営者の両面で見えるようになったのがすごい自分のためになりましたよ。「ああ、こうやってお客さんはスナックを楽しんでんのか」って、そういうのがわかるようになったことがね。町中華だってガキのころから行っているわけだし、なんにも進化してないってことなのかな。だって銀座のクラブでお金使って遊ぶとかさ、そんなことしてないもんね。

――『美しく枯れる。』は「さらけ出したまま枯れていく」ことを書いた本です。本の後半では「枯れていく」っことについて、ずっと語られていますね。

玉袋:枯れていきたいんですよね、たぶん。自己啓発系の本の、「頑張らなきゃいけねえ」って感じ、疲れちゃうんですよ。例えば、俺はお笑い芸人という形でやってるんですけど、お笑いのレースからもう降りてるから。「降りたところでどういう競争を見せるか」っていう。シニア陸上みたいな感じなのかな。老練なファイトというかさ。やっぱ引き込みだと思うんですよね、俺。引き込んでる。二十代を引き込もうとしたって無理だけど、四十代五十代、六十代の人は引き込んだらたぶん入ってくれると思うんですよ。引き込んだら極められると思うんですよ。寝技か(笑)。

――ガードポジション取ってるわけですね。

玉袋:そうですよね。立ち技はもう、できないもんね。

――賞レースにこだわらない在り方をされている一方で、漫才コンビの「浅草キッド」は現在休止中ですよね。その中で、どう芸人として生きていかれるのかに関心があります。

玉袋:これは本にも書いたけど、ナイツの漫才を袖で観たときに、忸怩たる思いはあったわけですよ。「いや、高田“笑”学校(高田文夫主催の企画)じゃ俺たちトリだったじゃねえか」って。そこの悔しい思いはすごいあります。

――高田さんは「毒蝮三太夫のポジションに行け」とお書きになってましたよね。

玉袋:それはちょっと言い過ぎだと思うんだけど(笑)。あとやっぱ、50代に突入した時点でまだいきっちゃって、「おらあ、浅草キッドだ」とか言ってんの、かっこ悪いなとか思って。それはそれ、もういいんじゃねえの、年相応のレスリングをすればいいんじゃねえのって感じもありますね。

――寄席に行くと「介護いるんじゃないかな」というお歳になっても、板の上でやってらっしゃる方もいらっしゃいますよね。そういう寄席芸人への志向みたいなものはないですか。寄席のピン芸人として、とか。

玉袋:なんか、板の上よりなんかやっぱ、一世風靡セピアじゃねえけど、「前略、道の上より」なんだよな、俺。たとえば店で近づいてったりとか、イジったりとか。俺はそっちのストリートファイト系だと思うんですけどね。たとえばヨネスケさんだって、ものすげえストリートファイターじゃないですか。しゃもじ持って。やっぱああいうストリートファイト系に憧れてたんですね。

――もともとお好きだったことからスナック愛好家とお店の連絡団体、全日本スナック連盟が出来て玉さんが会長になり、「町中華で飲ろうぜ!」(BS-TBS)が始まって、メインの出演者にもなりました。ここ数年の流れは、どうやってできたものですか。

玉袋:前から「スナック玉ちゃん」のイベントやってて、勝手に「全日本スナック連盟会長・玉袋筋太郎」って名乗ってたら、周りの人が「おもしれえじゃん」って乗っかってくれたものなので、種はまいてたんでしょうね、でも、実際にはプライベートで遊んでいただけのことだから、それが繋がっていくっつうのはおもしろいですね。特に目標にしていたわけじゃないものが、後から形になるというのが俺は素敵だなと思うんですよ。

――ガツガツいってないというのが。

玉袋:とにかく俺は、「やらかしちゃってんな」っていうのが苦手なんです。やらかしちゃってる人っているじゃないですか。「ああ、やだね」「やだなあこりゃ」「付き合えねえなあ」って人はいっぱいいますよ。俺、威張ってお店に入っちゃうやつとか嫌いだから。都築響一さんが素晴らしいこと言ってて。「スナックはおじゃまするところだ」って。それは全てに俺、通ずるもんだって思いますね。

――良い言葉ですね。

玉袋:やっぱ「おじゃまします」って行くのが一番いいと思いますよ。お客も受け入れる店も、すごく気持ちいい関係ができるじゃないですか、一瞬で。その一瞬が好きですよね。

