みうらじゅん、収集した“いやらしいグッズ”の数々は将来的にどうする?【インタビュー】

文芸・カルチャー

更新日:2024/7/10

みうらじゅんさん

「マイブーム」「ゆるキャラ」の名付け親であり、イラストレーター、漫画家、エッセイストとして幅広く活躍するみうらじゅんさんは、様々なジャンルのコレクターとしても知られる。このほど、そんなみうらさんのコレクションの中でもエロに特化したアイテムを紹介する新刊『通常は死ぬまでに処分したいと思うであろう100のモノ』(文藝春秋)が登場。一体どんな思いでこれらのモノを集めたのか――あらためてお話をうかがった。

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●「まるごと不適切」で連載を大幅改稿

ー本書は『夕刊フジ』での連載をまとめた一冊とのことですが。

 一応まとめたもんなのですが、かなり書き直したんで新聞に掲載されたやつとは随分違います。連載のタイトルは「いやら収集」で、収集したいやらしいものばかりを紹介していくものなんですが、このご時世もあってね(笑)。

ー若干不適切とか、そういう?

 若干どころか、不適切な表現はかなり書き直しました(笑)。俺は『週刊文春』の連載だっていつも事前とその後に4回くらいは書き直しているんですよ。書き直しストなもので。気になっちゃうんですよね。うまく伝わるかどうかが。

ー連載でもそこまで書き直しているのは驚きです。

 10人にわかるところをせめて20人にしようと思うと書き直さざるをえなくなって、さらに20人から30人、30人から40人ってなっていくんです。ひらがなの「みうらじゅん」が浮かぶ人への書き方と、浮かばない人への書き方は違うでしょ? そこは気をつけてます。

ーでは『夕刊フジ』はどうだったんですか?

 基本的にエロいほうが喜ばれると思ってますしね。でも、連載当初に扱ってた「大人のおもちゃ」的なネタは今回、単行本にするに当たり全部のけました。できる限り「エロともとれる」っていう感じのものばかりを選び、さらに加筆しました。たぶん1/5くらいは書き下ろしたと思います。でもやっぱり気になるんですよ。写真は載せてるけれども「何がおかしくてこれを買ったのか」というとこが一番重要ですからね。タイトルには「死ぬ前に処分したいと思うモノ」ってあるけど、こっちは一応「ほしいから」買ったわけで。捨てるために買ったわけじゃないということをうまく説明しなくちゃ、単なる「無駄遣い」をしてる人になっちゃうでしょ?(笑)。

ー前書きに「こんな値段のこれを一体、誰が買うんだ」(略して「こんこれ」)という迷いがやっぱりあって、そこから「私が買うべきだ」と自分洗脳をしていくとありましたね。

 こんこれを買ってこその私ですからね。流行っているものを買っても仕方ないんですよ、僕の役は。だから、こんこれコレクションは確信犯なんです。きっとホントのホントは欲しくないと思ってますよ(笑)。

ーえ!? そうなんですか(笑)。

 いや、もう自分洗脳してますから欲しいです(笑)。もうひとりの人格、ひらがなのみうらじゅんは欲しくて堪らないです。

●こっちからぶっ飛んで行かないと好きなものには出会えない

みうらじゅんさん

ーモノを見つけた瞬間は、両方の自分がいるんですか?

 初めの頃は漢字の三浦純が「これはいらないだろ?」って止めにかかったもんですが、今はもう完璧に自分洗脳ができてますから、チープであればあるほどそのグッズは欲しいです。世間から言わすと無駄遣いでしょうが、それが何千、何万って数になるともう、匠です。でも、今でもレジに運ぶときは半信半疑なんですよ。グッズたちが「買えるのか、お前は?」って僕の度量を試してる気がします。だから、とりあえず買うんです。

ーあえて向かっていくんですね。

 こっちからぶっ飛んでいかないと好きになれませんから。好きになる起爆剤としてはやはりお金を使わなきゃです。「あれ変だよね」の一言で済ませたら決して好きになんてなれませんから。それが、「こんなに買ったんだったら、絶対好きに違いない」って自分を追い込むんですよ。

ー「これを好きになってみよう」で始まるんですか?

 ですね。好きなものが向こうから飛び込んでくるのは10代までですよ。だから「少し気になる」程度のものをこちらから引き寄せるというか。気になったらとりあえず買っておきます。その後、それがマイブームになる可能性がありますから。

●コレクションの行方なんて知ったことじゃない

みうらじゅんさん

ーこの本のタイトルの「と思う」を見逃して、一瞬終活の本なのかとも思いました。

 終活ではありません。収集活動、収活です(笑)。よく「コレクションは将来どうするんですか?」って聞かれますけど、そんなこと知ったことじゃないと思ってなきゃ、モノは集まりませんからね。

ーそれでは、これからも「こんこれ」をキープするんですね。

 いや、こんこれをキープする以外に僕のやることはありません(笑)。「こんなのばっかり持ってたら不安だろうな」って言う方もおられるでしょうが、でもこんだけ集まったら僕の場合「不安タスティック」ですからね。

ーモノの中には三浦少年時代のものもありますよね。

 それはキープオンじゃなく、ループオンですね(笑)。ずっと同じネタを愛し続けていますから。

●気になることの好き嫌いをやめる

ーところで今は何かと「不適切」と言われて、エロが書きにくいことはありませんか?

 逆に言えば不適切なモノに希少価値が出るんじゃないでしょうか。その不適切っていう大きい枠の中には、実は今にない面白いこともありますから。とはいえ僕自身は前から「不適切だな」って思ってわざと書いてたところもあって。妙な上品さが僕にはあってそれがエロに対するコンプレックスだったんです。昭和のガハハ親父的な下品さって本当はすごく苦手で。でもね、「仕方なく気になること」というのは、苦手だからってこともあるわけですから、僕、あるときから「気になることの好き嫌いをやめよう」と決めたんです。だから、好き嫌いを取り除いてただただ「気になるモノ」を買い出したんです。

ー好き嫌いを超えた「強度」みたいなものですかね。

 そこに当然、発生する「後ろメタファー」的なもの。世間で不適切って言われるモノには「後ろメタファーの面白味」みたいなものがあるんですよ。

ーその自覚があるから不適切の隙間を書けるのかもしれませんね。

 こういうものを所持している後ろメタファーの気持ちが書きたいと思ったんです。

ーそして本書がその「最新版」なわけですね。

 後ろメタファーがたっぷり出てると思いますよ(笑)。親元にいる頃だったら「もうお前にはお小遣いやらん!」ってめっちゃ叱られるものばかりですから。

みうらじゅんさん

取材・文=荒井理恵

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