大学生の恋愛事情、その解像度と共感度が爆高! 再会した男に沼った女子大生を描くノンストップラブコメ『付き合えなくていいのに』
PR 公開日:2024/7/15
驚くほど趣味嗜好が一致する、顔が好み、思い切って誘うと一緒に遊んでくれる――こんな相手が近くにいれば、十中八九好きになる。
『付き合えなくていいのに』(イララモモイ/小学館)は「共感度爆高(ばくたか)ノンストップ・ラブコメディ」というキャッチコピーの通り、「わかる!」と感じる読者が多い作品だ。恋愛をテーマにしているが、ハイテンションなギャグと明るいノリも楽しく飽きさせない。
また、大学生というものを高い解像度で描いているため、現役の学生から、社会に出て結構経っている人まで共感できること必至。かく言う私のような大学を卒業してウン十年の人間でも「こんなだった……こんなやついた……」と読んでいて何度も深く頷いてしまった。
物語は、女子高出身の清水絵梨子が大学に入学したところから始まる。絵梨子は、冒頭に書いたような男性・北山時彦と中学以来の再会を果たす。
思い出の人と再会し、恋して沼る!
絵梨子は、どのサークルに入るか迷っていた。同じ女子高の友人・美玲は「イケメンの多い所一択!」「最もモテやすい大学1年の4~6月に出会いを死ぬ気で求める!」と鼻息が荒い。ふたりは年齢イコール彼氏いない歴なのだ。
とはいえ、絵梨子は恋愛に憧れはあっても特別気になる相手はいないため現実感がなかった。軽音部の新歓コンパに行くまでは。そこには、中学3年生の時に絵梨子と同じクラスだった北山がいた。彼とは、とても些細だが印象深い思い出があった。
彼女が大好きなバンドを北山が好きだったという偶然も重なり、運命を感じた絵梨子は、軽音部に美玲と入部して北山とバンドを組むことに。時には彼とふたりでつるむようになり、絵梨子は北山を好きだとはっきりと意識する。思いを秘めたまま、ふたりはスマホでメッセージを送り合い、好きなバンドの聖地巡礼という名のデートをする。
絵梨子は思い切って、付き合っている相手の有無を聞いた。北山の答えは「いないよー」だった。後ほど美玲とハイタッチする絵梨子。ここから、さらにアクセルを踏んだように物語が加速していく。北山がどんな人間なのか明かされていくのだ。彼は音楽好きで、着ぐるみを着るバイトをし、天然でフワフワしているようで気づかいもできる。ただ、誰にでも優しく、付き合う気のない女性に友達以上の空気を提供しているようだ。あまり深く考えずに異性と手をつなぐこともある(絵梨子も普通に手を握られる)。天然ゆえなのだろうが、女性からするとたまったものではない。絵梨子でなくても、北山という沼にハマっていきそうである。
そんな北山は1つ上の先輩・遠藤詩歌の家に頻繁に出入りしていた。付き合っていないとすると一体どういう関係なのか。絵梨子は彼といる時に詩歌とたまたま出会い、ふたりが先輩後輩の間柄だと聞く。どう見てもただならぬ関係で納得できない。さらに彼女は絵梨子と違って陽キャで気さく、おまけに顔良しスタイル良しという、SNSで被写体をやるような女性だったからだ。
はたして、絵梨子と北山の関係はどうなっていくのか。
なお、第2部で描かれるのは高校時代の詩歌。太っているだけで悪口を言われ人間関係がうまくいかず、さらに家族にまで指摘され落ち込んだ彼女は、唯一の癒しであるSNSで交流する“黒猫さん”と会う約束をしたことでダイエットを決意する。一方、詩歌と“好きな曲の歌詞に似た出会い”をしたバンド大好き男子・北山は、詩歌のことが気になり始めていた。ダイエット、そして出会い。様々な状況が好転するかと思った矢先、親友が自分の悪口を言っているところに鉢合わせた詩歌は、抑えていた感情が溢れ出し……。
自己肯定感、低いか高いか。共感度爆高の登場人物たち
本作の魅力のひとつはキャラクターだ。やはり何といっても主人公の絵梨子。最初は恋愛に消極的だった彼女が、中学時代ひそかに特別だった北山と再会してから恋愛一直線になる。自分から「恋人はいるのか」と聞き、デートに誘い、詩歌には自分が北山を好きだと伝えることもできた。
絵梨子は、成長したというより最初から自己肯定感が低すぎないヒロインだ。絵梨子の目の前で、自分と同じように北山が詩歌と手をつなぐところを見て思わず「誰にでもあーいうことをするんですか」と問い詰めもする。私はクヨクヨしすぎず、自分で物語を進めていく主人公は大好きなので、読んでいて応援しがいがあると感じた。
この先、物語は絵梨子と北山の周囲の登場人物たちを描き、急展開を見せる。特に、北山とは先輩後輩として仲が良い詩歌に注目だ。男性目線だと理想的な女性に思えるが、先述の通り、太っていることで悪口を言われ、唯一の癒やしはSNSという人間関係に悩んだ高校時代を送っていた。そんな詩歌を描いた第2部も見逃せない。
本作は笑いを交えながら、ハイテンポでぐんぐん進むラブコメディだ。読み始めれば止まらなくなり、気づくと単行本を読み切って現在連載中のWeb更新も追うようになるだろう。そうなったあなたは、もうこの作品に“沼って”いることに気づくはずだ。
文=古林恭