――「どうやって他人にも楽しんでもらおうか」みたいな共生の考え方が玉さんのお書きになっているものや、お話には共通していると思います。『美しく枯れる。』はまさしくそういう本で、読者の心に沁みる、普遍的な要素があると思います。

玉袋:「もっと馬力入れてやれよ」っていう声もあるかもしれないよね。「そんな枯れんじゃねえよ」とかさ。「だけど、枯れてくんだから。言ってるお前だって」っていうことなんだよね。

――第1章でプロダクションの分裂に際し、水道橋博士と別れて玉さんがフリーでやっていくことを選ぶ話が出てきます。そのときの意見の違い、やり始めたところで最後まで運命を共にするという博士の考え方も、独立してやっていける姿を見せるのが本当の恩返しだ、という玉さんの考え方も、どちらも間違ってはいないと思うんです。

玉袋:やっぱ殿(ビートたけし)が抜けるって話になって。で、俺たちが残る意味がないんですよ、会社に。「それなりにやってきたんだから、俺たちだけでやっちまえばいいじゃねえか。」って話ですよね。二人の力合わせりゃさ、俺だけのファンじゃない、博士だけのファンじゃない、一つになって、エネルギーがバーッとあったと思うんですよね。あのとき俺、50なるかならないかぐらいですね。ちょうどいいじゃないですか、キャリア的にも。浅草キッドの居場所もあったし、やればなんかおもしろいことになったんじゃないかなと思ったんだけど、それはできなかったですね。

――僕は寄席芸人の世界が好きなので、出世した姿を見せるのが師匠への恩返し、という玉さんの姿勢にはやはり共感するものがあります。意見の違いから一人で活動するようになった。それはちょうど50代の頭くらいからですよね。そこで人生観が変わったりしたものってありますか。

玉袋:なんつうのかな。滅入っちゃいますよ、本当に。不安でしょうがないっすよ。でも、店もあったし。その責任感もすごいあって。その間にいきなりコロナが来ちゃうでしょう。そういう中で、「燃え落ちちゃうぎりぎりに脱出ポッドがあった」みたいなのが、町中華だったりして。それでも、不安は不安ですよね。メンタルはかなりやられてました。

――そうですか。

玉袋:うん。だって、そのときに女房いなくなっちゃったりするわけです。

――大変だ。この本では別居の顛末も詳しく書かれていますね。

玉袋:もう大変ですよ。やっぱお店もあったし、一緒にやってる仲間もいたし。そういった人がさ、やっぱ支えてくれたっていうのはでかいですよね。あと、こっちの業界のこと知らないおじさんたちとかと、風呂行って酒飲んだりとかしてんだけど、そういった姿見てると「ああ、こだわってる自分が小さいんだな」とか感じることもありましたよ。そうやって、じっと辛抱して5年間やってきた溜めが効いたのかな。大人になったなと思いますよ、俺は。もうちょっと溜めてもよかったけど。溜めすぎたらやっぱり、もう潰れちゃうかもしれないもんね。だから、ちょうどいいときに本のお話をいただいたと思います。

――前著でも自殺したお父様のことを書かれたのは、やはり溜めていたものを抜くという意味もあったんでしょうね。

玉袋:それはあった。あれも溜めてたもん、やっぱり。今でもふっと思い返したりしますし、逆に、「今、生きてたらどういうふうに俺が接してただろう」とか、そういうふうに切り替えますけどね。生活に余裕もできてきて、ちょうどこれからっていうところだったからね。それは本当に悔しかったですよね。

――さっきも話に出ましたが、奥様が家を出て、ずっと別居状態になっている、と明かされたことも衝撃的でした。あれからずっとひとり暮らしですか。

玉袋:ひとりっすよ。独房ですよ。今、懲役、今年で7年目です。最初はきつかったっすけど、もうスーパーの買い物も自分でサッと行っちゃうしさ。「サミットは12時までやってんな」とか、そういうこともわかるし(笑)。

