閉鎖病棟で快方へ向かうも「希死念慮」が押し寄せ……。人気漫画家の実体験に見る“うつ病”のリアル
PR 公開日:2024/6/20
うつ病は深刻で、誰もがかかりうる。厚生労働省は「日本人の約15人に1人が一生のうちにかかる」(※)と指摘。学校や職場、人々が行き交う街中を眺めても“そこにいる誰か”が、今まさにうつ病に苛まれている可能性があるのだ。
キャリア30年以上のベテラン漫画家・相原コージさんは、うつ病を経験した当事者の1人だ。その顛末を記録したシリーズ作品「うつ病になってマンガが描けなくなりました」(双葉社)は、コミカルなタッチで描きながらも、ときには“死”にも直面したうつ病の怖さを赤裸々に伝える。
直近で、過去の「発病編」と「入院編」に続く「退院編」を刊行。本業の漫画家としての仕事はもちろん、日常生活すらままならなくなった著者が、閉鎖病棟での“戦い”を経て退院するまでを描く。
■看護師の「なんで首吊ったんですか?」に回答できるまでに
本書ではうつ病が快方へと向かい、笑顔を取り戻した著者が「一時退院」などを重ねて退院、日常生活へと再び戻るまでの軌跡をたどっている。
かつて「独房のような陰湿な保護室」にいた著者も「個室」へ移るのが許され、ひいては病院の「庭を散歩」できるまでに。院内のコンビニでチョコを買い、至福の表情を浮かべる著者を見て“うつ病を患うと、そんな日常すらも失われかねないのか”と気がつく。
共に庭を歩く“ちょっと変わり者”の看護師・新沼さんがふと「なんで首吊ったんですか?」と、著者の過去を掘り下げる場面は読者としても“ドキッ”とすること必至。ただ、直後に「どうかしてたんだと思います」と回想する著者の表情からは、心境の変化も読み取れる。
以降、看護師の付き添いなく庭を散歩できるようになり、同じ立場の患者たちとも交流しながら、著者は徐々に笑顔を取り戻していく。
■やがて「外泊」も許されて。しかし、押し寄せる希死念慮…
しかし、日常生活を“完璧”に取り戻すのは難しいとも痛感。著者が一時的な「外出」を経て、迎えに来た妻と共に自宅への「外泊」を許可された際の体験談は、うつ病の怖さが伝わってくる。
自宅への道中、駅のホームで電車を待つ著者は不安をおぼえる。かつて、深刻な症状を抱えていたときのように、電車が来たら「発作的に自分が飛び込んでしまうのではないか」と「希死念慮」に駆られてしまう場面は、ひどく切実だ。
外の世界は刺激も強く、病院が「いかに安全で守られていて不安を感じずに済む空間」だったとも実感する著者。それでもやがて、念願の退院の日を迎えた。
ただやはり、日常生活がすぐ取り戻せるわけではない。「うつの残り滓(かす)」が残っていると通院時に医師から指摘された著者は、少しずつ自身の生活パターンを取り戻そうとする。
本書にあるのは、著者の体験にもとづくうつ病の“リアル”だ。一連の流れをたどってから「エピソード」で描かれた顛末も必見。当たり前の日常生活がいかに貴重かと、考えさせられるはずだ。
文=カネコシュウヘイ