――前著もそうですけど、本当に玉さんはプライベートをさらけだしますよね。

玉袋:玉袋筋太郎が風呂行って前隠してたらダメじゃないですか。「ごらんくだせえ」っていう感じでやってるほうがいいのかなって思いまして。フジテレビの「NONFIX」以上、リアリティショー以下。ダメな人間がいっぱい出てくる「NONFIX」ほどじゃないけど、「自分リアリティショーを見てください」って感じなのかな。「ショー」をつけるとエンターテインメントになっちゃうから、削って「リアリティ」。「リアリティでいいんじゃないかな」って思ってます。

――この本には、大事な人と別れるとか、そういうことがいっぱい出てきますよね。50代半ば以降というのは、そういう年齢なのかもしれません。玉さんの現在と今後のお話をお聴きしたいんですけど、無理をせずにやっていけている感じなんですか。

玉袋:どうだろう。町中華だって、あれだけ飲ったらさ、二ヶ月に一度の検査で数値はガンガン上がって「「やばい。命削ってるな」ってことになってるしさ。スナックだって、毎日は顔出せないよ。それをやったら死ぬな(笑)。友達のスナックのママなんか、毎日顔出してお酒飲んでんですから、リスペクトしますよね。このお店は「全日本スナック連盟やってる限り、旗艦店がないとダメだ」っていう気持ちで始めたんですけど、すごい喜びがあるんですよね。たとえば、一見さんでポンと座ってる人とボンと座ってる人が、俺を介して会話が成立して、デュエットしちゃったりとかさ。ああいうの見てると、すごい幸せですよね。だから、スナックに関しては「ぬるめの半身浴だ」って俺よく言ってんですけど。混浴で入ってる。そういう感じを目の当たりにしてるのが好きですよね。で、町中華は町中華で、お店の夫婦2人で一生懸命やり遂げるっていうかさ。その姿が本当ピカピカしてかっこいい。「ピカピカしてる」って、実際は店はボロボロですよ。床はヌルヌルでさ。別に俺、大谷(翔平)じゃなくてもいいもん、スターは。大谷もすごいけど、ラーメン屋の親父のほうがかっけえとか思ったりするわけですよ。

――これからやってみたいことというのはありますか。

玉袋:どうなんだろう。願っていると来ないかもしれないしね。なんかやってりゃ、そのうち来るんじゃないですか。スナックと町中華と、ラジオ(TBSラジオ「えんがわ」)ですね、仕事といえば。もちろん、スナック玉ちゃんもずっと続けていきますよ。これは一つの長いステージだと思ってるから。毎日変わる、俺の舞台ですよ。あとは孫かな。孫と乾杯できる日まではがんばる。今2歳だから、あと13年かな。

――いや、もうちょっとかかりますよ(笑)。

玉袋:って、そういうギャグも今はうかつに言えなくなってんだよね。俺にとってはどんどん生きづらくなってる。生きづらくなってはいるんだけど、それでもどうにか玉袋筋太郎なんて名前でもう40年近く生きてますからね。なんとかやっていきたいと思いますよ(笑)。

作品紹介

美しく枯れる。
著者 玉袋 筋太郎
発売日:2024年03月28日

美しく枯れていくための、「玉ちゃん流・人生後半戦の歩き方」
「50代を生きるって、とても大変で、難しい。それでもオレは、美しく枯れていきたい」

前作『粋な男たち』から約5年半余りのときを経て、著者・玉袋筋太郎を取り巻く環境は激変した。

2020年、オフィス北野から独立しフリーに。
兄弟弟子である「たけし軍団」から離れ、「浅草キッド」の相棒である水道橋博士、師匠であるビートたけしとの距離も遠のいた。

初孫という新しい命に喜びを感じながらも、母親は認知症を患い施設に入った。
長年連れ添った妻は、ある朝、家から出て行った……。

仕事の人間関係、夫婦仲、家族構成にも変化が訪れる、波乱万丈な50代――。
「時代遅れ」な昭和の粋芸人が語り尽くした、悩めるすべての大人たちに捧ぐ、人生後半戦の歩き方。

●目次
はじめに――50代を迎えて、オレの人生は激変した
第1章 人間関係って大変だよな
第2章 「発酵」した50代の仕事観
第3章 夫婦ってなんだか難しい
第4章 新しい命と消えゆく命とともに
第5章 「人生」のこと、考えてみよっか
おわりに――美しく枯れるために

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